つっちーの太鼓奇談
つっちーの「太鼓奇談」第九回|その時、その瞬間のサウンドを捕まえる
※この記事は2015年10月発行「JPC 146号」に掲載されたものです。
JPC 会報をご覧の皆様、どうも。毎度お馴染みの太鼓持ちのつっちーです。
早いもので、この連載も九回目となりました。
ドラムシティ西尾店長からユルい感じでお願いしますと依頼されそのまま真に受けて書き続けておりますが、この連載をたまに「毎回楽しみに読んでいます!」という、大変ありがたいお言葉を頂く事もあり、本当に嬉しい反面、こんな連載で申し訳ないという気持ちもありますw
でも、この感じで!という西尾店長からの依頼なので、曲げる訳にはいきません。と、責任転嫁をひとしきり済ませたので、本題に入ろうかと。そもそもこの連載に本題なんぞあった事が今まであっただろうか?と、考え込みそうになりますが、気を取り直して・・・w
先日、西尾店長から一通のメールが来まして、「レモのスムースホワイトスネアサイドを試しに取ってみました、もし良かったら試してみませんか?」と言うメールでした。
「レモのスムースホワイトスネアサイド」
なんと言うけしからん、いや、魅惑的な響きでしょうw
「スムースホワイト好きで、でも、打面だとブラシの時にスイープできないし・・・キックは絶対スムースホワイトエンペラーしか考えられない」と言う僕の好みをドンズバで突いて来た西尾店長のセンスに脱毛、いや、脱帽ですw
だってまず、名前がイカすじゃありませんか。
「スムース」で「ホワイト」なヘッドですよ?
決して「スムーズ」ではありません。「スムース」なのです。
Marvin Gaye “What’ s Going On”と言う超大名盤で全編に流れるグルーヴ、「スムース」なグルーヴですよね。
なんかこの「スムース・ホワイト」は70 年代のSOUL MAN が胸元を大きく開けたイタリアン・カラーの白いシャツにダブルのジャケットを着てセクシーに歌い上げる様なイメージがあります。褐色の肌に映える眩しい白。
そこから繰り出されるのは漆黒のグルーヴ・・・。たまりませんw
んで、すぐ試してみたい衝動に駆られましたが、スケジュールを見ると、如何ともしがたくなかなか浅草へ出向く時間がありません。が、コレも何かのお導きか、突如として夕刻に時間が空き、一目散に浅草へ車を走らせたのですね。
どういう訳か、僕はずっと透明なスネアサイドに疑問を持っていまして、それは大昔に見たラディックの白いスネアサイド、ウェザーマスターだっけ?にそのルックスとサウンドに一目惚れしたのが始まりでした。むっちりとして、パリッとしたスネアサウンドもちゃんとあり、ずっとその存在が気になっていたのですが、いかんせん廃盤モデルなので、見つけるのも難しく、そのままみんなと同じクリアのスネアサイドで演奏していました。オークションが一般的になってからはeBay などで、ちょくちょくチェックしてデッドストックのウエザーマスター・ホワイトを見つけては手に入れていました。
そんな折、つい最近の出来事ですが、愛知県豊橋市の楽器屋さん、シライミュージックの白井としみつ君が、「コーテッド・スネアサイドを作るのでアドバイスをください!」と言うけしからん、いや、非常にいい事を言いまして、ちょこっと協力させていただき、そのプロトタイプと言う、コーテッドが厚いモデルをずっと愛用中でした。
もちろん、シライスネアサイドも最高にいいのですが、ここで欲が出てきますw
「コーテッドじゃなくて、スムースホワイトみたいな、あのラディックの様なスネアサイド、新しく出ないかなぁ」と。
そんな時に西尾店長のメールです。そりゃあんた、晴天の霹靂と言うか、待ってました! いよっ! 日本一! てな気持ちで、手に入れたスムースにホワイトなスネアサイドをJPC のセミナーでデビューしたアクロライト6.5に張ってみた訳ですよ。で、サウンドはと言うと・・・
「おいらはこれが欲しくて今まで生きてきたんだよ、パトラッシュ、わかるかい?」と意味不明な事を呟いてる自分がいるほどそりゃもういい響きだったんです。
クールなんだけどもっちり甘く、ツンデレのツンが3.5 割、デレが3 割、残りの2.5 割はしっかり自分を持っていて、自立している、そんな吉田羊さんの様なクールビューティーな印象です。なんのこっちゃ。
とにかく、粒だちが良くて、ゴーストノートも綺麗なので、無駄にゴーストノートしないでここぞという時に「サラっ」としてみたり、バックビートなんてアンタ、ラス・カンケルのプレイするビル・ウィザーズの”All Because Of You”よろしく、ビシッと決まる訳ですよ。リムをかけても、リムなしでも気持ちいいのなんのって。もう一台の60 年代アクロライト5”にはシライスネアサイド、メインの6半にはスムースホワイトスネアサイド、これでこの夏は決まり!と言う感じですwと、ここまでは名古屋のホテルの一室で書き上げ、翌朝、ホテルを出ると目の前の路上に黒塗りのセダンがビタッと横付け。これはひょっとして怖い人達が出てくるのでは?と思っていたらどこかで見たベイビーフェイスの男。
