つっちーの太鼓奇談
つっちーの「太鼓奇談」第十九回|会話の重要性
※この記事は2018年4月発行「JPC 156号」に掲載されたものです。
JPC会報をお読みの皆様、 毎度おなじみ太鼓奇談のお時間がやって参りました。 と、いつもの出だしですが今日はちょっと様子が違います。 一体なにが…?
それはとても寒い一月のある日でした。お正月気分はもうとっくに消え去り、世間 はすっかり日常。そんな真冬の夕方に呑気なおじさんと美女が浅草のとあるビル の古めかしい一室で密会……男の方は古びたコートを身にまといサングラスを 掛け、世間との接触を拒絶するかのように街を歩いている。女はすっと伸びた背 筋でテンポよく歩き口元には微かに微笑みを浮かべていた。両者ともこれから起 こることを幾許かの不安とそれを上回る喜びを持って迎えるように、浅草の街に 古くからあるこのビルへと吸い込まれて行ったのであった…。
な~ンて小説風に書いてみましたが、どういうことかと申しますと、本誌編集者であり、かつてドラムシティの名物店長としてその名をドラム業界に轟かせた、下町のジェダイ・マスター西尾さんからの提案により本誌で連載している、岡田 “太鼓判”梨沙さんと僕の対談を実現して頂きました。 実は僕「対談」ってのが初めてでして、一体全体何をどうやればいいのか全く見当もつかない状態で、ホントにテキトーに西尾さんに言われるがまま、口からでまかせのようなテーマ「私のメロディ、私のリズム」なんて意味ありげなことを言ってみたりして悦に浸っていたのですが、この対談と言うやつ、かなり奥が深いです。と言うか難しい。 僕のことを知っている方ならば口を揃えてこう言うでしょう、「つっちーなら大丈夫、いつもの調子で喋ってればいいから」なんてね。そんなバカげたことじゃなかったのです。 だって、僕がいつも話していることは九割以上意味のないヨタ話でその場で消えて失くなるようなことばかり。 そんな僕が「残る会話」をしなければなりません。これは責任が生まれてきます。 さぁ大変です。 と、気負ったところで、「すでにこの紙面でヨタ話三昧をしているのだからそんなに気負わなくても大丈夫です」と、僕の枕元に立ったジェダイ・マスター西尾さんがヨーダばりに言ってくれたので、気をラクにJPCに向かいました。
対談をしていただく岡田梨沙さんと会うのはまだ三回目くらいで、でも初対面か ら妙に打ち解けてしまい楽しくお話が弾む、とっても笑顔がキュートな女性という印象で、彼女がプレイしていたD.W.ニコルズの音楽を聴くと、朗らかなビートにしっかりとした芯があり、そこにある「歌」の為だけにプレイする素晴らしいドラマー岡田梨沙が居ました。 彼女のそのシンプルで歌心あるプレイ、その奥にはきちんとルーツ・ミュージックへの尊敬と愛情が視える演奏、その秘密はなんぞや?と、そのあたりを対談で訊き出せたらなと思ったのです。が…如何せん僕が喋りすぎて猛反省しながら今この原稿を書いているわけで…汗
具体的な話、例えば普段どんな練習をしているのか?とか、機材の話、プレイで 気をつけていること等々はあまり話題に上らず、なんというか精神的なことや、お互いのルーツ、そして男女の感じ方の違いによる、解釈の違いなどと文字にすると大層なことですが、実際は「こんな時女ってどう思ってんの?」とか、「あ、男の方はそういうふうに感じているのね~」みたいな男女の間に流れる深い川の底を ちょっとだけ覗き見てアレコレ話しているような、なんかとてもふわっとした時間を過ごしていました。
普段から誰と話していても、何気ない一言でハッとして気がつくことがあります が、この対談もそんなことの連続で、カラカラと明るく笑って色んなことをお話してくれたりっちゃんは聡明な本能の人って印象で、男のロジカルと全く違う、いや、男のロジックなんて軽く吹き飛んじゃうような大きなうねりを持っていて、お腹の中にめっちゃグルーヴィーで正確なマシンが入ってるんだなぁと、そのマシン、どこで売ってるの?と問い詰めたくなりましたが、おそらく僕ら男は永遠に手に入らない類のモノなんだろうなぁ~と、悟ってしまったり。だから男と女って面白いんだよねって、言い合える事も凄く良かったし、間を取り持って下さった西尾さんの合いの手もまた絶妙で、とても楽しく対談できたと思うのですが、反省 点はやっぱり僕が喋りすぎだってことで…次こそはりっちゃんにもっと語って貰いたいなとw
