tucchie's Taiko Strange Story
つっちーの「太鼓奇談」第五回|夏フェス
※この記事は2014年10月10日発行「JPC 142号」に掲載されたものです。
みなさん、どうも。JPC 会報与太話担当のつっちーです。今月も皆様の貴重な時間を無駄に使う時間がやって参りましたw
普通連載と言うものはきっと、依頼がある時に「一年間の連載でお願いします」的な、何となくでも終りが見えている筈なのですが、この連載は依頼を頂いてから今この瞬間まで終りの時期が全く知らされていないまま続いており、近い将来、深刻なネタの枯渇に襲われる事必至ですw
まぁ、僕自体が全く先の見えない人生を歩んでいるので、別にどうって事はないんですけどね。’ ` , 、( ‘ ∀ ` ) ‘ ` , 、
さて、今回はなんのお話にしようかと、本気でネタ探しに困った訳ですよ。
周りにいる人は簡単に「夏フェスの事書けばぁ~」なんて言うんですけどね・・・あちこちで書かれている気がしてどうも気が乗らない訳です。
イヤね~。あまのじゃくなんだから。でも、折角だからちょこっと今年の夏フェスの思い出話を書いてみようかな。
まず、今年バックラインクルーとして参加させて頂いた夏フェスは、苗場・フジロックのグリーン・ステージ、夢の島ワールド・ハピネスのメインステージ、サマーソニックの大阪オーシャンステージ、山中湖スイート・ラブ・シャワーのレイク・サイド・ステージの三つです。同じローディー仲間ではもっとたくさんのフェスに参加している人も多いですね。僕らはフェスで何をしているかと言うと、現地楽器クルーとして、レンタル屋さんに雇われて、各バンドから発注されたレンタル楽器を山の様に現地に持って行き、安全に電源を確保して、各出演バンドに電源を供給して、出番が終われば次のバンドへのセットチェンジ~バラし~次のバンドの仕込みサポートなど、やる事は山ほどあるのです。
なにせ、フジロック、サマソニの様に海外のバンドが出るときは各国の電圧で電源を用意しないといけないので、最低でも、日本(100v)アメリカ(117~ 120v)イギリス(240v)と言う様々な電圧がステージ上に常に準備されている訳で、しかもそれは絶対に安全にクリーンに供給されていないと行けない訳ですネ。電位差があると感電して事故が起こってしまいます。
そして、そのフェスのヘッドライナー、いわゆるトリを飾る超メジャーバンドともなると、機材はケーブル一本から全部持ち込みな訳です。11t トラック5 台60t 以上の機材を海外から持ち込む訳です。その内訳は楽器、照明、音響機材の他に、プロダクションと言って制作チームのコピー機や、楽屋用のコーヒーカップまで様々です。楽屋をアーティスト用に作り替えるカーペットなども含まれています。それらを迅速に限られた時間で組み上げるのはもちろん機材と一緒に来た10 ~20 人くらいのクルーがやる訳ですが、そのでっかい外人に混じって僕らもステージ上でわいわい働く訳ですね。中には荒くれ者も居るし、ヤケに面白い奴も居れば、大人しい人、凄く感謝してくれて、クルーTシャツをくれたりする人、様々です。そこらへんは日本も変わりありませんね。世界各国、色んな国の同業者に会える楽しい時間です。
中には英語がそんなに得意ではない国の人も来ます。
そういう時はステージ裏でお互いビミョーな英語と身振り手振りでコミュニケーションを取って、ステージが終り、彼等が持ち込んだ機材も忘れ物無くトラックに放り込んだあと、一仕事終えた安堵からか、ガハハ~! と笑い合いハグして、再会を誓い合ったりもします。
そういえば、これはちょっと嬉しい話ですが、フジロック2日目のヘッドライナー、アーケイド・ファイアーと言うバンドのプロダクション・マネージャー(クルー達のまとめ役)が、こんなことを言っていました。
「20 人のアメリカ人クルーを雇うより、4 人の日本人クルーを雇った方が仕事が速い」
とても光栄な言葉だと思いました。その時、バンドの機材は結構多くて、正直「こりゃ大変だなぁ」と思っていたのです。
照明さんも、音響さんも同じ気持ちでした。
ところがフタを開けてみると、日本人クルーは実に効率よく素早い仕事をしていました。
色んな海外のツアークルーに「Japanese Crew is NO1! 」と言う評判をされる理由だと思います。勤勉で、過酷な労働を厭わず、素早く安全に。大事な事です。
でも、やはり、ロックツアー発祥のアメリカやイギリスにはまだまだ敵わない部分もたくさんあります。何せ機材のほとんどは海外製品ですし、ワールドツアーを回るうちに出来てきたノウハウ、機材には学ぶ事が多いです。
そんな中、健闘しているのは日本製のドラムセットだったりします。国内メーカーの楽器をビッグアーティストが持ち込んできた機材に入ってるとなんか嬉しいものですね。
海外からやって来たドラムテックとステージ裏でドラム談義する事もしばしばあります。
