Noriko’s small room
のりこの小部屋 第二回|マリンバソリストになるには

JPCMAGをご覧の皆様、こんにちは。マリンバ奏者の塚越慎子(つかごしのりこ)です。
新年度を迎え、新たな気持ちで夢や目標に向かっている方も多いと思います。
私もたくさんの目標がありますが、いつか皆様に実際にお会いして語り合える場があったらいいなぁ、という夢も描いています!
さて、今回のテーマは「マリンバソリストになるには」
第2回目にして、なんと大きなテーマ!
明確な答えは私もわからないのですが、私がいただくお悩み相談でとても多いテーマのひとつなので、少しでもご参考になればという気持ちで、まずは私の経験や感じたことを何回かに分けてお話できたらと思います。
「マリンバソリストになるには Vol.1」
ソリストに最も必要なことはなんですか?というよく質問をいただきます。
あまりにいろいろなことが必要だなと感じるので、あれもこれも、、、ととても悩んでしまうのですが、
私の感じることは、圧倒的な練習量と勉強量、
そして、それをやり通す精神力と根性が不可欠だなと感じます。
演奏家というのは、演奏依頼をいただきコンサートを行う、という仕事になりますが、ソリストとなると、
- ソロコンサートのご依頼をお受けする
- プロオーケストラ等の団体からコンチェルト等のソリストとして招かれる
- テレビやラジオの音楽番組のゲストとして招かれる
他にもさまざまな内容のものがありますが、多くは「ソロコンサートのご依頼をお受けする」ことになります。
全国各地の音楽ホール、市町村、財団法人、イベント会社などからお話をいただき、その多くのコンサートは2時間のコンサートになります。ときに60分コンサートだったり、90分コンサートだったり、MCも多めでお願いされたり、少なめでお願いされたり、
一切のMCを入れない依頼をお受けすることもあります。
その依頼された時間を、お客様に楽しんでいただけるようプログラムを組んでいくわけですが、そのプログラム作りも、自分がやりたいものをやるのではなく、主催者のご意向やご要望に沿った内容を充分に考えた上で、さらに自分でしかできないこと、自分らしさを加え、“唯一無二”のプログラムを作ります。
ソリストは、自分自身の名前でお客様がいらしてくださるので、代役は効きません。「他の奏者でもよかった」ということがあってはならないのです。
主催者からは、それはそれは様々なご意向やご要望が届きます。それは大変ありがたいことで、そのご意見があるからこそ、コンサートの方向性、客層にぴったり合ったコンサートを作り上げることができます。
大事なことは、それに応えられるだけの幅広く、深い知識、レパートリー、アイデアがソリストには必要で、それがないとプログラムを組むことさえできません。
ここが自主企画のコンサートだったり、仲間同士のコンサートとの大きな違いでもありますね!
さて、プログラムが決まったところで、練習に入るわけですが、ここのストイックさが本番の成功を左右すると言ってもいいと思います。
たとえよく演奏されるようなとても有名な作品でも、先にも言及した通り「他の奏者でもよかった」ではだめなのです。
「この人の演奏は、ひと味もふた味も違う」
「この人でしかできない演奏」
と思っていただける演奏を目指すため、一からひとつひとつの音符の意味を探す作業を始めます。
そして、多くは2時間コンサート(途中休憩時間あり)になるので、曲数も多くなります。
例えば、皆様が試験やコンクールなどで人前で弾くときに、たくさん練習すると思いますが、その演奏時間がもし10分の演奏だとしたら、単純計算で10倍ほどの演奏量になります。
さらにご依頼をいただく頻度も、多いときで年に50~
そして、試験やコンクールと大きく違うことは、お客様がいらっしゃり、お客様はコンサートが素晴らしいものになるだろう、と期待を込めて、貴重なお金と時間をかけて聴きに来てくださっている、ということ。
“「お金」を前払いしてくださっている”
“お金で買うことができない最も貴重ともいえる「時間」を費やして来てくださっている”
そして、
“一度でも期待に沿っていない演奏をしてしまったら、もう二度と来てくださらないかもしれない”
という緊張感や責任感、
それを常に心に留めておければ、たとえ寝る時間や食べる時間がほとんどなくても、練習に没頭できる気がします。
