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PAS機関紙翻訳シリーズ|「8時から5時まで」働くマーチング・パーカッションの女性たち
PAS(PERCUSSIVE ARTS SOCIETY)機関誌で公開されていた過去の記事をスミスメグミさんに翻訳していただきました。 ※本記事は、打楽器芸術協会(Percussive Arts Society)の学術誌《Percussive Notes》2026年8月号に掲載された“ジュヌヴィエーヴ・ヒルバーン”さんの記事をもとに、著者がJPC向けに加筆・修正したものです。
前書き
日本でも、吹奏楽部やマーチングバンドでパーカッションを担当する女子生徒は珍しくありません。では、卒業後にその道をプロとして歩む女性は、どれだけいるでしょうか。
今回ご紹介するのは、私の友人であるジュヌヴィエーヴ・ヒルバーンさんが書いた記事です。アメリカのマーチング・パーカッション界で働く女性たちへのインタビューをもとに、業界の現状を描いています。
記事によると、中高生の段階では男女比はほぼ半々。ところが、トップレベルのワールドクラス団体のパーカッション専門スタッフでは、女性は243人中わずか8%(2026年)にとどまります。ランクが上がるほど女性が減っていく実態が、数字から浮かび上がります。
インタビューに登場する女性たちは、「女性は力が足りなさそう」という思い込みと向き合い、男性以上の成果を求められてきたと語ります。一方で、2026年にサンディ・レニックが女性パーカッション奏者として初めて、DCI(ドラム・コー・インターナショナル。アメリカ最高峰のマーチング競技団体)の殿堂入りを果たすなど、前進の動きも紹介されています。
彼女たちが求めているのは、特別扱いではなく、プロとして対等に認められること。その支えとなるのが、女性のメンターや、味方になる男性たちの存在だといいます。
進歩は決して保証されたものではありません。それでも、困難を乗り越えてきた女性たちの姿に、記事は希望を見いだしています。友人として誇らしく思うと同時に、音楽に携わるすべての人に、ぜひ読んでいただきたい一本です。
Megumi Smith
「8時から5時まで」
働く マーチング・パーカッションの女性たちが、自分の言葉で語ります
Text by ジュヌヴィエーヴ・ヒルバーン
2026 年8月、サンディ・レニックさんが、女性パーカッション奏者として初めてドラム・コー・インターナショナル(DCI)の殿堂入りを果たします。DCIが誕生してから、実に54年。ようやく訪れた瞬間です。 サンディさんは、サンタクララ・ヴァンガードやトルーパーズ・ドラム&ビューグル・コーで、長年フロントアンサンブルのアレンジを手がけてきた方です。フレッド・サンフォード賞のパーカッション部門でも、数々のタイトルを獲得してきました。マーチング・パーカッションの世界に女性がいなかったわけではありません。それでも、教育者として、アレンジャーとして彼女が積み重ねてきた仕事が、あとに続く女性たちの道を切り拓いてきたことは間違いありません。サンディさんというと、堂々として落ち着きがあり、自信にあふれた「巨匠」の姿を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。でも、そんな彼女でさえ、恵まれた環境にいながら、女性であるがゆえの差別や侮辱と無縁ではいられませんでした。キャリアのはじめのころ、指導者や仲間たちの目の前で、性的でひどい言葉を浴びせられたことがあったそうです。彼女はこう振り返ります。「一生忘れないと思います。だって、(その指導者が)何も言わなかったんですから。本当に信じられませんでした。だって、
もう学校に通っている身ではなかったんです。何年も教える仕事をしてきた、れっきとした大人でした。それなのに、誰もかばってくれなくて。みんな、ただ笑っていたんです」この出来事は、もう何十年も前のことです。でも、今のマーチング・パーカッションの世界で女性たちがどんな立場に置かれているのかを知るには、ここから始めるのがいいと思います。この記事では、その今の姿を、当事者である女性たち自身の言葉でお
伝えしていきます。