あぁ!そうだったTAMA のODNK 氏ではありませんか。
あ!そうだったこれから俺はTAMA の工場へ行くんだった!と思い出して、一路瀬戸市へ。
のどかな丘の上にあるTAMA の工場はとても楽しかったです。たまたま、製造ラインが一段落した後で、なんとなく工場の中もほっと一息、まったりムードで、そんな感じも僕にあっていたのかもしれません。以前から一度遊びに来て下さいと言っていただいていたので、念願叶っての工場訪問です。
開発部の方々といろんなお話をさせて頂き、その会話の八割はいつも通り与太話でしたが、興味深い製品のアイディアもたくさんあり、生意気にもちょっと意見を言わせていただきました。
しかし、楽器を作ると言うのは大変な事ですね。
大量生産するには「一手間」を端折らないと需要と供給のバランスが保てないけれど、その「一手間」が本当に大事なので、あえて商売的なバランスより、楽器としての完成度、クオリティを優先させて、様々な木材を楽器として組み上げ、新しい命を吹き込む。丁寧な作業の端っこを見学させていただきましたが、何度も何度も繰り返される塗装の工程、あれ見たら手荒くなんて扱えませんよ。ほんと。
練習スタジオにある楽器だってそうやって生まれてきた訳で、傷だらけになってるドラムセットを見ると胸が痛むのは手間と時間がかかっているからなんだなぁと、自覚しました。
この号が出る頃にはもう秋の風も深まっていると思います。
今回は名古屋のホテル、自宅深夜、自宅午後と三回の時間軸が入り乱れてる原稿になりましたが、どの時間も涼しく、ちょっと乾いた秋の風が吹いてきて、夏の湿気を攫っていってくれました。心地いい時間です。
よく、「今日は湿度がすごいからドラムが鳴らない」と言う話をよく聞きますね。確かに湿度温度の問題は僕ら楽器テックにとっては強敵です。ドラムだけじゃありません。ギター、ベース、ピアノ、パーカッション、ありとあらゆるアコースティック楽器は湿度との戦いです。下手したら、シンセサイザーだって、あまりの湿度でショートしてしまい、楽器生命が一瞬のうちに終わる事だってあり得るのです。
でも、でもですよ?
果たして湿気は本当に悪者なのでしょうか?
湿度ゼロ%なんて世界、ちょっと嫌ですよね?
何事にも「適当」って言葉がある様に、楽器に対する適切な湿度は大体20% 前後なんじゃないかなぁと根拠もなく思ってる次第です。ワインなんかもそれくらいだっていうしね。
でも、ここだけの話、湿気でベタベタになった音が嫌いかというと、割と好きだったりもします。
俗に言う「ウェットな音」ってヤツですね。
ミュートを効かせたローピッチな雰囲気。ドライ&ヘヴィなサウンドは大好きです。アメリカ西海岸なんかの、カラッとした空気の中、広々とした贅沢な空間のレコーディングスタジオでは自分のドラムサウンドが今まで聴いたことのない明るいロスの青空のような突き抜けたサウンドだったり、東海岸のNYあたりのレコーディングスタジオでは、ちょっと落ち着いた大人の雰囲気や、かなりダークでガレージっぽいサウンドだったり。ロンドンでは密度の濃いデッドなサウンド、東京はクリアで整然としてるサウンド。いろんなサウンドを体験してきました。
もちろん一概にはいえないのですが、スタジオの雰囲気や、エンジニアの話し言葉、それとスタジオで食べる食事!
これが一番違うかもw
いろんな出前や外に食べに行く事もあるわけで。
一時期はスタジオの出前メニュー全店制覇!とかやってましたねw
話が盛大に脱線しましたが、湿気も味方に付けて、その時、その瞬間のサウンドを捕まえて楽しんでしまえれば一番いいかなぁと。いつも音楽の神様にお祈りしながら、ねじ回してます。「素敵な音楽のパワーが舞い降りて来ますように」って。その祈りと、チューニングがうまくいったら、あとはミュージシャンの皆様をステージに送り出して楽しむのみ。
いつも思うけど、不思議な仕事です。
居なくてもいいけど、居ないと困る。特に何をするわけでもないけれど、居てくれるだけで安心する。と言っていただける。後衛極まりない事です。
だから僕らは慢心する事なく、職人の仕事をコツコツと誠心誠意仕上げるのみ。
さ、明日は五年ぶりの大舞台。もう夜も更けて来ました。
涼しい夜風に撫でられながら眠ります。
また次の会報でお会いいたしましょう。
ではおやすみなさい・・・zzz
■つちだ“つっちー”よしのり プロフィール
1969 年生まれ。11 歳の頃YMOの高橋幸宏に衝撃を受けドラムを始める。現在はフリーのドラムテック&ローディーとして矢沢永吉や、凛として時雨、高橋幸宏(YMO)、サカナクションなどのツアーやレコーディングに携わっている。
自身のバンド254soulfoodでは地元のクラブ鶴瀬パオパオで定期的にLIVEを行っている。
プレイヤーとしての参加作品はHARRY「BOTTLE UP AND GO」本園太郎「R135 DRAFT」など。
蕎麦と落語と読書に酒、煙草好きの堅太り。
執筆者:土田 ”つっちー” 嘉範