From the percussion room of the world
世界の打楽器部屋から Vol.5|メキシコ・チアパス 児島美幸
世界各国で活動されている日本人のみなさんを「打楽器」というキーワードで、それぞれの生活スタイルや現地の情報など、その土地目線でレポートしてもらう紀行シリーズ第5回目。
今回はメキシコ南部にあるグアマテラとの国境の町「チアパス州」より児島さんに寄稿して頂きました。
※この記事は2018年7月10日発行「JPC 157号」に掲載されたものです。
現地情報
- 国:メキシコ
- 地域:チアパス州、トゥクストラグティエーレス
- 日本との時差:マイナス14時間
- 生活言語:スペイン語
初めてメキシコに足を運んだのは2012 年2月。メキシコに住み始めてもうすぐ3 年。 いつも沢山の方に「なぜメキシコ?」とよく聞かれます。 今回は素敵な機会を頂きましたので、その答えをお話しさせてもらおうと思います。
● メキシコとの出会い
メキシコを意識し始めたのは、高校3 年生の時に言われた言葉からです、「君はメキシコに行った方がいい、顔が受験疲れしている」。
受験を終え、無事大学に入学。しかし、周りの雰囲気に圧倒され、また大学という新しい環境にすぐに馴染めないまま半年の大学生活を過ごしました。
1 年生の夏、師匠からメキシカンマリンバの演奏会に誘ってもらいました。初めて見たメキシカンマリンバはとても大きく、音は不思議で、音楽はリズミカルでした。終演後に、その大きなマリンバに近寄り「ああ自分もこの楽器を演奏してみたい」と感じたのを覚えています。
翌年2月、メキシコへ旅行をしました。音楽大学へ行くとマリンバ・打楽器科の学生達が歓迎の意を込めてとメキシカンマリンバでアンサンブルを披露してくれました。その音楽は、私を懐かしい気持ちにしてくれ、気づいた時には泣いていました。それから4年間の大学生活を終え、私を虜にしたメキシカンマリンバを勉強するためにメキシコへ来ました。
● メキシコ・チャパス州立科学・芸術大学・大学院
2015年に東京音楽大学を卒業し、9月にメキシコ・チャパス州立科学・芸術大学院のマリンバトラディショナル科へ入学しました。1 期生として入学し、同じ科の同期は4 人、その他にマリンバ・打楽器、弦楽器、音楽教育の科にも生徒がいました。1 期生卒業後、2 期生が入り徐々に様々な科が開かれています。大学院ということで、授業数はそれほどでもありません。個人レッスン、アンサンブル、音楽史、論文の授業に加え、各セメスターに選択の授業があります。
マリンバトラディショナル科では、メキシカンマリンバを軸にしながら、グアテマラ、ニカラグア、コロンビア、アフリカのマリンバについて勉強しました。一番心に残っている授業は、マリンバ工場見学です。工場見学と言っても作業は全て手作業、月に1度のペースで作業場へ行き、パイプ、音盤の作り方、音程の合わせ方、マレットの作り、マリンバの歴史等を学びました。学生時代は、「マリンバはアフリカ生まれで、進化してこの大きいマリンバになりました」と無知のまま紹介していた自分ですが、今は「どんな形の、どんな音のマリンバがこの国にあります」と前よりも胸を張って話せます。大学院の修了試験では、~アフリカからアメリカ~と題し、演奏会を行いました。
大学院生の時から、マリンバトラディショナルを勉強しつつ、大学のクラシックマリンバ・打楽器科の生徒とも演奏を沢山しています。大学は9セメスターの4 年半制です。
4、7,9セメスターになると、約1 時間プログラムでリサイタルを行います。ちなみに1セメスターの学期は半年です。プログラムは、ソロからデュオ、アンサンブルまで様々です。今まで勉強してきたことを生かしながら、クラシックマリンバ・打楽器の勉強もさせてもらっている気持ちです。打楽器のお部屋は計8 部屋あります。地震の影響で大きなお部屋が使えなくなり、小さな部屋が増えました。
これから、古い部屋を解体して新しい建物を作る計画があるようで楽しみです。
● マリンバルム
メキシコに住み始めて一目ぼれした楽器メーカーがあります、それが「マリンバルム」です。作っているのはクラシックマリンバ、パイプまで木製、そして製造は全て手作業です。音は柔らかく、優しく包んでくれるようなマリンバです。ベースのマリンバのサイズはヤマハ製の楽器とほぼ同じですが、注文可能、楽器の高さもオーダーメイドできます。また、幼児向けの小さいマリンバも製造しています。音域も私の楽器は5オクターブあり、学校で使用しているのは5オクターブ半あります。2011 年より、「音楽学校の生徒の練習のために、経済的にも優しいマリンバを」と言う経緯で生まれた、メキシコ・チアパスのまだ新しいメーカーです。歩き始めたばかりですが、つい最近ホームページ作成の話が上がり、私も写真撮影に参加してきました。早く日本の音楽家の
方々にも見てほしい!聴いてほしい!と思っていた所にJPCさんのお話を頂き、ここに紹介させて頂きました。まだホームページは作成途中でリンクがありませんが、完成したら是非見てほしいと思っています。
少しずつではありますが一昨年より、メキシコの音楽、こちらで得た知識を、故郷松本でいろんな方々と共有しています。これから先、さらに沢山の方々と共有できるよう、楽しみに精進して参ります。
児島美幸プロフィール
東京音楽大学打楽器科卒業。メキシコ・チャパス州立科学・芸術大学院マリンバトラディショナル科卒業。
マリンバ、打楽器を岡田眞理子、久保昌一、西川圭子、平形真希子、藤本隆文、村瀬秀美、和田光世に師事。メキシカンマリンバをロベルトパロメケ、イスラエルモレノに師事。現在、メキシコ・チャパス州立科学・芸術大学付属学校講師。
※この記事は2018年7月10日発行「JPC 157号」に掲載されたものです。内容は掲載当時のままとなっておりますので予めご了承願います。
執筆者: 児島 美幸