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2025年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲パーカッションセクションへのワンポイントアドバイス

毎年恒例、課題曲のワンポイントアドバイス!今年もNHK交響楽団首席ティンパニ奏者の植松透透氏にお話を伺いました!課題曲について植松氏独自の観点から深掘りしていただきました!今年も植松節たっぷりです!
取材:パーカッション・シティ川原、本山
Ⅰ 祝い唄と踊り唄による幻想曲 / 杉山 義隆
前奏は味わい深いですね、冒頭のシロフォンのマレットは柔らかくする必要はなくて、いわゆる普通に使っているマレットだったり、頭が木のマレットを使うとステキな音がすると思います。
マレットを選ぶときに、シロフォンの人だけでマレットを決めるのではなくて、同じ動きをしている、トランペットと平行線ではなくて、1番溶ける音、フレーズの中に溶け込んでいるマレットを選ぶと良いと思います。
もし色々なマレットを持っているならば、トランペットの人たちと1つ1つ試してみて、フレーズや、トランペットと1番溶けるマレットを探す、この試す作業を楽しんでやってみてください。ただし、音が溶けているのと音が聴こえないのは全く別なので注意しましょう。
2小節目のシロフォンのリズムは1拍目が8分音符、2拍目が3連符、4拍目が16分音符とだんだん速くなっています。
イメージとしてはボールが跳ねるイメージがいいと思います。
高いところから落ちてきてだんだん速くなって、どんどん速くなっていくこの感じを音楽にできたらステキだなと思います。
マレットを探すのと一緒で、トランペットとシロフォンが一緒に練習する様にしましょう。もちろん楽譜に書いてあるリズムは尊重するべきだとは思いますので、規則正しく早くなりすぎてしまうと、それは音楽ではなく効果音になってしまうので注意しましょう。
シロフォン側の感覚で言うと、マレットによっても緩くなっていく方向に行きたくなるようなマレットだったり、正確に刻みたくなるようなマレットであったり、それぞれ乗りが違うということも発見できると思います。
みんなで探してたどり着いた答えが、それが合っていようが間違っていようが、それはきっと皆さんの宝になるはずです。なので是非楽しんで探す作業をしてみてください。
3小節目のスレイベルは8分音符が誰もいなっくなってしまう所に『スレイベルです!!!』と主張激しめに演奏をしてしまうと皆んなは『え?』ってなってしまいます。
この様な演奏をしてしまうと、それはスレイベルの音にしかならなくて、スレイベルの人は前からトランペットとシロフォンが作ってきた流れをよく聴き、トランペットとシロフォンで流れを作っていたのだけど、その流れが確実に8分休符の後のスレイベルに託していくと言うことを考えなくてはいけなくて、トランペットとシロフォンだけで、『できた!』で終わってしまっては8分音符の後に何も続かなくなってしまいます。
スレイベルに繋げて初めて流れとして出来上がります。
と言うことはスレイベルの人はトランペットとシロフォンの人の練習を全部聞いていなくてはいけません。
と言うことはシロフォンとトランペットの人は繋がっていなくてはいけない、シロフォンとトランペットが出来上がった後にスレイベルが入ると、やっぱり違う空気感になってしまいます。
ここのスレイベルをどういう音がよくて、どういう大きさが良くて、どういうアクセントがついているのか、楽譜を見て情報としては正しいし、目安にはなると思いますが、あくまで前にやってきたトランペットとシロフォンが作ってきたものに対して、スレイベルはこれくらいかな?と言うことをトランペットとシロフォンとスレイベルの人で共有しなくてはいけない、となるとフルートも聴いていなくてはいけない。
指揮者の合図で出るということばかり考えるのではなく、特にこの前半では、流れを自分たちで作っていけば、自ずと入る場所が見えてくるはずです、その場所を見つける、探す。そしてこの6小節の中で見つけたものがいいね!ってなっても、ホールに行けばいつもの音楽室とは違うわけですから、あれ?ってなってしまいます。