私は第1回目のコラムでも申し上げた通り、学生の頃はマリンバ奏者を目指していたわけではなく、就職して企業に勤めたいと思っていたわけですが、どんなときも今、目の前にあるやらなくてはいけないことを誰よりも頑張ろう!と思っていました。
学生であれば、勉強することが仕事。
学校での毎週のレッスンはもちろん、プライベートでもレッスンに通い続け、年に2〜3回は海外のマスタークラスやアカデミーに参加していました。
コンチェルトの課題を出されたら、翌週のレッスンには全楽章弾けるようにしていたり、学生の頃から常に5〜6曲の練習を同時進行で行っていたので、
年に20〜30曲ほど勉強をしていたと思います。
そして、打楽器だけでなく他楽器の一流の方々の演奏会にも頻繁に足を運び、絵画や演劇、ダンス、歌舞伎等々、他の芸術も見聞きすることで視野を広げ、自分の感性を磨こうと必死に勉強していました。
そのすべての事柄が、「ソリスト」として演奏を生業としている現在につながっていると感じます。
私には弦楽器、管楽器、歌、邦楽器、作曲など、本当にさまざまな楽器の“ソリスト仲間”がいますが、その誰もが並外れた努力家です。
また、芸能界の友人も、通常では考えられないようなスケジュールをこなしながら、台本を覚え、“唯一無二”の演技をされています。画家の友人も、ダンサーの友人も…
そして、準備期間のとてもつらく、投げ出してしまいたい厳しい状況も決して表に出さずに、周りを気遣える人、気遣いの塊のような人が、第一線で活躍されている人の共通点だな、と感じ、私も常に心に留めています。
少し長くなってきましたので、話の続きはまた次回!
◇ ◇ ◇
塚越 慎子|Noriko Tsukagoshi プロフィール
パリ国際マリンバコンクール第1位をはじめ、ベルギー国際マリンバコンクール、世界マリンバコンクールなど国内外のコンクールにて数々の賞を受賞し、多くの作曲家・演奏家から信頼される、現在最も注目を集めるマリンバ奏者の一人。
国立音楽大学を首席で卒業。同時に「武岡賞」受賞。また、最優秀生として皇居内桃華楽堂にて御前演奏を行う。
これまでに、第8回 日本クラシック音楽コンクール打楽器部門第1位(1998年)、第2回 国際マリンバコンクール(ベルギー)第2位(2004年)、第4回 世界マリンバコンクール(上海)にて「The Talent Award」(2005年)、第22回 日本打楽器協会新人演奏会にてグランプリ(2006年)、第2回 パリ国際マリンバコンクール(フランス)第1位(2006年)等を受賞。
ソロ活動の他、読売日本交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、広島交響楽団、群馬交響楽団、宮崎国際音楽祭祝祭管弦楽団、パシフィックフィルハーモニア東京ほかと共演し、高い評価を得ている。
ドイツ、ベルギー、スイス、ポーランド、アメリカ、イギリス、アルゼンチン等で、ゲストアーティストとして招かれ、ソロリサイタルやマスタークラスを、また2009年には世界最大の打楽器フェスティバルであるPASIC(国際打楽器協会インターナショナルコンヴェンション)においてマリンバソリストとして出演するなど、国際的に活動する傍ら、国内においても、ソロリサイタル、オーケストラとの共演、アンサンブル、アウトリーチ活動等に加え、
NHK「バナナ♪ゼロミュージック」、「ららら♪クラシック」、NHK-BS「クラシック倶楽部」、NHK-FM「ベスト・オブ・クラシック」、「きらクラ!」、「リサイタル・ノヴァ」、日本テレビ系「ナカイの窓」、テレビ朝日系列「関ジャニの仕分け∞ 2時間スペシャル」、「題名のない音楽会」、「ポルポ」等、テレビ・ラジオ、雑誌のメディアへ多数出演するなど、幅広い活動を行っている。
デビューCD「DEAR MARIMBA」は、レコード芸術誌で『特選盤』に選ばれ、その後オクタヴィアレコードより「Passion」をリリース。ジャズ・ピアノの巨匠、山下洋輔から絶賛される。その後の「伊福部昭”ラウダ・コンチェルタータ”、セジョルネ”マリンバ協奏曲”」は、全国の新聞各紙に大きく取り上げられ、話題を呼んだ。
2022年、デビュー15周年を迎え「Cantabile」をリリース。レコード芸術誌において『特選盤』に選出され、レコード・アカデミー賞受賞。
2012年、出光音楽賞受賞。長い伝統と権威あるこの賞の歴史で、初めての打楽器の受賞者となる。
国立音楽大学、洗足学園音楽大学非常勤講師。YAMAHA、米・Innovative Percussion契約アーティスト。