PERSONS
THE INTERVIEW 嶋崎 雄斗/Yuto Shimazaki feat. 佐々木 健雄
YouTube で「打楽器」と入力して検索してみると、まず最初に出てくる動画チャンネルが「嶋崎雄斗」!
チャンネル登録者数約19.5万人、公開動画数600超、総再生回数8700万回超(いずれも2022/3/18 現在)を誇るチャンネルの運営者であり、打楽器ユーチューバーの先駆けでもある嶋崎雄斗さんと、動画編集を担当されている佐々木健雄さんにもリモートで参加いただき、動画配信のきっかけから撮影の裏話まで、根掘り葉掘りお話を伺いました。
取材:ジャパンパーカッションセンター 山田俊幸&西尾健二
※この記事は2022年4月10日発行「JPC 172号」に掲載されたものです。
打楽器奏者の中ではかなり早くからYouTubeでの活動をされていたと思うんで
すが、どのようなきっかけで動画配信を始められたんですか?
嶋崎(以下嶋):動画撮影自体は、子どもたちのレッスンの様子を撮ることから始めたんです。
僕は子どもたちのレッスンには、保護者の方にできるだけ見学していただきたいと考えてるんですが、仕事の都合などで見学できないという方がいらっしゃるわけです。で、考えたのが、動画を撮って、見てもらうっていうやり方。DVDなどのメディアに焼くとかいった面倒な手法を使わずに、気軽に動画を見ていただく方法としてYouTubeを活用し始めたんです。
最初からオープンな形でチャンネル運営されていたわけではないんですね。
嶋:そうですね。あくまで保護者の方に見ていただくためのもので、限定公開でアップした動画のURLを各ご家庭にお知らせするという形での運営でした。
その後、せっかくチャンネル持っているんだから、録画していたコンサートの様子を編集なしで公開するようになり、さらに、自分で作曲した作品の参考動画あったほうが良いよねっていうことで、自分が作曲や編曲した曲の演奏動画をこれも無編集で…。
楽譜の販売につながれば良いなぁ~なんていうよこしまな気持ちからやってました(笑)
では、その後現在のような形で本格的にYouTubeの活用に取り組み始めたのはどうしてなんですか?
嶋:もともとアカウントが古かったということもあって、チャンネル登録者が数年かけてじわじわ増えていって、気づいたら1000 人超えてたんですよ。
そんな状態になったときに、今ではすっかり相棒となった佐々木さんを始めとするYouTubeに詳しい人たちが、「これ収益化出来ますよ」「もっと本格的にやったら良いんじゃないですか?」「嶋崎さん向いてますよ!」って、背中を押してくれたんですよね。
それがだいたい4 年ぐらい前のことですね。
そもそもお二人はどういったつながりで、どんなきっかけでチームとして活動をし始めたんでしょうか?
佐々木(以下佐):話すと長いですねぇ(笑)
嶋:佐々木さんは、僕の恩師である、ピアノとかソルフェージュ界では超有名な佐々木邦雄先生の息子さんです。
だから、初めましては佐々木さんが中学生で僕が高校生くらいのときかな、音大受験のためにソルフェージュ教室に通ってたんです。
そこの先生が佐々木さんのお父様だったっていう。
お互い存在は知っていたとしても、ほとんど会話なんかしたこと無く、まあ、思春期真っ盛りの男の子同士ですから、すれ違っても何かあるわけはないですよね(笑)
で、プロとして活動初めてから、お父様の仕事にゲストみたいな形で呼ばれるようになって、そこの現場でお手伝いされていた佐々木さんと再会!
では佐々木さんは特別打楽器に携わっていたというわけではないんですね。
佐:そうですね。ピアノもやってないですし、全く違う畑から父の会社に入って...。
嶋:実は、佐々木さんの方から「本格的にやるんだったら編集とかやりますよ」って言っていただいて。じゃあおねがいしま~すって(笑)
佐:で、今に至ります(一同笑)
ちなみに佐々木さんは、嶋崎さん以外の方の動画の編集もされているんですか?
佐:そうですね。それこそ嶋崎さん経由というか、嶋崎さんを知ってる方から声をかけていただいて。今だと4 ~ 5 人位定期的にやらせていただいています。嶋崎さんがいなければ今の自分は無いっていうふうに思ってます。
嶋:わっはっはっはっは~!(得意満面www)
YouTubeを拝見させていただいくと、純粋に演奏を見せるもの、楽器・機材の紹介、企画最優先のおもしろ動画の3種類に大別できると思うんですが、撮影内容のアイデアはどんなところから湧いてくるんですか?
