つっちーの太鼓奇談
つっちーの「太鼓奇談」第八回|自慢したくなる顔ぶれのサポート
※この記事は2015年7月発行「JPC 145号」に掲載されたものです。
JPC 会報をご覧の皆様、毎度お馴染みの太鼓持ちつっちーです。
今月も例に漏れず取り留めのない、よれよれなお時間にお付き合い願いたいと思います。
さて、今この原稿を書いているのはこの原稿の締め切りを一日過ぎた5月29日、ツアーの移動日で佐賀県は鳥栖の駅前にあるホテルの一室でダラダラと書いております。
まだ五月だというのに鳥栖はまるで真夏の様な天気でございまして、おまけに明日5/ 30はサガン鳥栖と浦和レッズの試合があるそうで、サッカーファンも大挙して鳥栖の街に集合しているのかと思いきや・・・いい感じでスカスカな街の様子と鳥栖駅の風情ある佇まいに思い切り和んでしまい、部屋のベッドでゴロゴロして居眠りしてしまいそうなところを我が身に鞭打つ様にMacBookに向かっているわけなんですけれども、これがまた何を書くか全く思いつかないままタイプしているわけで、イタズラに字数を稼ごうとしているのもそろそろ限界が近づいてきているわけでw
そういえば、ドラムマガジンのチューニング部Z が6月号を持ちまして、めでたく連載完了と相成りまして、ご愛読いただい他読者のみなさまには厚く厚く御礼を申し上げます。
このJPC 会報とセットで愛読していただいている方もいらっしゃる様で、嬉しい限りです。
チューニング部が終わったので、今後はこの太鼓奇談がチューニング部の伝統(そんなもんないけど)を引き継いであれこれ与太話を書いていこうと思っていますので、皆様引き続きよろしくお願い致します。m(_ _)m
う~ん、ここまで書いて600 文字か・・・まだ先は長いw
最近の僕の事でも書いてみましょうかね。
僕はといえば最近、矢沢永吉さん率いる若手バンドZ’ s(ゼッツ)のツアーと、今年デビュー15周年を迎えた、ラブサイケデリコのツアーを掛け持ちしている状態で、その合間に、なななななななんと元・はっぴいえんどの松本隆さんのドラマー復帰のお手伝いという大役まで仰せつかってしまい、一体この流れはどういう事なのかと、あまりにも光栄な仕事ばかりで身が引き締まる思いでおります。が、別に痩せたわけではありませんw
矢沢永吉さんはいつでも本当にエネルギッシュで、ご自身より三回り近く歳の離れた若者たちよりパワフルで色っぽいステージを魅せまくっております。
僕はいつもドラマーの後ろからその背中を見続けて、16 年経ちましたが、未だに本番中に何度も鳥肌が立ってしまいます。
あのトレードマークになっている白いマイクスタンドを蹴り飛ばしてマイクターンを決めた瞬間などは何度観ても、「格好いい!」と感じてしまいます。
あれ、本当にいつ来るかわからないのですよ。直前に「お!くるぞ!」と言うのはわかるのですが、この曲のこの場所と言うのはわからないのです。そのスリルと掛け値なしにオーディエンスを引き付けて離さないあの声、歌唱力。様々な時代に様々な名作詞家の方々と織りなす熱く、甘く、切ない世界観。唯一無二とはこの事ですよね、って言える数少ない歌手だと思います。
メロディーメイカーとして希有な存在なのですね。
いつまでもいつまでも歌い続けていて欲しいと心から願います。そして、そのツアーをずっと守り続けてきた矢沢ツアークルーの結束力も素晴らしいのです。安全管理、協力体制、スピード、完成度。誰一人の力が欠けても成り立たないのです。これはどんなツアーでも同じ事ですね。
一年間の間他のいろんな仕事をして、このツアーのリハーサルが始まる初日にスタジオに機材を搬入し組み上げるセットアップ初日の朝、久しぶりの再会にクルー達はお互いに、「おかえり~」「ただいま~」みたいな言葉が飛び交います。
僕にとってここは間違いなく古巣なわけですねw
そして、このZ‘sツアーと並行して僕は初参加となる、ラブサイケデリコのツアー、今回はスペシャルなツアーとして、ドラマーが高橋幸宏さんなのです。
これは快挙です。
幸宏さんがツアー・サポート・ドラマーとして全国を回るのは矢野顕子さんの「グラノーラ・ツアー」以来の事で、1987 年以来28 年ぶりな訳です。
コレを機にと、グレー・スモークのアクリルでドラムセットを新調し、これがまたかなりタイトでかっこいいサウンドを鳴らしていて、ゴキゲン極まりないワケですよ。
ラブサイケデリコのナオキさんとクミさんは世界一ストーンズが好きで、その他にもビートルズやダイアー・ストレイツなど、クラシック・ロックのエッセンスがその作品に散りばめられていて、クミさんのネイティヴな英語とアンニュイな日本語の歌詞が格好よくミックスされている中に、幸宏さんの「ホンモノ」のビートがぐいぐい絡んでくる誠に贅沢なツアーとなっております。
もうね、ホント、チャーリー・ワッツかリンゴ・スターかっていうくらいのグルーヴなんですね。僕は密かに心の中で、「リンゴ・ワッツ」と名付けた、そのプレイを真後ろで堪能できるこの幸せに感謝です。
そして、松本隆さん。
もう日本を代表する作詞家という事は皆様よ~くご存知ですよね。僕が好きなのは松田聖子さんの秘密の花園や、寺尾聰さんのルビーの指輪など、言い出したらキリがありません。そして何よりも日本語の侘び寂び、風景を言葉で紡ぎ出し、60 年代後半のアメリカやイギリスのROCKに直結したサウンドにその詩を乗せた名バンド、はっぴいえんどのドラマー、作詞家としてその後の日本のポップスに与えた影響は計り知れません。