次があるのかどうかもわかりませんがw
そして、対談のあとemの宴席がコレがまた盛り上がりまして、そっちも録音しておけばよかったと思うのです。 お酒が入るとまた僕は余計にヨタ話が増えてしまい、皆様をくだらない話にお付き合いさせてしまい申し訳なくおもうのです…。 そして次なる目標は、岡田梨沙さんのプレイを実際に聴きに行くことですね。CDで聴くのももちろんいいのですが、彼女のリアルタイムでの息遣いを体験してみたいと思います。こんなことを言うと、りっちゃんは「あ、わたしもつっちーさんのプレイ聴きたい!」ナンて言ってくれるので、いつか来るその時まで僕はジタバタして少しでも良いプレイをしていたいなと、その秘密をこの対談でちょっとだけ覗き見られた気がするのです。
会話ってキャッチボールで、相手が投げてきたボールを捕った時に相手の気持ちがわかる。それに対して自分の気持ちを込めてボールを投げて相手も自分の気持ちをわかってくれる。 当たり前のことだけど、それに加えて、投げたボールを目で追いながら自分の事を確認しているわけで。 自分の内面に気がつくことが凄く多かった、そんな対談で、企画していただいた 西尾さんとお相手していただいた岡田梨沙さんには深く感謝しております。 宴席を設けて頂いたコマキ楽器の成田さんにも、色んなお話を聞かせて頂き、美味しい料理と旨い酒をたらふくご馳走になり感謝申し上げます。 対談の内容は西尾さんが泣きながら文字起こしした原稿をみんなで読んで、その雰囲気を想像してみてくださいw
パソコンやスマホでいろんな用事が済んでしまい、愛の告白でさえもLINEで済 ませちゃうこんなご時世に、面と向かって「会話」する事を「音楽を演奏する」ということで成り立たせている演奏家、音楽家ってのはやっぱり素晴らしい人生だなぁと感じた一日でした。演奏は音楽と言う会話のための言語。みんなでもっとお話しましょうねw それではまた。皆様のご健康と心の平穏を祈って。
岡田さんからのアンサー記事
※当時岡田さんが連載していた「太鼓判 第六回」からの抜粋です
岡田梨沙の太鼓判へようこそ!
ドラマー岡田梨沙が好きなモノ・コトにバンバンと太鼓判を押していくというこのコーナー。
今回は、そう、みなさまご存知、JPCコラム連載でおなじみの“つっちーさん”こと土田嘉範さんに太鼓判を押させていただきます!
というのも、いつも大変お世話になっておりますJPC西尾さんが前々から、「りっちゃん(私のことです)とつっちーさんの対談やりたいんだよねぇ~」と言っていたことが今回ようやっと実現しまして、今回はその対談を終えての感想みたいなものを書いて行こうかと。
ということはイコール、つっちーさんにたいこばーん!となるわけで。
対談を終えてのまずの感想は、つっちーさんかわいいな~ということと(大先輩相手に本当に申し訳ありません)、本当はすごい人なのにそれをふわっとユーモアで包み込んで相手への圧力をゼロにする、自称“ドラム界の高田純次”はダテじゃないぞと。
まず対談をするにあたってつっちーさんが、今回のテーマは「わたしのメロディ、わたしのリズム」で行こう、とメールをくれまして。
その時点で、「わたし中心なの!!??」と一瞬ビビったのですが、なぜか根拠のない安心感と言いますか、つっちーさんと西尾さんなら大丈夫だろう~きっと。二人に会えるの楽しみだな~なんて、朗らかな気持ちで浅草へ向かったわけです。
対談の内容は(おそらく泣きながら西尾さんがまとめた)対談のテキストを見てもらえればわかると思うのですが、あまりドラムの具体的な話はなく、精神論(ドラムを叩くにあたっての気持ちとか想いの方)や男女の話ばかり。笑
でも正直言いますと、わたしは普段からドラマーで集まって飲んでいてもそういう話ばかりしている気がします。