お話を伺う前におすすめいただいたメレンゲの動画とか、全部フルで見させていただきましたが、めちゃくちゃ面白かったです。
嶋:メレンゲは音楽関係者や同業者からの評価が高いですね。でも、体力的に辛かった!(笑)
動画配信を本格的にやるって決めたときから、曲目に関してだったらYouTubeに特化しようって決めていて、できるだけ自分の趣味で選ばないように意識はしてますね。
その割にカービィ多いですよね
嶋:それはですね、最初に演奏動画をアップしようとしたときに妻が言ってくれた、「あんたそんなにカービィ好きなら、カービィの曲演奏してるのYouTubeにアップすればいいじゃん」の一言がきっかけです。そうか、それ良いな!って。
まずこれがバズったっていうのがあって、僕としては、自分が大好きなカービィで、しかも自分の演奏でこんなに見てくださる人がいるんだっていうことが、めちゃくちゃうれしかったんですよ。そういうのもあって、自分の中ではそこが原点ですね。ネタ探しはに関しては、基本的に学生の頃からやっているようなことを、そのままトレースしてる感じなんです。
メレンゲの動画も、じつは昔から仕事でやってたことなんですよ。
パート入れ替えて初見で演奏してみるというアイデアも、学生の時打楽器アンサンブルでそういう遊びやりませんでした?っていうのをそのままやったら面白いかな、しかもプロがやったらどうなるんだろうっていう。
学生ノリの延長って良いですよね。やっぱ、学生時代が一番バカできるし、その頃の純粋に楽しんでた気持ちを今でも持ち続けているってすばらしいことだと思います。
嶋:やっぱ、楽しかったですよね!大学入ってからボンゴとかバスドラムとか知りましたからね、マリンバしか知らなかったから(笑)。
こんな面白い楽器いっぱいあるんだ!っていうのをYouTubeでも同じように伝えたいんです。
字幕の入り方も面白いですよね。字幕は動画素材を見てここでこういうのを入れたほうが良いっていう感じなんでしょうか?
佐:そうですね。映像見て、ここはこんなのあったほうが良いな、奏者は多分こんな事考えてるんだろうなっていうのを想像したり、そんな感じで。
字幕があると動画が生きてくると思うんですよ。字幕で面白おかしくする、表情豊かにする、より訴えかけて来るものにする。
最近、そこはより強く意識するようにはしてます。
そんな意識が、色んな人に理解してもらえる動画になっているんだろうなって感じます。打楽器に詳しい人にとっては当たり前過ぎて言語化出来ないようなところが、しっかり丁寧に説明できてると思います。そうだよね、わかりやすいんだよねっていうところが一般の方に広がっていく理由なんじゃないかって思います。
そういう意味では、チャンネルのキャッチコピーにある「ほら、打楽器ってこんなに面白い!」っていう部分がすごく伝わる内容になっていると思います。
嶋:嬉しいです!でも、たまに炎上しかけるこもありますけどね。
例えば、棒付きキャンディでマリンバ演奏できるのか?っていうのを検証するっていう動画をアップした時「食べ物を粗末にするな」とか、「楽器壊すつもり?」「そんな硬いものでマリンバ叩いちゃだめ」とか、お叱りの言葉をいただいたんですけど、そういったコメントを以降の動画に活かして企画を考えたりします。
別の捉え方をすると、なにも知らない人に対して、「それ使ったらだめ、それをやったらだめ」っていうことを理解していただくきっかけを与えることになるかもしれませんね。動画の意図を事前にしっかり説明することは必要ですけどね。
もしかしたら、どこまでやったら壊れるっていうような動画があっても面白いかもしれませんね。
嶋:そういうレクチャーになるような動画もあって良いかもしれないですよね。
ネタってこういう楽器屋さんとか、同業者との雑談から生まれることってホント多いですよね。
動画再生回数が伸びた明確なきっかけって何かありましたか?