ここ数十年で、マーチングの世界が女性メンバーを受け入れ、大切にしていくあり方は、間違いなく大きく前進してきました。2010年代後半から2020年代にかけて、社会や政治の面で見直しを求める動きが高まり、その流れの中で、いくつもの節目となる出来事が生まれています。そのひとつが、すでに形になっている取り組みです。たとえば「Girls March」は、「若い女性音楽家のための1週間のリーダーシップ研修セミナー」です。「若い女性たちが、女性のロールモデルと直接交流しながら、将来プロとして活躍するために必要な技術やリーダーシップを身につけられる、支え合えるコミュニティをつくること」を目標にしています。創設者のレイチェル・テイラーさんは、「(女性の演奏者たちに)『あなたはひとりじゃない、同じような経験をしている人はたくさんいる』と実感できる場所を用意することが大切」だと語ります。「そして、たとえ地元のドラムラインで女の子が自分ひとりだったとしても、これからはいつでも戻ってこられる支えができたわけです」もうひとつの取り組みが「IN STEP」です。これはDCIの小委員会で、「メンバーからスタッフ、リーダーシップに至るまで、DCIのあらゆる場面で、女性、黒人、有色人種、そしてLGBTQ+の人たちが参加できるようにすること」に力を入れています。
同じ時期に、マーチング界の中で問題を起こしたパーカッション界の有力者たちが、職を追われ、コミュニティからも締め出されました。これもまた、連帯の大きな表れであり、さらなる前進だと受け止められています。ただ、意外に思われるかもしれませんが、不正行為や暴行の疑惑があったにもかかわらず、一部のサークルでは、今もこうした人たちが敬意をもって語られているのです。この点こそ、女性マーチング・パーカッション奏者や、パーカッションの仕事に携わる女性たちの今の状況を知るうえで、とても大切な手がかりになります。スペクター・パーカッションのアン・ターナーさんは、こう話します。「あからさまな女性蔑視は、もうそれほどなくなったと思います。
でも、言葉にされない空気のようなものは、まだ残っています。そういうものがなくなって、ただ純粋にドラムを叩くことに集中できたらいいなと、心から思います」カロライナ・クラウンのサラ・ファビアン博士は、こう語ります。「ここ数年、インクルージョンを求める動きは本当にすごい勢いでした。それでも、残念ながら、性別によって見て見ぬふりをする速さが違う人は、この世界にまだいるんです」では、もっと公平なペ
ージェントリー・パーカッションのコミュニティをめざすなら、私たちはこれからどこへ向かえばいいのでしょうか。その問いに向き合うために、まずは「今、私たちがどこにいるのか」を、しっかり見つめるところから始めましょう。
マーチング・パーカッションのセクションに女性が参加することは、以前に比べて、今ではずっと当たり前になってきました。かつては、ドラム・コーやインドアのアンサンブルのパーカッションセクションに女性が1人いるかどうか、というのが何十年も続いていました。それが今では、どの団体にも少なくとも数人の女性パーカッション奏者がいるのが普通です。「インディペンデント」レベルに上がる前の段階では、女性の参加率はさらに高くなっています。スピリット・オブ・アトランタのフロントアンサンブル・マネージャー、エミリー・マギーさんも、高校のパーカッション指導者としての経験から、同じことを実感しているそうです。「最近は、男女のバランスがかなり取れていて、5対5くらいは普通ですよ。女性のほうが多いバッテリーを指導したこともあります」ワールドクラスのスネアドラム・インストラクターで審査員も務めるエリアナ・ヤムーニさんは、こう振り返ります。「中学や高校のころは、いつも才能あふれる女性パーカッショニストに囲まれていました。大学に入って初めて、パーカッションの世界で女性でいることがどれほど珍しいのかに気づいたんです」ただ、ランクが上がるにつれて女性が減っていく傾向は、今もずっと変わりません。中高生から「インディペンデント」の参加者(DCI/WGI)、インストラクター、そしてプロのリーダー(キャプション・リーダー、デザイナー、審査員)へと進むほど、その傾向は続いています。2026年シーズンを迎えるドラム・コーのワールドクラス・ファイナリスト団体では、パーカッションの専門スタッフ243人のうち、女性と見られる人は8パーセントにとどまります。内訳は次のとおりです。
- デザイナー:1人(サンディ・レニックさん)
- キャプション・ヘッド:1人(ローレン・ティールさん)
- バッテリー・パーカッションのインストラクター:3人(サラ・ファビアン博士、
カリ・リダルさん、エリアナ・ヤムーニさん) - フロントアンサンブルのインストラクター:15人