例えば、友達のバンドのライブを見に行って、楽屋にお邪魔した時とかは、「いや~スネアの音めっちゃよかったよ~。あのシンバル何使ってたの?」とかそれくらいの話はしますが、腰を据えてゆっくり話そう、となった時には、“あなたのドラムのことが知りたいの”というよりかは、“あなたのことが知りたいの”という視点になってしまうのです。(すいません、なんか急にアイドルの歌詞みたいなセリフが出てきてしまいました。せっかくなのでこのままにしておきますが)
その方が興味がある。人柄そのものがドラムに出ますしね。
だから、つっちーさんも同じタイプなのかなと思って、実はとっても嬉しかったんです。
つっちーさんが聞きたかったことにきちんとお答え出来ていたのか、正直不安なところですが、わたしのつたない話も全部優しく大きく受け止め、理解してくれて非常に楽しい対談でした。
うれしい言葉もいただき、西尾さんとつっちーさんに挟まれて褒められるという最高の時間を過ごさせていただきました。
対談を終えて、改めて声を大にして言いたいことは、「音楽が好きな女の子!ちょっとでも興味あったらドラム叩いてみよう!絶対楽しいし、あなたに合っているから!」ということですかね。ベースでも良いですけどね。
わたしは次生まれ変わったらベーシストになりたいです。
やっぱりリズム隊に女の子は向いていると思う。
なぜかというと、、、、、と、そこらへんは対談の内容をご覧いただくとして。。。
あ、そうそう一つ、対談の中できちんと答えられなかったことがありまして。
つっちーさんからの「なぜ60年代、70年代の古い音楽を女子大生の時にかっこいいと思ったのか」という質問に、「なんででしょうね~。かっこいいって思っちゃったんですよね~」としかその時は答えられなかったのですが。
あとから考えまして、それも“恋”だなと。
大学生の時、音楽がとても詳しい先輩ミュージシャンとお付き合いしまして、まさに、それで、なんです。
わたしのルーツミュージックの知識の8割くらいは彼から教わったものです。笑
女の子ってあるじゃないですか、彼氏の影響をもろに受けること。
それが100パーセント良いとも言い切れませんが、それによって自分が成長できることってとってもあるなと。
男性よりも自分の「こだわり」や「カッコつけ」が無いからなのかもしれません。これはなんとなく、対談の内容にも通ずるかと、、、
余談ですが、すごく音楽の趣味が合う友達の女性ミュージシャンがいて、「なんでそこらへんの音楽好きになったの~?」と質問したら、「いやー元彼がそう言うの好きでさー」と答えが帰ってきたので、「あー!めっちゃわかるー!」と意気投合したのですが、実はわたしと彼女の元彼が同一人物だったということがあとから判明。
そんなことある!?って感じでした。めちゃくちゃ盛り上がり、より仲良くなりましたが。笑
余談はさておき、この、彼氏からの影響で音楽を好きなった話を対談の時に出来ていたらもっといろいろ話が発展して盛り上がったかもしれないのになあ。。。反省。
ということで、西尾さん、またやりましょう!笑
次はもっと違う視点で、例えばつっちーさんオシャレだしファッションと音楽、とか、食と音楽、とか、そういうのも良さそう。
とにもかくにも、つっちーさんがドラム界に居てくれて本当によかった。
大きくて優しくて、マジメなのにそこをくだらない事を言って逃げる感じ。
最高です。
まだきちんと一緒にお仕事をしたことがないので、その日のためにこれからもモリモリがんばって行きたいと思っております。
■つちだ“つっちー”よしのり プロフィール
1969 年生まれ。11 歳の頃YMO の高橋幸宏に衝撃を受けドラムを始める。現在はフリーのドラムテック&ローディーとして矢沢永吉、高橋幸宏(METAFIVE,YMO)、松本隆(はっぴぃえんど)、林立夫(Tin Pan)、細野晴臣、[Alexandros]、Diggy-MO'、LITE、
星野源、ピエール中野、RADWIMPSなどのツアーやレコーディング、FUJIROCK FESTIVAL やSUMMER SONIC などの、夏フェスでのステージクルーとしてウロウロしている。
自身のバンド254soulfoodでは定期的にLIVEを行っている。
プレイヤーとしての参加作品はHARRY「BOTTLE UP AND GO」本園太郎「R135 DRAFT」「torch」など。
蕎麦と落語と読書に酒、煙草好きの堅太り。