From the percussion room of the world
世界の打楽器部屋から Vol.14|ドイツ ・ベルリン 小野史敬
世界各国で活動されている日本人のみなさんを「打楽器」というキーワードで、それぞれの生活スタイルや現地の情報など、その土地目線でレポートしてもらう紀行シリーズ第14回目。
今回は日本国内で打楽器を学び、渡独後作曲活動を開始され現在ドイツを中心に活躍されている、打楽器奏者・作曲家の小野史敬さんに寄稿して頂きました。
※この記事は2021年1月発行「JPC 167号」に掲載されたものです。
現地情報
- 国:ドイツ
- 地域:バーデン・ヴュルテンベルク州 / カールスルーエ
- 日本との時差:8時間(サマータイム時 -7時間)
- 生活言語:ドイツ語、英語
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1,000円のバチを買った少年は海を渡る。
中1のGW、JPCで生まれて初めてバチを買った。1,000円程のベーター社のFusion。とても安かったけれど学校の練習用バチを借りていた僕にとって、かけがえのない初めての自分のバチ。それから毎日練習に夢中になった。それが僕の打楽器人生のスタートでした。そんな少年だった僕がドイツに渡り、JPC会報誌に寄稿することになるとは...!今も興奮しながら執筆しています。
●今回はドイツの打楽器事情や、自分の作曲についてご紹介!
ドイツの人々は自国の歴史を大切にしています。街を歩けば歴史的な建築と美術、歌劇場やフィルハーモニーを目の当たりにし、クラシック音楽の源流の地で、歴史のサイクルの中を生きていることを実感します。かつてクラシック音楽は同時代の奏者や作曲家が盛んに交わって作品を生み出してきました。現代の打楽器音楽も往年のクラシック音楽の勢いに劣らず、盛んに新作が世界中で上演されていますね。本場ドイツでも、そんな音楽の精神性がしっかりと今の時代も引き継がれ、特にここベルリンは世界中の音楽が交差する場所になっています。この刺激はそのまま僕の打楽器の音作り、作曲活動に影響しています。
渡独して一番影響を受けたのは、まだ来て間もない頃、ベルリン芸術大学教授でベルリン・ドイツ交響楽団の打楽器奏者、トーマス・ルッツ先生の下、約2年間レッスン生として学べたことです。オーケストラ打楽器の基礎をみっちりと叩き込まれました!いわゆる”ドイツ節"。不透明な音を出さない!一音一音を明確にアーティキュレート(発音)する姿勢。打楽器はオーケストラの一部分でなく、一台の打楽器のみでオケ全体の声部を浮かび上がらせるような。とにかく衝撃的!レッスン後は毎回レポートの様な膨大なメモを残しましたね(笑) 。演奏と作曲、僕の中ではこの2つの感覚が繋がっていますので、ドイツの伝統的な演奏法を学べたことは演奏のみならず作曲にも影響がありました。トーマス先生との2年間はこの先もずっと忘れないです。
ドイツで打楽器を学び3年、ようやく完成させたのがデビュー作である「Clock
Speed」でした。
初めて書いた小太鼓独奏作品にも関わらず、第15回PASイタリア国際打楽器コンクール作曲部門にて最高位を受賞できました。この結果はドイツでの勉強の成果だと自負しています。
歴史を重んじるドイツではエチュードもドイツならでは。ティンパニはクリューガー、コイネ、バイヤー。
小太鼓はクナウアー、A.ワーグナーを必ず勉強します。ドイツでは小太鼓とティンパニの奏法が理論的に確立されています。諸外国の有名エチュードですら補助的に使用するのみ。ちなみに日本では、クナウアーと言えば25番のロールのエチュードが管打コンやオーディション課題として有名ですが、ドイツでは30番(7番)6/8が定番!ベルリン・フィル等、ドイツ全土のオケのオーディションの第一次課題でほぼ確実に出てきます。日本とは微妙に違う演奏スキルを求められるのが面白いですよね。
他にもドイツの擬音語の話や、ドイツの音に関する法律もご紹介したいのですがここでは割愛...。とにかく日本とは異なる音の文化が新鮮な日々を送っております!
最後になりますが、皆さんにこの場を借りてお伝えしたいのは"人生で一度はドイツに訪れてみて!"ということ。クラシック音楽の芸術性、音への強いこだわり。彼らの魂がここに存在してますよ!最近大きな空港がベルリンに開港し、年々日本との距離が縮まっていると感じています。
とにかくコロナが早く落ち着きますように。そしてまた世界中が音楽で溢れる
時が来ますように...。その日を迎えるためにも、ドイツと日本を軸に演奏と作曲
を今後も続けていきます!YouTubeやInstagramを通じて情報発信中ですので是非ご覧ください!それではお読みいただきありがとうございました♪
小野史敬 / Fumihiro Ono プロフィール
幼少期よりピアノ、ギターに親しみ、12 歳から打楽器を始める。24 歳で渡独後、国際的に作品を発表することをテーマにドイツの首都ベルリンを拠点に活動している。昭和音楽大学卒業。打楽器を石内聡明氏に師事。作曲は独学。打楽器の演奏法・作曲法に斬新
なアイディアが盛り込まれた作品の独創性が評価され、これまでプロフェッショナルとして活躍するクラシック打楽器奏者へ作品を献呈、数多くの委嘱作品を初演する。
「~挑戦的な独奏曲~奏者の技術的な挑戦、ニュアンスの習得、そして聴衆を魅了するに最高な要素を兼ね備えている」(HoneyRock 社サイト内"Clock Speed” 書評)
2016 年、第14回PAS イタリア国際打楽器コンクール、スネアドラム・ソロ(C 部門)優勝。2017 ~ 19 年、同コンクールのソロ、デュオ、アンサンブルの異なる作曲部門において3 年連続で最高位受賞(一位なし第二位及び第三位)。2017 年、Honey Rock 社(アメリカ合衆国)と受賞作品"ClockSpeed" と"The ShadowDrumming" の2 点の出版契約を結び作曲家として活動を始める。2018 年、この二つの小太鼓独奏作品、そして2020 年にはマリンバ独奏作品「Ko Da Ma」がPASイタリア国際打楽器コンクールの小太鼓及びマリンバ両部門において正式な課題曲として選出される。
近年では蘇州交響楽団(中国)より打楽器と管弦楽のための協奏曲の委嘱、昭和音楽大学、グラーツ国立音楽大学(オーストリア)の図書館に自作品が所蔵されるなど、日本のみならず欧米・アジア諸国に渡る国際的な場面で盛んに作品の上演の機会を得ている。2019 年、自作品の発表と新時代の打楽
器音楽を広めるため自身の音楽出版所「F Music」を創設。また全プログラムがオリジナルの作品個展「小野史敬ソロ・エキシビジョン」を開催、自作品のマスタークラス(JPEC日本打楽器協会主催)をJPCにて開講するなど精力的に作品を発表している。
PAS Italy Percussion CompetitionWinner's Concert2016,2019、Performing Arts Festival
(PAF) in Berlin 2018 出演。
執筆者: 小野 史敬