これじゃあやっぱり足りないなとかみんなが感じると思います。1人1人が同じようにもう少し響きを多めにしてみようか、そうするとテンポが変わってきます、変わってくる理由としては、それくらい冒頭の部分が流れがあって響きがあって、みんなで作って共有している空気と大切にしているものがある前提で、どこのホールに行っても、全体を大きくしたり、小さくしたりできるようになる。
1人だけテンポが速いとか、どこの場所でもテンポが一緒と言う事でもない、と言うのが面白く、これが音楽になります。
これを見つけるとホールに行って安心して演奏する事ができると思います。
冒頭のビブラフォンの響きを聴いてそこのホールの特性を感じ、その後に出てくる人はその感覚を修正したり、響きが足りないっと感じた時には響きを足したり、この感覚をみんなで感じ取っていると言うこの空気感が楽しいんですよ。
この楽しいっていう感覚が実は音に出てきて、表情に出てきます、それが審査員に伝わります。
良い悪いではなくて、楽しそうで、すごくたくさん音を作っています、そう言うことが出てくることで、審査員やお客さんはいい音だなと感じ、評価をするわけです。
お客さんや審査員がステキな音だなって感じるためにはこういった事が大切だと思います。
これらの作業をみんなで試して、気持ちがいいところを見つけることにチャレンジして欲しいです。
Aの2小節目からのビブラフォンはDとE♭がぶつかっていて、このぶつかっている音は緊張感を生みます。
しっかりとぶつけて、この不協和音を上手に不協させる、気持ちのいい音ではなく緊張感を出す様に演奏しましょう。
この後この曲はどのように展開していくのかな?明るい曲なのかな?暗い曲なのかな?何も分からない状態の中でそのうちわかってくる、わかるまでは聴いてる人は、どう言う音楽なんだろうと感じます。どこにでも漂っていきそうな音の響き。この中に共有をしないと散らかってしまいます。
例えば、風の音が吹いていて、木の葉がサラサラ鳴っていて、鳥が鳴いていて、これを別々で録音して、別々で流しても、田んぼの中で聴けば全部が一体になって聴こえる、でもそれぞれに別の楽譜がある、様々な音が集まって音楽になっていく場面だと思います。
このような流れを掴んでいくことが大切です。
Cからのスレイベルはどこから鳴っているのか不思議に思わせるように演奏をしてみたら面白いと思います。背中でスレイベルを演奏しているようなイメージで。
ここのスレイベルも冒頭と同様に前からの流れを聴いて、流れを壊さないように演奏することが大切です。
Eからのティンパニとトムトムはアクセントを強調しすぎないように演奏しましょう。
スコアを縦に読むと、ティンパニとトムトムにアクセントがついているところは、管楽器もアクセントで演奏しています。逆にアクセント以外の音を出しているのはティンパニとトムトムだけなので、アクセントに集中するというよりは、それ以外の音に意識を持っていって演奏をすると、よりスピード感のある演奏になると思います。
Ⅱ ステップ、スキップ、ノンストップ(順次進行によるカプリッチョ)/ 後藤 洋
スケールのように弾かないで、美しいメロディーだと思って演奏をし、音階って美しいんだな、順次進行もこんなに美しいんだなって聴き手に思わせるような演奏ができたらステキだと思います。
(チャイコフスキーのくるみ割り人形の最後のチェロが美しいです)
5小節目からのシロフォンとスネアドラムは、管楽器についているスタッカートやスラー、メロディーラインと同じように音階を演奏しているようにすると、より管楽器に溶け込むと思います。
例えば、ティンパニや大太鼓を演奏している時も同じで『ドンッ!』と言う音になってはいけなく、その音は音楽の中でドであったりソであったりするわけで、ところがそれがさっきの曲の様にまだドなのかレなのかミなのかわからないところに打楽器だけが出てくる場合があったりしますよね。