夏フェスをやるにあたって、その準備期間はひと月前から始まります。事務的な楽器発注などのやり取りはもっと前から。
僕らは開催日のひと月前位から招集をかけられて、自分の担当ステージを決めるミーティングを重ね、そこからデカい倉庫へ山のような楽器を移動し、各ステージ毎に仕分けをし、楽器やアンプのコンディションを確認し、ドラムセットなら指定のドラムヘッドへ張り替えたり、ハードウェアの異常を確認したりします。ヘタすると30~40セットものヘッドを張り替えるハメになります。ドラム見たくなくなりますw
良くフェスの現地クルーの仕事してると聞かれる事に、「あのバンドのドラムもつっちーがチューニングしたの? 」と言うのがありますが、僕はフェスで呼ばれる場合、楽器全体をフォローする事が主体なので、よっぽど頼まれない限りチューニングに手を出す事はありません。
電源を引いてあげたり、ギターアンプをケースから出してセットしてあげたり、もう色んな事を手伝います。でも、いつだかのフジロックでは、アークティック・モンキーズのドラムテックが熱中症でぶっ倒れちゃって、急遽ドラムテックを頼まれたり、スタントン・ムーアのグレッチ・キットをスタントン・ムーアのものと知らずに組んでいたら、スタントン・ムーア本人が来て、「あ~! ごめんごめん、手伝いにくるの遅れちゃって! ありがとうね! バッチリじゃん! やったねw 」
なんてこともありましたw
今をときめくバンドやスター・ドラマーを至近距離でそのプレイを聴ける、見ることができるのは僕らの特権かもしれませんが、そんなにゆっくり観ている時間などある訳も無く、だいたいはステージ裏でその演奏を聴きながら仕事している事が多いです。
どんなに僕らや乗り込んできたツアークルー達が万全を期して仕事をしていても、全く歯が立たない様なこともあります。それは野外フェスにつきものの、「天気」です。
今年、夢の島で行われたワールド・ハピネスは僕の経験したフェス史上最悪の土砂降り暴風雨でした。中止にならなかったのが不思議な位です。あの暴風雨の中沢山集って頂いたお客様にも本当に大感謝ですが、その最悪の条件の中、出演アーティストが誰ひとりとして、「やめた!」と言わずに、素晴らしい演奏を繰り広げていたのが感動的でした。
僕が担当していた高橋幸宏さんの二つのバンドでは、幸宏さんの最強晴れ男パワーのおかげで大事にならなかったのですが・・・一生思い出に残るフェスですね。
その後、山中湖で開催されたスイート・ラブ・シャワーでは、現地クルーもやりつつ、初日のトリを飾る矢沢永吉さんのドラムテックとして働きました。
ここでも雨に降られましたが、そこはキング・オブ・R&Rの永ちゃんです。
レイニー・ウェイと言う大雨大嵐の歌を、「雨よ、雨よ降れ、もっと・・・この俺に」と歌えば、大観衆が降りしきる雨の中、拳を振り上げ大盛り上がりし
て、矢沢さんの背中からは、冷たい雨が本人の体の熱気で蒸発する湯気が出ている程熱いライブを繰り広げていました。
次の日には隣のステージで山下達郎さんのLIVE!
圧倒的な演奏力を持つバンドと達郎さんの大名人クラスの歌唱力、そして、特別ゲストに竹内まりやさん!
素晴らしいの一言に尽きます・・・
どれも思い出深い熱い記憶としてあの場に居たお客様の心に刻まれる事でしょう。
人は何か大変な仕事をやり遂げたとき、予期せぬアクシデントがあった方がより深い思い出として刻まれると言う事が誰にもあると思います。大雨の中、夢の島でトップバッターを飾ったPUFFYのお二人は吹き付ける暴風雨の中、「これから~わたし達は~いい感じ~」といつも通り歌い、全く動じないLIVEを魅せてくれ、これぞROCK 魂だ! と妙に感動したりしました。
何だか書き始めてしまえば色んな思い出があった今年の夏でしたね。過酷な天候と戦い、色んな仲間と苦楽を共にした夏フェスが全部終わり、一番幸せなのが、這々の体で家に帰り、家族が迎えてくれ、お風呂と暖かい食事、そして自分のベッドで、明日の事を何も考えずに眠る瞬間が何とも言えません。今年も残すところ数ヶ月となり、そろそろ来年のスケジュールもちらほら送られてきます。来年も忙しくなりそうな予感は置いておき、今はつかの間ののんびりした時間を、秋の匂いとともに楽しみたいなと思います。
ではまた! 皆さんお元気で!
■つちだ“つっちー”よしのり プロフィール
1969 年生まれ。11 歳の頃YMOの高橋幸宏に衝撃を受けドラムを始める。現在はフリーのドラムテック&ローディーとして矢沢永吉や、凛として時雨、高橋幸宏(YMO)、サカナクションなどのツアーやレコーディングに携わっている。
自身のバンド254soulfoodでは地元のクラブ鶴瀬パオパオで定期的にLIVEを行っている。
プレイヤーとしての参加作品はHARRY「BOTTLE UP AND GO」本園太郎「R135 DRAFT」など。
蕎麦と落語と読書に酒、煙草好きの堅太り。
執筆者:土田 ”つっちー” 嘉範
編集:JPC MAG編集部