この数字は、今年の夏に出場する、2025年ワールドクラス・ファイナリストの全11団体の最新スタッフ名簿(2026年5月時点で、各団体の公式サイトやSNSに掲載されていたもの)をもとにしています。この条件で見ると、11団体のうち10団体に、少なくとも1 人は女性のパーカッションスタッフがいることになります。
女性の演奏者たちがマーチング・パーカッションの世界に入ってきた今でも、かつて彼女たちを締め出していたのと同じ「性別による思い込み」に、いまだに縛られています。D・アントワネット・ハンディさんは、著書『Black Women in American Bands and Orchestras』の中で、この現象を歴史的な視点から記録しています。それによると、マレット・パーカッションはバッテリーの楽器よりも「女性的」というイメージがあり、そのおかげで、女性がプロのパーカッションセクションに入る最初のきっかけをつかめたのだそうです。この指摘は、ページェントリーの世界にいる女性たちがすでに感じていることを裏づけています。つまり、自分たちが判断されているのは生物学上の性別ではなく、むしろ「社会がつくり上げた性別の枠組みと、そこに込められた期待」なのだということです。エミリー・マギーさんも、そう話しています。ブルーコーツのフロントアンサンブル・インストラクター、エマ・キーゼルホルストさんは、こう語ります。「多くの女の子たちが、常に『あなたはこのバッテリー楽器をやるには、あるいはトップのアンサンブルに入るには、力が足りなさそうに見える』という思い込みと闘わなければならないと思います。しかも、それを常に証明し続けなければいけないような気持ちになるんです」インタビューに応じた人たちのほとんどが、同じような経験をしていました。女性だからという理由で、不当に厳しい目で見られないよう、男性メンバーの基準を上回らなければならないと感じたり、はっきりとそう言われたりしたというのです。有力なファイナリスト・ドラム・コーに所属するトランスジェンダー男性のパーカッション奏者(公表は希望していません)は、「男性らしさ」に近い立場ならではの視点を、こう語ってくれました。「女性の仲間が、『みんな性別のことばかり気にして、演奏の質をもっと見てほしい』と悔しがっているのを聞いたことがあります。気持ちはいつも理解していましたが、男性的な見た目だった私は、正直そこまで強く実感することはありませんでした」。彼が公の場でより強い反発を受けるようになったのは、「目立つリーダーの立場にいるときに、女性だと間違われた」ときからだったといいます。ブローカン・シティ・パーカッションのフロントアンサンブル・インストラクター、アヤ・ストラウスさんは、こう振り返ります。「教え始めて最初の数年間は、意識して、できるだけ地味な服や、ぶかぶかで性別を感じさせない服を着ていました。着る服によって人の接し方が変わることに気づいたんです。それが人との関わりに影響してほしくありませんでした。たぶん、私は女性として見られたくなかったんだと思います。ただ、ひとりの人として見てもらいたかったんです」
この記事のために集めた体験談の中で、性別への思い込みをめぐる大きな悩みとして浮かび上がってきたのは、バッテリー・パーカッションとリーダーの立場が重なる場面でした。どちらも、マーチング・パーカッションの専門職の中で、統計的に女性が就くことがもっとも少ない役割です。2025年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表された研究「Everyday Challenges to Women’s Presence and Authority Yield Greater Burnout and Less Persistence in a Male-Dominated Profession(日々の中で女性の存在や権威が疑問視されることは、男性中心の職業における燃え尽きの増加と継続率の低下につながる)」は、こうした体験を理解する助けになります。この研究には、次のように書かれています。「実験室での研究から、女性が、とくに男性的とされる立場で権限をふるう姿を見たとき、人は驚き、その反応は嫌悪感から妨害行為にまで及ぶ可能性があることが示唆されている」ブローカン・シティ・パーカッションのバッテリー・インストラクター、ベロニカ・ウィックスさんは、そうした立場にいたころをこう振り返ります。「話をさえぎられたり、軽く扱われたりしないように、もっとはっきり、率直に発言しなければと感じることがよくありました。とくにドラム・コーのキャプション・ヘッドをしていたころは、自分の意図が正しく伝わっていないと感じる場面があって、私のアイデアや意見が真剣に受け止められるまでには、しばらく時間がかかりました」スピリット・オブ・アトランタのクワッド(マルチタム)インストラクターで、パシフィック・クレストのフロントアンサンブル・インストラクターでもあるテイラー・プールさんは、こう話します。「私をその立場に導いたスキルや、評価されてきた長所が、いつのまにか、周りの人たちにとって問題視される特性そのものになっていたんです。情熱的だとか、熱