その松本さんのドラムセットを手に入れる事から始まったこのプロジェクト、実際にお会いしてお話しさせていたその時間は僕にとって宝物のような時間でした。まだ終わったワケではありませんがw
「せっかくならリンゴと同じドラムがいいな」の一言で、ラディックのブラックオイスターを手に入れ、都内スタジオに搬入し、セットアップ、チューニング。
「あの当時の音を」というよりはナチュラルにドラムのいいサウンドをまず引き出してお渡しし、その後お話して微調整。
「THE BANDとか好き?」と訊かれ、即答で「もちろんです!」「じゃあ、リヴォン・ヘルムみたいなサウンドがいいなぁ」となり、「ぅわっかりました!少々お待ちください」てな具合でコトは進み、「出来上がりました~」とお伝えするとスタジオの中ではっぴいえんどのCDに合わせてプレイしてくださいました。名曲「花いちもんめ」のキックパターンの種明かしなど、充実した数時間を過ごした後に、「とてもいい音にしてくれてありがとう、これからもよろしくね」と言っていただき、天にも昇る気持ちでお見送りしたのを覚えています。
しかも、僕と松本隆さんの間に入ってスケジュールの調整などをしてくれている、このプロジェクトのリーダーは、元・ハックルバックのドラマー、林敏明さんと言う贅沢。
こうなってくると僕などはもう、「門前の小僧」なわけで、大名人の仕事の端っこを丁寧お手伝いさせていただくという気持ちで、緊張しつつ楽しむ姿勢で現場に向かいます。
今年3月には猪野秀史さんと言うフェンダー・ローズ・エレクトリック・ピアノを弾く素晴らしいミュージシャンの東京と大阪公演に林立夫さんのテックとして、お手伝いさせて頂きました。自分で書いていてくらくらしますw
そんな時に、いつも自分に言い聞かせていることがあります。
あまり、と言うかほとんど口にはしませんが、自戒の念を込めて、自分に言い聞かせているその言葉は「今が一番いい時だ、驕る事なく誠実に。明日には何もなくなっているかもしれないのだから」と。
いつもいつも素晴らしい音楽のそばにいるとそれが当たり前になってしまいます。そのこと自体は否定できません。
でも、その素晴らしい音楽を作っているのはあくまでもミュージシャンの皆さまです。僕ではありません。僕は音楽の端っこに職人の一人として関わっているだけなのです。
でもその端っこがダメになると、音楽という家が傾いてしまいます。これは絶対にいけません。最悪です。なので、肝に銘じているわけです。「自惚れるな」と。
気心しれた仲間内では「スネア最高だね~!よっ日本一!」「まぁね~w」なんて軽口も叩いたりしますが、それは裏返すと、「明日も明後日もナイスサウンドをキープしてくれよ」と言うことなのです。ドラムテックだけじゃありませんね。
ギターもベースもキーボードも、音響さんも照明さんも、大道具さんも鳶さんも、みんな同じ事です。
馴染みのお蕎麦屋さんが急に不味くなったらやっぱり行かなくなるでしょう?何故そうなったのか、原因は知りたいけど、やっぱり不味くなったら行きません。そういうことなのです。
ベテランの皆様の話ばかりになってしまいましたが、若いバンドともお仕事させていただいておりますw
最近ですと、[Alexandros]というバンドと一緒にレコーディングして、ライブもやって、台湾にも行ってきました。
この若い四人組、音楽もかっこいいし、歌詞がすごくいい風景を観せてくれるので大好きです。彼らと一緒にいると、僕も若返ったような気になり、アレコレとROCK 談義に花が咲きますね。これからどんどん活躍するバンドとなるでしょう!
もう一つは「ゲスの極みの乙女」です。強烈なインパクトのバンド名ですが、[Alexandros]とも仲のいいバンドで、僕のキャリアの中では珍しく女性ドラマーのお仕事です。
ダンサブルでちょっとヘンテコなサウンドがこれまた面白いバンドです。
その他はあの真夏バンドの新譜で僕と村上尊師が同じアルバムで仕事していたり、星野源くんのレコーディングだったり、Diggy-Mo’(ex/SOUL’ d OUT)のソロツアーだったり、毎年恒例のフジロック、ワールドハピネスと今年も盛りだくさんです。
どんな楽器に出会って、どんな音楽を奏でるのか、毎回緊張と楽しみの狭間で刺激的な時間を過ごしていられるこんな人生を与えてくれた音楽の神様に感謝ですね。
なんだか自慢話になっちまいましたが、たまにはいいかなw
だって、自慢したくなる顔ぶれなんだもんw
でも、気持ちは引き締めて。体調管理と暴飲暴食に気をつけて・・・と思ったらクルー仲間から「鳥栖で一番うまいうどん食いに行きましょう!」と緊急連絡が入ったので、ちょっくら晩飯に行ってきますw
では、またこの紙面でお会いしましょう!
暑くなってきたので読者の皆様もお体に気をつけて。
愛と尊敬と感謝を込めて。
■つちだ“つっちー”よしのり プロフィール
1969 年生まれ。11 歳の頃YMOの高橋幸宏に衝撃を受けドラムを始める。現在はフリーのドラムテック&ローディーとして矢沢永吉や、凛として時雨、高橋幸宏(YMO)、サカナクションなどのツアーやレコーディングに携わっている。
自身のバンド254soulfoodでは地元のクラブ鶴瀬パオパオで定期的にLIVEを行っている。
プレイヤーとしての参加作品はHARRY「BOTTLE UP AND GO」本園太郎「R135 DRAFT」など。
蕎麦と落語と読書に酒、煙草好きの堅太り。
執筆者:土田 ”つっちー” 嘉範