嶋:アニソンやボカロやゲーム音楽といったサブカル的なジャンルの演奏動画を上げた時です。
その勢いを更に加速させたのは、やっぱコロナ禍ですね。その影響は大きいと思います。
最初の一年間はすごかったです。僕自身もやることがなく、ほぼ毎日更新してたりとか、そのおかげで伸びたっていうのは感じてます。
でも、まあじわじわと伸びたっていう印象ですね。youtube長く続けるコツはそこをあまり気にしないことです。
最初に伸びたのはカービィコンチェルトかな。自分も好きだしやってよかったなって思います。
後は、クラシック速弾きメドレーも伸びたかな。
佐:これ再生回数伸びるだろうなって思って作ったやつが全然伸びなかったりすることありますね。
嶋:ありますありますそれはやっぱり作る側の思いが強すぎちゃったり。そういう動画は伸びないんです(笑)
だから、JPCの取材した動画とか心配です…。めちゃやりたいって思って作ったから。
伸びるだろうなって思ったものが伸びない。
嶋:動画が見てもらえないのって、動画の中身の問題じゃない可能性もあります。まず見てもらうため、ポチってして貰うにはタイトルとサムネイルが大事です。見られてからバズるかどうかは内容が重要ですけど。
自分が興味があるものや、思いが強い内容だと、自分としては良いタイトルだと思うけど、他の人には刺さらないなんてことに成りかねないんです。そこを考えるのがすごく難しい。
大袈裟なタイトルつけすぎるとタイトル詐欺になっちゃうし。
そのあたりの塩梅が難しいんです。
YouTube って画面上にたくさんの動画が一覧でずらーっと並んでますから、いかにスクロールの手を止めてもらうかっていうところです。
そういう意味では、サムネの作り方も編集作業の大事な部分ですね。
編集の話が出ましたが、いろいろな種類の打楽器の音が重なって録音された状態の音源をうまくまとめるために苦労していることとかありますか?
そこまでやらないと作品として見せるレベルにはならないってことでしょうか?
佐:ほとんどの人はそんなに気にならないと思うんですけど、自分がすごい音にこだわりというか、音質だけは絶対引けないとこがあるので、何回も聞いて、一番許せるところを探してます。
そういう部分でも、打楽器に特化してない人が、純粋に音楽として良いものを作ろうって考えているからのが良い物ができるんでしょうね。
嶋:僕もはじめは周波数のことなんか知らなかったし、ここの音だけ上げたほうが生音に近づくよって言われたり。今では佐々木さんが調整してくれてることがわかっているので、何と言うことはないですけど、最近ではバスドラの音が実際より小さく感じるから上げてくれます?とか、そういったやり取りとかしてますよね。
後で聞くと、あれ?実際に演奏していた時とバランス違うぞってこともあって、その辺のことに佐々木さんがしっかり応えてくれるので、ホント助かってます。
佐々木さんは録画の現場には立ち会ったりするんですか?
佐:たまにですね。演奏動画に関してはほぼほぼ立ち会ってないですね。
嶋:ほんとにたまにです。どうしてもカメラワークが必要なときとかお手伝いしてもらったりします。
演奏動画に関しては、打楽器アンサンブルを録画する時にはビデオカメラ1台、マリンバの速弾きや2 ~ 3 重奏を録画する時にはスマホ1 台で撮るといった具合に楽器編成で使い分けています。
じゃあマイクはカメラのマイクだけ?!!!! カメラのマイク一発だと編集大変ですね
佐:まあ、そうですね。ほんとはマイクそれぞれ立てたいんですけど、設置に時間とか手間かかるし、できるだけ簡単で良い音が採れるっていう。もちろん音編集前提なんですけど。
ちなみにカメラって?
嶋:Zoom Q2N。佐々木さんに「このカメラ良いですよ!買ったらどうですか?」「じゃあ買います!」っていう(笑)
動画の編集ソフトは何を使用されているんですか?
佐:編集ソフトとしては最もポピュラーなAdobe Premiereです。
じゃあ、普通に誰でもできるってことですね。知識と技術さえあれば
佐:技術というよりは、地道な作業の繰り返しですから、そういう環境に耐えられるってことが大事かな。
ずーとやってられます。
編集のスタートは実際に録画を確認してからだと思うんですが、作品として組み立てていくためのルーティーンってあるんですか?
佐:演奏動画に関しては、僕の中に嶋崎さんの動画に対するテンプレートがあって、予め音量はここを上げておこうとか、カメラの特性を考慮してここはこうしようっていう。あとはヘッドホンとかスピーカーで聞いて最終調整っていう流れになります。
何回も何回も聞いて気になるところは抑えたり上げたりしますね。
動画自体の編集はどうでしょう?