心だとか、優しいとか、思いやりがあるとか、そうやって女性の指導者をほめておきながら、リーダーの立場になったとたん、同じ長所が短所に変わってしまうのだとしたら、どうして私たちは女性の教育者をもっと引き上げたいと言えるのでしょうか」
マーチング・パーカッションの専門職の中でも、とくに女性が少ない分野については、ページェントリー特有の採用事情のせいだとか、まだ十分な時間がたっていないからだとか、そんなふうに説明されがちです。けれども、居心地の悪い環境が放置されたままだと、「自分がその場を離れるのがいちばん前向きな解決策だ」と感じる女性もいます。エリアナ・ヤムーニさんは、女性が少ない背景には、もっと能動的な原因があると考えています。「自己成就予言のようなものも働いていると思います。『女性はこの立場ではうまくいかない』という思い込みが根底にあると、実際にそういう目で見られてしまうんです。重要な役割を担う力が十分にあっても、歓迎されなかったり、支えてもらえなかったりする環境に直面することがあります。残念ながら、最終的に身を引くしかなくなる人もいます。結局のところ、自分の心の健康や幸せがいちばん大切です。それを誰かが脅かしてくるなら、自分を選ぶしかないんですよね. トゥルーパーズ・パーカッションのキャプション・ヘッド、ローレン・ティールさんは、こうした環境を乗り切るための、もうひとつの方法について話してくれました。それは、彼女自身が「そうせざるをえない」と感じていたものでした。「とてもつらい状況に置かれたことがあって、そのとき私は、何事もなかったかのようにふるまいました。非難されたり、レッテルを貼られたりするのが怖かったんです。でも、自分の生徒にはそんな対応を勧めたくありません。もし生徒がこんな話をしてくれたら、本人に代わって私のほうが悔しくなると思います。『闘ってほしい』と思うはずです。ただ、社会によって刻み込まれた意識のせいで、声を上げるのが怖くなるんです。『声を上げたら、自分は何を失うんだろう』と考えてしまうんですよね」
こうした体験は、プロの現場でも教育の現場でも、支えとなる環境を意識的につくっていく努力がどれほど大切かを物語っています。ファントム・レジメントのフロントアンサンブル・インストラクター、チャーリー・ドーハティ博士は、そのために、頼れる女性のメンターの存在はどれだけ強調してもしすぎることはないと話します。「ジュリー・ダビラさんは、この活動や、この業界で女性として生きていくうえで、私にとってもっとも大きなメンターのひとりです。何に気をつければいいのか、どう振る舞えばいいのか、そしてこの道のりのなかでどうやって自分自身を守ればいいのかを、たくさん教えてくれました。彼女がこうした女性たちのために土台を築いてくれていなかったら、今のような規模で私たちが活動できていたかどうか、正直わかりません。本当に感謝しています」コルツのアシスタント・フロントアンサンブル・マネージャー、ミーガン・ホブスさんも、教育者としての仕事のなかで、こうして次の世代を守り育てることをとても大切に考えています。「私がこの仕事を続けているのは、自分が守ってもらえなかった分、生徒たちのことはちゃんと守ってあげたい、という思いがあるからなんです」
この取り組みは、関わるすべての人が担えるものです。なかでも、男性の味方(アドボケイト)の存在は、成功のために欠かせません。ベロニカ・ウィックスさんは、こう話します。「状況が変わるのは、特定の立場に女性を、と考えてくれる人が増えたときだと思います。今の時代の空気を考えると、女性が別の女性にリーダーの立場を与えるだけでは、変わっていきませんし、変わりません。両方の側から動いて、はじめて変わるんです。私は幸運にも、私のために道を開いてくれた人たちと出会うことができました。この世界には、性別に関係なく仕事やチャンスを開いてくれる、画期的なリーダーたちがいて、私はそういう方々に囲まれてきました。正直なところ、マイク(・ジャクソン)さんのように、扉を開いてくれる人と一緒に仕事をしていなかったら、今のようなチャンスをいただけたかどうかもわかりません」サンディ・レニックさんは、マーチング&ルーディメンタル委員会で活動していたころのことを、こう振り返ります。