太鼓がタタタってやった時に他の楽器であったらドドドってやるしかない、この曲であればミファミファミレドと演奏しなくては行けない。
つまり音階ができる楽器はどこかに属さなくては行けない、絶対的なルールがあるじゃないですか、ところが太鼓はどこにも属さないわけで、何???ってことになります。
例えば、ドラがppで『ゴーーーン』と始まると、え?ってなります。
チューバであったら『ドー』であったり『レー』であったり、何か音楽が始まったと感じますよね、しかしドラがppで『ゴーーーン』とやれば、、、えっと、何が始まるんですか?と一瞬にして緊張感が高まります、これは他の楽器ではできないことです。
ピアノのクラスター奏法であったり、めちゃくちゃな不協和音をやらなくても、ドラで『ゴーーーン』とやってしまえば、不協和音にも聴こえず、ドラの音であり、調性感が無く、どの調声にもはまる打楽器の特性です。ですから、他の楽器が決まった調性で演奏しているときに、打楽器はその調性に合った感覚は自分でしっかりと持っていないといけません。
これらのことを考えながら演奏をすると流れが綺麗にまとまると思います。
マレットやスティックの選定も、先程と同様に同じ動きをしている楽器であったり、打楽器だけで決めてしまうと、非常に無機質な音になってしまいます。ですから、同じ動きをしている人と一緒に試し、1番溶けるマレットやスティックを探す作業をしましょう。
Aの4小節前のクラッシュシンバルは到達点と考えていいでしょう、この場面はB♭durなので、この1発でB♭durのハーモニーを奏でているイメージで演奏すると良いでしょう。
小太鼓は音階のない楽器ですが、イメージは自由です。曲がB♭durでも、スネアドラムを演奏する人のイマジネーション次第でまた聞こえ方が変わってくるかもしれません。
Bのスネアドラムも、音階はありませんが、全体がB♭durに対して、スネアドラムだけはFdurのスケールを弾いているかのように演奏したり、3度上でハモってみたり、発想は自由です、色々な音階をイメージして演奏してみて1番気に入ったスケールをスネアドラムで弾いているように演奏するとまた別の楽しさに気づけるかもしれませんので是非試してみてください。
Dの2小節目からのトライアングルはE♭durの和音の中の1音だと思って演奏するとうまく溶け込むと思います。音は自由です、主音なのか、3度なのか5度なのか、ハーモニーの構成音だと思って演奏してみましょう。
Hの8小節目のスネアドラムの装飾音符ははっきり強調して演奏しましょう。管楽器と同じ動きですが、前まで16分音符で登ってきて、Hの8小節目から下降形になります、この下降形を目立たせる役目をスネアドラムの装飾音符が持っていますのではっきりと演奏してみてください。
1番最後の小節のクラッシュシンバルは、先に終わっちゃうイメージで演奏すると面白いと思います。音色も様々、響きを残すのか残さないのか、明るい音なのか、暗い音なのか、奏者のイメージ次第で面白くなる可能性は無限大です。
色々なパターンを想像して、演奏してみましょう。
Ⅲ マーチ『メモリーズ・リフレイン』/ 伊藤 士恩
この曲は歩くためのマーチというよりかは、前に前にいくような、希望を持てるようなマーチとか、前向きな気持ちになるマーチとか、心が軽やかになるマーチというイメージで演奏するとステキだと思います。
このマーチは希望であったり、自由であったり、そう言うものにみんなで近づいていく、駆け足というよりは、気持ちが前向きになるように、でもアレグロでは無いですよ、不思議ですよね。このような気持ちを心の中に持つことで、気持ちよく前に進んでいけるテンポ感で打楽器の人たちは演奏すると良いでしょう。
人を無理やり歩かせるテンポと、気持ちよく前に進むテンポは大いに違うので気をつけましょう。
このように考えると、強いリズムではなくて、ソフトなリズムになってきます。なのでスネアドラムやスティックのチョイスは大切になります。
使うスネアドラムはライトな音で、スティックはメイプルなどの軽いスティックであったり、少し重いスティックで強く叩くのではなくて、跳ねるように演奏をしたくなるようなスティックを見つけると良いと思います。
