From the percussion room of the world
世界の打楽器部屋から Vol.20|イギリス・グリニッジ 土屋茉莉佳
世界各国で活動されている日本人のみなさんを「打楽器」というキーワードで、それぞれの生活スタイルや現地の情報など、その土地目線でレポートしてもらう紀行シリーズ第20回目。今回はイギリスのトリニティ・ラバン・コンセルバトワール大学院修士課程在籍中の土屋茉莉佳さんに寄稿して頂きました。
※この記事は2022年7月発行「JPC 173号」に掲載されたものです。
現地情報
- 国:イギリス
- 地域:グリニッジ
- 生活言語:英語
- 日本との時差:-9時間(サマータイム時-8時間)
イギリスのトリニティ・ラバン・コンセルバトワール大学院修士課程在籍中の土屋茉莉佳と 申します。イギリスの音大事情や留学生活など、拙筆ながら綴りたいと思います。
●グリニッジについて
初めに私の居住しているグリニッジを少しだけ紹介します。
グリニッジは、ロンドン中心地から南東へ電車でおよそ40分、テムズ川沿いの緑豊かな街です。
週末には観光客も訪れる、人気の観光スポットでもあります。
イギリスといえば、パブ(居酒屋)が有名ですが、ここグリニッジも、昼過ぎから夜の11時くらいまで、多くの人で賑わっています。学生も、授業や演奏会後などに頻繁にパブへ行きます。
ロンドン中心街とは違って、落ち着いた、ローカルな雰囲気の街です。
●コンセルバトワールについて
トリニティ・ラバン・コンセルバトワールは、ダンス、音楽、ミュージカルシアターの三つの学部があります。
元々、ダンスと音楽学部はラバン・ダンス・センターとトリニティ・カレッジ・オブ・ミュージックという別の大学でしたが、2005年に合併し、現在の形になりました。
基本的に授業は学部内で完結していますが、2月に行われるCoLabという2週間のプロジェクト(雰囲気は芸術祭、ただし必修単位)では、 他学部と交流するチャンスもあります。私は、ほぼ即興のオペラの企画に参加し、演奏に加え、ダンスと歌も歌いました。
また、器楽専攻は、ミュージカルシアター学部の試験にて実際にミュージカルの上演に関われるチャンスがあります。 音楽学部の一年間のスケジュールは、各ターム(学期)に一回ずつオーケストラと吹奏楽の演奏会、その他に専攻ごとのアンサンブルやブラスアンサンブル(金管+打楽器)、 アフロキューバンバンド、新曲演奏会など、そして合間に大学院は1コマ2時間の授業が週2日とかなり忙しいです。
合奏練習は演奏会の2 週間前や最短2日前から始まります。かなりの短期間で一つのプロジェクトが終わるため、演奏機会をたくさん持てるのは良いことだと感 じました。また、試験期間(この記事を執筆中は試験期間真っ只中でした。汗)は、作曲専攻の学生から 彼らの試験曲の演奏を頼まれるので、人によってはかなり過密なスケジュールになります。 個人的には座学が一番辛かったです。英語で2時間の講義を聞き、デスカッションをし、課題をやるのは毎回脳が爆発していました…。
●打楽器専攻について
打楽器専攻は、ティンパニ・打楽器、ドラムキット・打楽器の二つのコースに分かれており、私はティンパニの専攻に在籍しています。
今年度は打楽器の学生は学部生が11人、院生は2人です。その内の9人がドラムキット専攻なのがとても 驚きました。しかし、どちらのコースも、クラシック、ラテン、ジャズ (打楽器専攻とは別に、ジャズ専攻もありますが、ドラムキット生はジャズも演奏できなければなりません。)など全てのジャンルを網羅しなければなりません。
レッスンは4 ~ 5人の先生に師事している学生が多いです。大学院生は個人レッスンが38時間/年、各先生に自由に時間を割り振れるので、自分の将来の進路に合わせてレッスンのカリキュラムを組むことができます。マスタークラスは平均して2週間に一度の頻度で、オーケストラスタディや ドラムキット、ミュージカル、ジャズヴィブラフォンなどが学べます。また、外部の先生を招いての個人レッスンも行われたりします。
●使用打楽器について
イギリスの打楽器メーカーといえば、 Premier。
大学にあるほとんどの楽器はこちらのメーカーのものです。ティンパには本番用と練習用に Premier Elite(プラヘッド)が2セット。本革のAdams Symphonicと Dörfler 。Hawkes and Co. のバロックティンパニがあります。
スネアはPremier、Yamaha、Pearl、バスドラムはPremier、タンバリンはGroverとBlack Swampを使用しています。
合わせシンバルはSabian。その他のシンバルは、ドラムキット生のこだわりも強く、マイシンバルを持っている人がほとんどですが、ZildjianとSabianが多いです。
マリンバはMarimba Oneが1台、Adamsの5オクターブが2台と、4-1/3オクターブが2台あります。ビブラフォンはBergeraultが1台とMusserが2台、Premierが1台あります。 グロッケンは箱のもの(Yamaha)とペダル付き(Bergerault)の2種類があります。
コンガとボンゴはLPとGon Bops、ドラムセットはYamahaとPremsです。
東京音大在学時は、リハーサルや本番のための楽器移動やトラックの積み込み、積み下ろしは全て専攻生自身でやらなければいけませんでしたが、こちらは基本的に、専門のクルー(学生アルバイト)が手配をしてくれるので、とても楽です。
この記事を読んで少しでもイギリスの音楽大学事情を知っていただければ幸いです。大学院2年目も引き続き精進してまいります。
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土屋茉莉佳 プロフィール
東京音楽大学卒業、同大学院科目等履修生修了。 現在、Trinity Laban Conservatoire Music and DanceのMaster of Musicコースに在籍。Trinity College London Scholarships奨学生。これまでに打楽器を菅原淳、杉山智恵子、Michael Doran、 マリンバを村瀬秀美、Calum Huggan、ティンパニをNigel Thomas、ラテン・ハンドパーカッションを関根真理、Hugh Wilkinsonの各氏に師事。
執筆者: 土屋茉莉佳
編集:JPC MAG編集部