佐:企画モノなんかは、切った張ったの嵐です!
全部見て不要な部分をカットして、もう一回見てカットしてっていうことの繰り返しです。
かなり地道な作業です。
最後にアクセントというか、BGM 付けて、効果音付けて、テロップ付けて、また見て、また切って、ほんとその繰り返しですね。
嶋:出来上がってきたものを見て僕からも「ここカットしてください」とか「このテロップ付けてください」とかダーッと送って、その対応もしていただいているので、僕が撮影にかけてる時間の比じゃない時間かかってるんだろうなって思って、めちゃ感謝してます。
企画物の動画のときは、絵コンテ的なものは用意しているんですか?
嶋:初期にはしてましたね。今は経験も積んで、ここでカメラ切ったほうが編集が楽だろうなとか、喋りの部分を練習してから撮影始めたりとか。でもまあそうですね、シナリオは作って無くても大体の流れは決めてから撮影始めます。
著作権を始めとした権利関係についてはどうですか?下手にやったらまずいんじゃないかなとか考える人も多いと思うんです。
嶋:いまは、YouTubeで著作権関係は包括契約とかしてるので、昔よりゆるくなってる気がしますね。
CDそのまま流したりはまずいと思いますけど、編曲モノとかはメロディラインをいじらないでくださいとか、変な和音入れないでくださいとか、各会社が出してるルールにさえのっとっていれば、問題ないことが多いですね。
佐:僕も昔よりかなりゆるくなったって感じてます。
最後になりますが、嶋崎さんの動画をみて、自分でも動画配信チャレンジしてみたいなと思っている方に、なにかアドバイスがあればお願いします。
嶋:とりあえずなにか始めて見るっていうのが良いと思いますよ。
続けていくうちに経験を積み重ねて自分の中でテンプレが出来上がってくるでしょうし。
YouTubeに動画をアップしている人はいっぱいいるんですけど、皆んな「自分」のやりたいことをやっちゃってるんですよね。
YouTubeのキャッチコピー「好きなことで、生きていく」の呪いと呼ばれています。
人によっても違うとは思いますが、喋りが上手い人だったら編集必要ないかもしれませんし、演奏動画だったらまずはスマホで撮って無編集であげちゃってもいいと思います。
特に若手の人たちにはどんどんチャレンジしてほしいですね。
■嶋崎雄斗 / Shimazaki Yuto
マリンバ奏者・ドラマー・パーカッショニスト
1986年7月15日生まれ。千葉県習志野市出身、東京都練馬区在住。
幼少よりマリンバを、中学よりドラムを始める。 武蔵野音楽大学音楽学部ヴィルトゥオーソ学科、同大学院ヴィルトゥオーソ・コース卒業。 在学中より都内を中心にプロ活動を開始し、各種パーカッション、オーケストラ、吹奏楽などオールジャンルの演奏家として日本各地 で演奏を行う。 電子マリンバ「malletKAT」モデルプレイヤー。
これまでに打楽器を磯田裕美、高橋美智子、重奏を高橋美智子、吉原すみれ、中谷孝哉、 ソルフェージュを佐々木邦雄の各氏に師事。
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■佐々木健雄 / Sasaki Takeo
大学卒業後一般企業に勤めた後、家業の音楽教室(ケーエスミュージック)に従事。
企画・運営・コンサートや講座の映像編集・ライブ配信を担当。
音楽教室に加え、嶋崎雄斗YouTubeチャンネル他、撮影・編集を行う。
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YouTubeチャンネルで演奏協力してくれているのはこの方々!
■東京 percussive pedia武蔵野音楽大学出身の打楽器奏者たちによる打楽器アンサンブルグループ。
「笑いと感動の打楽器アンサンブル」をテーマに、クラシックからジャズ、ロック、ボカロまで幅広いジャンルの曲を打楽器アンサンブルで演奏すると共に、ぬいぐるみアンサンブルやエアドラムなどのパフォーマンスを取り入れたプログラムで日本各地のイベントに出演。
嶋崎雄斗YouTubeチャンネルでは演奏動画や打楽器のチャレンジ企画に度々参加。
現在のメンバーは嶋崎雄斗、嶋崎友紀、磯田日向子、松葉侑、小林孝彦、冨岡春絵、松澤美希の7名。
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