メイプルなどの軽いスティックで演奏をすると僕の中ではある意味しっとりとした音が出なくなり、逆に攻撃的になってしまいますので、様々なスティックをみんなで試すことがやはり重要です。
バスドラムとシンバルもラフマニノフやチャイコフスキーの音ではないので、先程と同様、打楽器の人だけで決めるのではなく、この曲の場合、スネアドラムはホルンの人たちと、バスドラムの人はチューバやバリトンサックスなど低音の人たちと一緒に決めるようにしましょう。
スネアドラム、バスドラム、クラッシュシンバルは刻む場面で心地良いリズムをイメージして演奏すると管楽器が気持ちよく演奏できると思います。
Cの2小節目の3拍目は、一旦止まるイメージで演奏してみましょう。
Gの1小節前のスネアドラムはかっこいいなと思いました。
1拍目にアクセントはついていますが、アクセントの後の音が小さくなりすぎないようにして、1拍目の16分音符の方が少し強く出ると、はっきり聴こえてきます、心地よく重くならなくて、キレが良く演奏するためには腕を大きく振ることでスッキリ、綺麗に決まってくると思います。
Ⅳ Rhapsody~Eclips / 大島 ミチル
この曲は管楽アンサンブルみたいに、もっともっと広がる音で作っていくと世界観が出ると思います。
バスドラムはBの2拍目のfpも2小節目の1発も、深い音で演奏するようにしましょう。
Bの2小節目のティンパニは広く感じ深い音で演奏しましょう(タァータァータァー)のように、腕を大きく振って演奏をするといいでしょう。
Cからはワクワクするように、1つ1つ前に気持ちが行くイメージで演奏し、31小節目、33小節目の大太鼓は『ズーーーン』のように深い音をイメージして演奏しましょう。
Dからのトライアングルはフレーズ感が大きく変わるので、そのフレーズ感を変えるイメージで演奏すると変化が出てステキだなと思います。
Eからは2小節で1フレーズという感じ方で演奏をすると広大なフレーズや流れが生まれて良いと思います。
Eの4小節目のグロッケンは花火が破裂してキラキラと火花が散っていくイメージで演奏すると良いと思います、決してギラギラしないように気をつけて演奏しましょう。
Fからも2小節1フレーズでワクワクするイメージを持って演奏しましょう。
Gに入ると前からの世界とはまるで別の世界に入ったようなイメージで演奏をすると良いと思います。
最後のトライアングルのクレッシェンド、デクレッシェンドは肘からトライアングルビーターの1番先までが1つの棒だと思って、大きく緩やかに腕を振って演奏するようにしましょう。
ここも管楽器と合わせてトライアングルのビーターを選ぶと良いと思います。
■植松 透 プロフィール

NHK交響楽団首席ティンパニ奏者。 東京都出身、国立音楽大学、同大学院を首席で修了。
N響海外派遣研修員としてベルリンに留学、R.ゼーガースのもとで研鑽を積む。
ギリシア・パトラス国際芸術祭、国際ゲーテ年記念芸術祭、軽井沢国際音楽祭、宮崎国際音楽祭など国内外の音楽祭にも多数参加。
シンガポール大学ではマスタークラスを開催。
ソリストとしてもN響と武満やグラスの作品等を共演、2020年N響ベストソリストに選出される。
また林英哲、山下洋輔氏ら異ジャンルのアーティストとのコラボレーションも数多い。幼児と音楽の関わりを打楽器の視点から捉える研究も長年続けており、主宰する「たいこアンサンブル・トムトム」を自らのライフワークと捉え幼稚園や特別支援学校でのコンサート活動を全国で展開、被災地の子どもたちに音楽を届ける「大友剛ミュージックキャラバン」「植松透のシャカシャカパン」、絵本読み聞かせの「室井滋の絵本ライブ」など様々な活動を通して全国の子どもたちと音楽の交流を深めている。
NHK音楽祭では「こども音楽祭」をプロデュース。ピタゴラスイッチ、ムジカピッコリーノなどETVの教育番組にも数多く出演している。
執筆者:パーカッション・シティ 川原
取材協力:NHK交響楽団首席ティンパニ奏者 植松透
編集:JPC MAG編集部