のりこの小部屋 ~Noriko’s small room~
のりこの小部屋 第三回|マリンバソリストになるには Vol.2
JPCMAGをご覧の皆様、こんにちは。
マリンバ奏者の塚越慎子(つかごしのりこ)です。
2025年もあっという間に終わりが近づき、改めて時の流れの早さに驚かされます。
さて今回は「マリンバソリストになるには Vol.2」。
前回に続き、ソリストとして活動する上で大切にしていることをお話ししたいと思います。
ソリストに必要な“圧倒的な積み重ね”
前回お伝えしたように、ソリストには
圧倒的な練習量と勉強量、そしてそれを続ける精神力と根性
が欠かせません。
この“圧倒的な”という言葉に込めた思いが、少しでも皆様の中に響いていたら嬉しいです。
ときにはサボりたくなる日、少し休みたくなる日、投げ出したくなる日もあります。
そんなとき私は、将来の自分が今の自分に何を求めているかを考えるようにしています。
― 将来の自分が、今の自分に感謝する生き方をしたい ―
目先のことだけでなく、長い人生の中で今なにをすべきか。
そのことを、私自身もいつも心に留めています。
演奏家としての役割
ソリストは、演奏する曲を一から勉強し、練習し、研究し、時間をかけて作品を仕上げていきます。
その過程で私が何よりも大切にしていることがあります。
それは 「作曲家へのリスペクト」 です。
音楽には「作曲家」「演奏家」そして「聴衆(お客様)」が存在します。
「作曲家」は、膨大な知識やさまざまな経験を注ぎ込んで作品を生み出し、それを「聴衆(お客様)」に届けたいと考えています。
その “「作曲家」から「聴衆」へ音楽を届ける” という道のりの途中に「演奏家」が登場します。
「作曲家」は、自身の大切な作品を 楽譜という手紙 に込め、その想いごと演奏家に託してくれているのです。
だからこそ「演奏家」には、その作曲家からの手紙を正しく読み取り、学び、的確に聴衆へ伝える責任があります。
もし作曲家について学ばず、譜面を深く読み込むこともなく、
「なんとなくきれいだから」
「自分はこう思うから」
といった感覚だけで演奏してしまえば、それはもはや作曲家が創り上げた音楽とは言えなくなってしまいます。
結果として、聴衆には “作曲家の意図とは異なる音楽” が届いてしまうのです。
耳あたりの良さだけを追求するのではなく、作曲家の意図を丁寧に学び、研究し、理解した上で演奏する。
そんな演奏家を目指してほしいと心から願っています!
時間をかけて積み重ねる大切さ
作曲家の意図を探求し続けることは、時間も労力もかかります。
頭で理解できても、すぐに音として表現できないことも多いですし、悩み苦しむこともたくさんあります。
でも探求を続けていくうちに、少しずつ
音楽の引き出しや、音色の引き出しが増えていく
ことに気づきます。
それが、演奏をどんどん豊かにしてくれるのです。
そしてその積み重ねが、「作曲家から信頼される演奏家」 へとつながっていき、
説得力のある演奏で聴衆に感動を届けることができるようになっていきます。
いまは何でも “コスパ” や “タイパ” が重視される時代ですが、音楽をはじめとする芸術の学びは、決して効率だけでは測れません。
どうか焦らず、ひとつひとつ着実に、丁寧に積み重ねていってください!
◇ ◇ ◇
塚越 慎子|Noriko Tsukagoshi プロフィール

パリ国際マリンバコンクール第1位をはじめ、ベルギー国際マリンバコンクール、世界マリンバコンクールなど国内外のコンクールにて数々の賞を受賞し、多くの作曲家・演奏家から信頼される、現在最も注目を集めるマリンバ奏者の一人。
国立音楽大学を首席で卒業。同時に「武岡賞」受賞。また、最優秀生として皇居内桃華楽堂にて御前演奏を行う。
これまでに、第8回 日本クラシック音楽コンクール打楽器部門第1位(1998年)、第2回 国際マリンバコンクール(ベルギー)第2位(2004年)、第4回 世界マリンバコンクール(上海)にて「The Talent Award」(2005年)、第22回 日本打楽器協会新人演奏会にてグランプリ(2006年)、第2回 パリ国際マリンバコンクール(フランス)第1位(2006年)等を受賞。
ソロ活動の他、読売日本交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、広島交響楽団、群馬交響楽団、宮崎国際音楽祭祝祭管弦楽団、パシフィックフィルハーモニア東京ほかと共演し、高い評価を得ている。
ドイツ、ベルギー、スイス、ポーランド、アメリカ、イギリス、アルゼンチン等で、ゲストアーティストとして招かれ、ソロリサイタルやマスタークラスを、また2009年には世界最大の打楽器フェスティバルであるPASIC(国際打楽器協会インターナショナルコンヴェンション)においてマリンバソリストとして出演するなど、国際的に活動する傍ら、国内においても、ソロリサイタル、オーケストラとの共演、アンサンブル、アウトリーチ活動等に加え、
NHK「バナナ♪ゼロミュージック」、「ららら♪クラシック」、NHK-BS「クラシック倶楽部」、NHK-FM「ベスト・オブ・クラシック」、「きらクラ!」、「リサイタル・ノヴァ」、日本テレビ系「ナカイの窓」、テレビ朝日系列「関ジャニの仕分け∞ 2時間スペシャル」、「題名のない音楽会」、「ポルポ」等、テレビ・ラジオ、雑誌のメディアへ多数出演するなど、幅広い活動を行っている。
デビューCD「DEAR MARIMBA」は、レコード芸術誌で『特選盤』に選ばれ、その後オクタヴィアレコードより「Passion」をリリース。ジャズ・ピアノの巨匠、山下洋輔から絶賛される。その後の「伊福部昭”ラウダ・コンチェルタータ”、セジョルネ”マリンバ協奏曲”」は、全国の新聞各紙に大きく取り上げられ、話題を呼んだ。
2022年、デビュー15周年を迎え「Cantabile」をリリース。レコード芸術誌において『特選盤』に選出され、レコード・アカデミー賞受賞。
2012年、出光音楽賞受賞。長い伝統と権威あるこの賞の歴史で、初めての打楽器の受賞者となる。
国立音楽大学、洗足学園音楽大学非常勤講師。YAMAHA、米・Innovative Percussion契約アーティスト。
執筆者: 塚越 慎子
編集:JPC MAG編集部

