From the percussion room of the world
世界の打楽器部屋から Vol.11|ロシア・ウラン・ウデ 齋藤梨々子
世界各国で活動されている日本人のみなさんを「打楽器」というキーワードで、それぞれの生活スタイルや現地の情報など、その土地目線でレポートしてもらう紀行シリーズ第11回目。
今回はロシア・ブリヤート国立オペラ・バレエ劇場/Buryat Opera and Ballet Theaterで活躍中の齋藤梨々子さんに寄稿して頂きました。
※この記事は2020年1月10日発行「JPC 163号」に掲載されたものです。
現地情報
- 国:ロシア
- 地域:ブリヤート共和国/ウラン・ウデ
- 日本との時差:-1時間
- 生活言語:ロシア語(英語は通じない)
◇ ◇ ◇
●ブリヤートってどこ?
ロシア連邦を構成する共和国の一つで、モンゴルの真北辺りのところにあり、モンゴル系民族「ブリヤート人」と「ロシア人」が半々の割合で暮らしています。またこの劇場は数少ない東シベリアの歌劇場で、戦後ロシアに抑留された日本人の方々が中心となって1953 年に建てられました。「なにがあってもこの劇場だけは壊れない」と言われているそうです。
オケの団員は地元の芸術大学やイルクーツク、モスクワの音大などロシア国内で勉強した人がほとんどです。外国人奏者はわたしたち夫婦以外にほぼいませんが、前バレエ監督が岩田守弘さんだったこともあり日本人ダンサーは6 人います。
金管のみ軍楽隊からトラを呼ぶこともあります。「足りないから呼ぶ」というよりは、うまく分担しながら日々仕事をしているという感じです。ティンパニ・打楽器はわたしを含め3 人なのですが、なぜかトラを呼ぶことはなく、手が足りなくてもがんばるスタイル(笑)。レパートリーは、バレエもオペラも古典的・定番の演目ばかりで、欧米で流行りの現代演出などもほとんどありません。ただ「麗しのアンガラ」などブリヤート文化に根差した作品もいくつかあり、そのほとんどが太鼓が大騒ぎするのでちょっと大変です(笑)。また、子どものための演目もたくさんあります。
●どんな生活なのか?
オペラやバレエの本番を月に約12 ~ 13 公演行っています。11 時-14 時,18 時-21 時が本番のない日の勤務時間ですが、夜のコマはないことも。10月までは10 時-13 時の方が生活しやすいのに…と思っていましたが、最近寒さが本気を出し始め、11 時からで本当によかった、、と思います。朝が1 番冷え込むのです。最近は-20℃の中出勤しています!お休みは週休1日と7月~ 8月中旬のシーズンオフ。これは外国人として働く身としてはとてもありがたいことです。毎年6月にはシベリアツアー公演も行っているほか、モスクワの劇場などで客演をすることも稀にあります。飲み会などはありませんが、誕生日の団員がいたりすると楽屋で祝います。もれなくウォッカ付き。「乾杯!」はロシア語で「ウラァーーー!」。おそロシアです。
●現地で使用している楽器はどんなもの?
この劇場にある管打楽器はYAMAHAさんがほとんどなのですが、この街で個人が楽器を買う場合によく利用されるThe Musical Arsenalという楽器店(打楽器専門店ではない)のHPを見てみると、大きな打楽器はADAMSが目立ちました。
お値段についてですが、物価の安いロシアでも(打楽器に限らず)楽器はかなり高いです。これは、楽器がほとんど「輸入品」だから。ロシアのお給料で楽器を買うのはとても大変なことです…!
●なぜ極寒の地、シベリア?
夢を叶えるためです。わたしは小さい頃からバレエが何よりも好きで、音楽ともバレエとも関われる仕事をしたかったのです。日本には劇場というものが無いに等しいので、海外…?わたしにそんなこと、あるんだろうか…と、漠然と大きな夢を抱いていました。せっかく入ったドイツの大学院を中退するという大きな決断もありましたが、目の前にある、夢を叶えるチャンスを逃したくなかったのでご縁のあったここへ来ました。
音楽のこととおいしいごはんを作ることだけを考えて過ぎていく、シンプルで贅沢な毎日をとても幸せに感じています。知られざるシベリア音楽生活を今後も何かの形で発信していくつもりです!
音楽に限らずシベリアでの生活がどんなものなのか皆さんに知ってもらうために、Tp.奏者として働く夫と日々ブログも書いているので、よろしければのぞいてみてください!
https://www.tomotrp.com
齋藤(旧姓:安倍)梨々子 プロフィール
1994 年生まれ、神奈川県逗子市出身。
東京藝術大学音楽学部を卒業後、ドイツのフライブルク音楽大学修士課程にて学ぶ。2019 年9月ブリヤート劇場打楽器奏者に就任。第15回PASイタリア国際打楽器コンクール小太鼓部門第1 位。Percussion Treeメンバー。
これまでに打楽器を杉山智恵子、藤本隆史、安江佐和子、宮崎泰二郎、Håkon Steneの各氏に師事。
※この記事は2020年1月10日発行「JPC 163号」に掲載されたものです。内容は掲載当時のままとなっておりますので予めご了承願います。
執筆者: 齋藤 梨々子