From the percussion room of the world
世界の打楽器部屋から Vol.16|ドイツ・カールスルーエ 福田萌
世界各国で活動されている日本人のみなさんを「打楽器」というキーワードで、それぞれの生活スタイルや現地の情報など、
その土地目線でレポートしてもらう紀行シリーズ第16回目。
今回はドイツ留学を経て現代音楽を中心に活躍されている福田萌さんに寄稿していただきました。
※この記事は2021年7月発行「JPC 169号」に掲載されたものです。
現地情報
- 国:ドイツ
- 地域:カールスルーエ
- 生活言語:ドイツ語
- 日本との時差:8時間(サマータイム時7時間)
はじめまして、福田萌と申します。
ドイツは曇り空の続く長い冬が明け、緑溢れる気持ちの良い季節となりました。今回はこのような機会を頂きありがとうございます。「打楽器」を通じての様々な出会いと共に、こちらの様子をお伝え出来ればと思います。
ドイツ留学のきっかけは、国立音楽大学の交換留学制度でした。本来は博士課程の学生を対象としたものだったのですが、運良く修士の学生にもチャンスが巡ってきたことにより、カールスルーエ音楽大学にて1 年間、交換留学生として在籍出来ることとなりました。
ドイツ語は0からのスタート、銀行口座の開設やビザの申請はもちろん、1 人で電車のチケットを買うことですら一大イベントとなっていた当時の日々を思い出します。驚いたり、失敗したり、感動したりと目まぐるしく過ごしていると、あっという間に1 年が経ってしまい、帰国。大学院修了後、もう一度ドイツで学びたいという思いを断ち切れずにいたところ、DAADの奨学金を頂けることになり、2016 年秋より改めて正規の学生として同大学の現代音楽科に入学しました。
カールスルーエ音楽大学では作曲家ヴォルフガング・リーム教授を中心に様々な現代音楽のイベントが行われています。ドイツに来て間もない頃、いわゆる「現代音楽」を中心とした演奏会における客層、そしてその反応にとても驚きました。学期に一度行われる打楽器科のクラスコンサートでは、20 世紀以降の作品を中心としたプログラムにも関わず、あらゆる世代のお客様で満席、演奏会終了後には興奮した様子で「とっても楽しませてもらったわ、ありがとう。ちょっと楽譜を見せてちょうだい!」などと奏者に感想を伝え
に来てくれるのです。
ドイツや近隣の欧州各国には現代音楽を専門とするアンサンブル団体も多く、様々な地域で音楽祭や講習会なども開催されています。ダルムシュタットの夏季現代音楽講習会をはじめ、ドナウエッシンゲン音楽祭、シュトゥットガルトのエクラー音楽祭、ケルンのアハトブリュッケンなど、それぞれの特色を持った催しとなっており、地域を挙げて盛り上げ、楽しんでいるように感じます。
若手演奏家を対象としたプロジェクトや教育プログラムなども充実しており、私自身もそのような場で多くを学ばせてもらいました。ドイツ音楽連盟(Deutscher Musikrat)主催のプロジェクトでは、ドイツとポーランドの演奏家の合同アンサンブルとして「ワルシャワの秋」現代音楽祭に参加しました。
1956年から続く歴史ある音楽祭にて、世界各国から招かれた演奏家による質の高いパフォーマンスや、主催者の熱意、そして秋の東欧の美しい景色と共に、充実した日々を過ごしました。
シュラークカルテット・ケルン(Schlagquartett Köln)というドイツ・ケルンを拠点に活動している打楽器カルテットとのプロジェクトでは、彼らのレパートリーを中心とした打楽器アンサンブル作品に取り組みました。
近現代の作品において、本来は楽器として使用しないような素材が楽譜に記されていることも多くある中、それらを珍しい音として扱うことは簡単ですが、なぜ作曲家がその音を必要としたのか、作品の中でどのような役割を担っているのかなど、彼らとの活動を通して改めて考えることが出来たように思います。「ないものは作ってしまおう!」という精神は、楽器やバチのみならずスタンドに至るまで...。全ての音に対してどこまでも真摯に誠実に向き合う姿、そしてその技術や知識を惜しげも無く私たち次の世代に伝え、同時代の音楽を自分たちの手で未来に繋げていこうという前向きな姿勢に、強く感銘を受けました。
演奏活動と並行して、子供たちに打楽器のレッスンをしています。ドイツ(おそらく特に南西部)では、幼少期からピアノやトランペット、リコーダー、そしてドラムなどの打楽器を習うことは珍しくないようです。
つい先日までロックダウンの影響でオンラインでのレッスンを余儀なくされていたのですが、ほとんどの生徒が自宅にドラムセットを持っていたこと、そして(自宅で!)大音量で練習をしていたことにも驚きました。自ら太鼓でリズムを刻みながら自作の歌を披露してくれたり、学校で流行っていることを教えてくれたり、いつのまにか私のためのドイツ語講座になっていたり... ?自発的に真っ直ぐに音楽と向き合う彼らからも多くのことを教わっています。
まだまだ学びの途中ではありますが、「打楽器」を通じての様々な出会いに感謝し、これからも彼らと共に音楽が続けていけるよう、前進していければと思っています。
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福田 萌 プロフィール
岡山県出身。国立音楽大学および同大学院を卒業/ 修了後、DAAD(ドイツ学術交流会) 奨学生として渡独、ドイツ・カールスルーエ音楽大学にて現代音楽科修士課程修了。
現在はドイツを拠点に20・21 世紀の音楽を中心とした演奏活動を行う。