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2024年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲パーカッションセクションへのワンポイントアドバイス
コンクール直前!
NHK交響楽団首席ティンパニ奏者の植松透氏に課題曲演奏の取り組み方を伺いました。これを読むと演奏がガラッと変わるかも?
取材:パーカッション・シティ本山
Ⅰ 行進曲「勇気の旗を掲げて」 / 渡口 公康
4小節目1拍目までが前奏、3拍目からはメロディの始まりですので、音量を小さくするというよりは、前奏の勢いを引きずらずにフレーズの始まりという事を意識して音色や雰囲気を変えると良いでしょう。
シンバルはAの頭に音符がありませんので実際には止めるのですが、自分の頭の中では四分音符が書いてあると思って演奏すると、綺麗な二分音符になるのではないかと思います。休符だという事を意識し過ぎず前に進んで行く気持ちを持って演奏しましょう。A8小節目の二分音符も同様です。
グロッケンはB7小節目「C、B♭、A、C、B♭」のB♭からAが半音ですので、Aを弾いた瞬間が一番音が濁ってしまいます。管楽器は前の音が残っていませんので自分の音(B♭)だけが残ってしまう。じゃあそれを止めるっていう事では無くて、濁っているのをちゃんと聴いてる?っていう事です。
この2音の関係を音量で例えると、B♭の方が大きいとAを弾いた時に音がグシャって潰れてしまいますので、Aの方が少しだけ大きくなった方が良いんです。B♭よりAをハッキリ出すっていうのかな…。音量を意識するのでは無くタッチを変えて弾く事で、結果ほんの少し大きく聴こえるという感じです。
その後のフレーズもちゃんと歌いましょう。
1つ目が「C♯」次は「C」ですよね。半音下がっている事を明確にするために「C」はタップリ歌います。
まずはフレーズを歌ってみる。どのように歌うと一番綺麗に聴こえるかを探して、それを楽器で演奏するにはどのように表現したら良いのかを考えてください。自分の歌い方通りの音が楽器から出ているか?出ていないなら、じゃあどうしたら思い通りの音色が出せるのか?こういった意識を持って演奏するのと、何も考えずに「譜面通りに弾けています」では全く違う演奏になってしまいますよ。
私がこの曲のスネアドラムを演奏するとしたら、小さめの丸いチップで細めのメイプル材のスティックを使いますね。硬い素材だと主張し過ぎてしまうと思いますので。
Gのシンバルは、派手に「ジャーン!」と鳴らしてはいけません。オーケストレーションが薄いので、音量を意識する必要はありません。2音目に音が下がるのがきちんと聴こえるように全体をオブラートで包み込むように演奏しましょう。
この部分だけではありませんが、シンバルは大きい音で鳴らす事が出来れば良いという事ではありません。強弱記号を見るだけでは無く、その場面でどのような音量と音色を求められているのかを考えながら演奏しましょう。
Kのスネアドラムのラフは、少し前めに大きめで良いと思います。ここまで管楽器主体で寄り添うように「本当にマーチなのかな?」と思ってしまうほど綺麗に演奏して来ましたが、この瞬間でキリッと引き締める。この曲で一番硬い音をここに持って来る。ここから先は打楽器が全体の核となる「軽快な行進曲」です。音量では無く全員が行進しながら演奏出来るような心地良いリズムで導いてあげましょう。
Ⅱ 風がきらめくとき / 近藤 礼隆
2小節目のバスドラムは、如何に楽器を豊かに響かせる事が出来るか、如何にハーモニーに近い音を作れるか。ハーモニーを支える、もしくは包み込む。「ドン!」という音だけではなく「ブーン」という響き。じゃあその音はどんな音なのか。エアコンの室外機のように心地良くない音なのか、それとも洞穴の中に「ゴー!」と吹き込む風のような音なのか。
管楽器のハーモニーにバスドラムが加わる事で、そのハーモニーの情景がどんなものなのかを決める役割だと思うと良いのではないでしょうか。
