from the drum Lesson!
ドラム道場からのレッスンリポート 第1回|タイとドラグ(ドラッグ)by 市川宇一郎
こんにちは、ドラム道場の講師をやっています市川宇一郎です。
このコーナーでは、ドラム道場の日々のレッスンのなかで、生徒さんからぶつけられたいろんな質問をみなさんに紹介していこうと思います。参考になれば幸いです。
今回、紹介するのは、吹奏楽でスネアを担当しているRさんが持ってきた譜面です。このふたつの譜例は、おなじ曲のなかで用いられたもので、どちらの2分音符にもロールの指示がついています。この2分音符をどう分割するかは意見がわかれるところですが、ここでは一般的な8分音符系のロールでアプローチしようと思います。
では、さっそく譜例を見てください。
見くらべればわかるとおり、譜①にはタイがあり、譜②にはありません。なのに、Rさん、このふたつをおなじように叩いていいのではないかと自己流に解釈してしまった。彼女はこう言います。「たぶん、譜②はタイをつけ忘れただけでしょ。だから、どっちもおなじ叩き方になるのでは?」
いえいえ、そんなことはありません。結論から言うと、このふたつはまったくちがうリズムです。
けっしてタイをつけ忘れたんじゃありません。「それじゃ、ど一叩きわけるんですか!」。Rさんは食い下がります。
説明しましょう。①のようにロール音符にタイがついた場合、タイで結ばれた音符のところでロールを打ち止めますが、タイがない場合は、ロールの音符の中で、ロールを完結させなければならないのです。譜例で説明しましょう。
タイのついた譜①は、譜③のようにロールの2分音符をまず16分音符に分割し、さらにそれを2分割した32分音符をダブル・ストロークで叩きます。ロールを止めるのは、3拍目の8分音符です。
これに対して、タイのない場合は、2分音符のなかでロールを打ち止めることになります。これには、④と⑤のふたつの止め方があります。
まず、2拍目のウラでロールを止める譜④は、12打の32分音符に2拍目ウラの8分音符1打を足した「13ストローク・ロール」、2拍目の16分音符でロールを止める譜⑤は、14打の32分音符に16分音符の1打を足した「15ストローク・ロール」になります。このように、ロールにタイがあるかないかで叩き方が変わるのです。すると、Rさん、あらたな疑問をぶつけてきました。
「④と⑤のどっちを選ぶかは、なにを基準に判断するんですか?」
これはいい質問ですね。当然そうなります。これは、どちらが曲調に合うかをRさん自身が判断してもいいし、指揮者に判断をゆだねてもいいと思います。いずれにせよ、ここでしっかりと覚えておいてほしいのは、タイの付かないロールは、どこでロールを止めるかが重要だ、ということです。
では、つぎの場合はどう叩きますか?Rさん、もうわかるでしょ?
ところで、ドラム道場で学ぶ生徒は、音楽の好みも年齢も経験年数もじつにさまざまです。
ロックが好きな人もいれば、歌謡曲が好きな人もいますし、吹奏楽団に加入している人もいれば、ジャズやロックのバンドに参加している人もいます。ルーディメンツを含む基礎を固めたい人もいれば、ラテンやファンクのリズム・パターンを数多く覚えたい人もいます。
そんな生徒さんのなかで、Sさんは高校の吹奏楽部でドラムを担当しています。譜面にもつよく、練習熱心な人です。そんなSさん、このあいだ、学校で練習している曲の譜面をもってきて、こう言うのです。
「この曲は、メロディーに先行して1拍分のドラム・フィルがありますが、わたしがそれを叩くと、指揮者が『キミの叩き方だとリズムが重くなるし、最後の8分音符のところで、管楽器パートが次の1拍目を吹くための息が吸えないよ』って言うんです。もう、どうしたらいいのか、わからなくって。」
そこで、とりあえず、Sさんの譜面を見せてもらいました。(以下の譜例参照)
モンダイなのは、ドラグの付いた出だしのフィルです。指揮者の指摘がホントかどうかを確かめるために、Sさんの演奏を録音したものを聴かせてもらいました。すると、指揮者の言わんとしていることがよくわかりました。これなら言われても仕方ありません。
どういうことか、説明しましょう。
まず、『リズムが重い』という指摘ですが、これにはSさんの叩き方に原因がありました。それをSさんに伝えると、チョット憤慨したSさん、実際にその部分を叩いてみせて「これのどこがモンダイなんですか?」と食い下がります。
たしかにSさんの演奏は譜面どおりキッチリ叩いています。そこで、曲のテンポに沿ってメトロノームを鳴らし、ふたたび叩いてもらいました。こうすると、Sさんの演奏がビートにどう乗っているかがわかります。
結論から言うと、Sさんのリズムはたしかに重いのです。それは、Sさんがビートのうしろに乗って叩いているからなのです。しかし、Sさんは意図してビートに重く乗ろうとしているわけではないと言います。なのにビートは重い。なぜでしょう。
それは、ドラグの叩き方に問題があるからなのです。例のフィルをメトロノームに合わせて叩くとき、本来なら、装飾音符のドラグはビートの手前で叩くべきなのに、Sさんはドラグにビートを合わせて叩いているのです。これだと、本音符がドラグの分だけ遅れてしまう。だから重くなるのです。(譜参照)
もうひとつ、フィルの最後の8分音符のところで『Sさんの叩き方だと管楽器の人たちが息を吸えない』という指摘です。これはムズカシイ問題ですが、ドラマーにとってはとても重要な部分です。まずは譜例を見てください。
これは8分音符のビートの基本的性質を表したものです。譜の4拍目の裏拍はアップ・ビート(↑)ですから、音が上方向に持ち上がるような表情で叩くことが求められます。ここが、音が下方向に向かうダウン・ビート(↓)と異なるところです。
Sさんの譜面の場合も、これとおなじです。4拍目のウラの8分音符を叩くとき、上から下へ押しつぶすような叩き方はできません。それだと音が下に向かい、アップ・ビート特有の息をスッと吸いたくなるような表情が出てこないからです。タムの音が沈み込まず、上へ浮かび上がるように叩けば、小節の1拍目で音を出そうと準備している管楽器の人たちの呼吸を邪魔しないでしょう。
ビートには、沈み込む音と浮かび上がる音のふたつがあります。このビートの性質を理解して叩けば、リズムは平板にならず、イキイキとした表情(それは躍動感に他ならないのですが)を得て、動きだします。
そもそも、リズムは「動き」です。それは譜面どおりに叩けば自動的に現れるものではなく、ドラマーが動かそうと叩いて、はじめて現れてくるものです。そんな話をするうちに、この日のレッスンはアッという間に終わってしまいました。
それでは、またお会いしましょう。
執筆者:市川 宇一郎