5小節目のティンパニも同様で、なぜ今度はバスドラムだけでは無いのか。「B♭dur」にティンパニが入ると「実に落ち着いたB♭dur」になるんですよ。
ハーモニーの中に「実に落ち着いた」のような「〇〇〇な」という言葉を付けられる音楽にする事が打楽器の役割です。そのような事をイメージしながら演奏すると良いでしょう。
最後のウインドチャイムですが、例えばハープだったら、この音から始まって、この音まで上がったら帰って来てってしっかり音が決まっていますよね。でもウインドチャイムだとこういう書き方になっちゃうじゃないですか。だからこそ、一番上から始まって一番下まで行ったら一番上に戻ってを繰り返すのでは無くて、もっと自由に考えてみましょう。どこから始めるのが良いか?どこまで行ったら戻る?次はどこまで?というように、この部分に合うグリッサンドをイメージして研究してみてください。
Ⅲ メルヘン / 酒井 格
Aのバスドラムは、誰かに合わせるのでは無くて、自分が一番カッコ良いと思う「ドドドドン!」を演奏しましょう。ちょっと異質というか、それを聴いた他の人が「えっ?」て思っちゃうような。
冒頭で綺麗に纏まるじゃないですか。その雰囲気がガラッと変わってしまうようなイメージです。これから唐突にどんどん変わっていく音楽の幕開けですからね。
Eのタンバリンは、トランペットのリズムと完全に同じにならなくても良いと思います。トランペットの方が少し自由な感じで。だからタンバリンの方が正確なリズムで演奏するべきだと思います。
Iのシロフォンとタンバリンの関係も同じです。
Nのバスドラムは、装飾の数の違いを明確にしましょう。そしてこの3発目!どこかにありませんでしたか?そうです、Aの頭で演奏したのはこの音なんですっていうのが最後に分かる。最初は違和感があったかも知れないけど、この曲の場面の移り変わりはバスドラムの「ドドドドン!」から始まって「ドドドドン!」で終わるんですよ?っていう遊び心を持って変化を楽しんで演奏してください。
Ⅳ フロンティア・スピリット / 伊藤 宏武
八分音符が2つ並ぶ、随所に出て来るキメの部分はしっかり噛み締めるように意識して軽くならないようにしましょう。全部同じにするという事ではありませんが、嚙み締める。マーチなんですけど、キメのところで一旦行進が止まる事もあったりするような感じです。
Cのグロッケンの部分を聴いていたら、カントリーウエスタンのバンジョー演奏が頭に浮かんできました。リズムや音量を揃える事を意識し過ぎずに軽やかに演奏しましょう。
スネアドラムには、マーチで当たり前のように出て来る八分音符の裏打ちの部分が無いのが特徴ですよね。誰かと同じリズムという部分も少なく、1人で朗々と叩き続けるソリストのようなイメージです。部分的にはピッコロソロのような口笛を吹いているような軽いイメージのところもあったりします。
自分らしく表現豊かな演奏をしましょう。
■植松 透プロフィール
NHK交響楽団首席ティンパニ奏者。東京都出身。N響海外派遣員としてベルリンに留学、R.ゼーガースのもとで研鑽を積む。オーケストラ活動の傍ら国内外の音楽祭、ワークショップにも多数参加。ソリストとしても武満やグラスの作品などN響と度々共演、N響定期公演年間ベストソリストにも選出された。
先日も愛知室内オーケストラとウォーカー、ドアティの打楽器協奏曲(共に日本初演)を共演。また幼児と音楽の関わりを打楽器の視点から捉える研究も長年続けており、主宰する「たいこアンサンブル・トムトム」では全国の幼稚園や特別支援学校、被災地などを訪れ、子どもたちとの音楽遊び活動を展開している。ピタゴラスイッチ、ムジカピッコリーノ、音楽ブラボーなどETVの教育番組にも数多く出演。現在は埼玉県ときがわ町の山あいに居を移し、豊かな自然の中で地域の人々や子どもたちとの交流を通して楽しく心豊かな音楽作りを日々模索している(稲作もしています…無農薬・手植え・手刈り!)。
執筆者:パーカッション・シティ 本山
取材協力:NHK交響楽団首席ティンパニ奏者 植松透
編集:JPC MAG編集部