「マーチング委員会の委員長は、いつもとても協力的で、『できるかぎり、私たちの取り組みについて女性の意見も聞くようにしている』と、気軽に言ってくれる人でした。まだ私が自分に十分な自信を持てていなかった時期に、本当に味方になってくれたことは、間違いなく大きな支えになりました」テイラー・プールさんは、さらにこう続けます。「いちばん改善の余地が大きいのは、男性の方々です。こういうことが起きるのが
嫌だと思うなら、実際にそれが起きたその場で、あなたは何をしていますか。声を上げたら自分が悪く見えるんじゃないかと怖くなっていませんか。もしそう考えてしまうのなら、それもまた問題の一部なんです」
ここまでさまざまな声を紹介してきましたが、この記事の調査対象には偏りがあることも、忘れてはいけません。ここに登場するのは、いわば「たどり着いた」人たちの視点です。つらい経験を乗り越えられるだけの支えがあった人たちなのです。私たちを応援し、私たちの活動を後押ししてくれた個人や団体の存在、そして女性マーチング・パーカッション奏者への支援が全体として広がってきたことの証でもあります。けれども、私たちの経験が誰にでも当てはまるわけではないことも、私たちはわかっています。アン・ターナーさんは、こう話します。「あなたや、ほかにインタビューを受けている女性たちのように、パーカッションの世界で知られる存在になった女性は、周囲からの評価に守られて、ほかの人たちが受けているような不当な扱いの一部を免れているように思います。私たちは、周りの人が認め、尊敬してくれるだけの技術と才能のレベルに達していて、そのおかげでコミュニティという安全網があります。私たちを軽んじれば、社会的な代償が伴うのです。でも、若い人や、まだ実績の少ない女性は、脇に追いやられたり、真剣に取り合ってもらえなかったりしやすいようです(とくに不適切な行為を報告するときは)。そのせいで、女性蔑視的な行為の被害にあいやすくなっているのだと思います」こうした思いがあるからこそ、この記事に登場する女性たちは、自分たちの経験を伝えることが大切だと考えています。サンディ・レニックさんは、「私のような立場の人間が持つ影響力や発言力」を自覚していると言います。「それを軽く考えてはいません。変化を起こすには、影響力のある立場にいる人たちが、その責任の一端を引き受ける必要があるんです」
エミリー・マギーさんは、コミュニティの中で確かな立場を築いている人でさえ、この話題を持ち出すのは簡単ではないと話します。「この話題を出したとたん、みんなすぐに『私を性差別だと責めるなんて、どういうつもりだ!』と言うんです。そこで私は『まあまあ、落ち着いて。ただ話し合いたいだけなんです』と思うんですよね」インタビューに応じた女性たちは、全員がはっきりと伝えてくれました。仕返しがしたいわけでも、特別扱いや近道を求めているわけでもありません。ただ、ありのままの自分を、条件をつけられることなく受け入れてもらい、プロとして心から認めてもらいたいだけなのです。ミーガン・ホブスさんも、こう言います。「これは、私たちを持ち上げてほしいという訴えではありません。どんな場でも私たちが責任者になるべきだとか、特別扱いが必要だとか言っているわけでもないんです。ただ、『どうして女性がここにいるの?』と疑ってかかる反応が、まだ多くの人の本能的な反応になっています。それを乗り越えていかなければならないと思います」私たちが自分たちの経験を伝えるのは、今の状況に気づいてもらい、公平さの面で今後どんな前進があるべきかを、みんなで考えるきっかけにしたいからです。ドーハティ博士は、こう話します。「私は、グ
ループが優れた成果を出したことで評価されてほしいんです。自分も、素晴らしい仕事をしたから評価されたい。実際にそうなのですから。『女性がやったからなんだかすごい』という理由ではなく」レイチェル・テイラーさんは、こうした対話を通じて、「これから先の女性たちが、自分らしくいていいんだと感じられて、周りに合わせるために自分を偽る必要もなく、ありのままの自分を受け入れてもらえて、頼れる仲間のコミュニティがある」という未来が来ることを願っています。
こうした考え方は、性別の枠を超えて当てはまります。今回は「マーチング・パーカッションの女性たち」を取り上げましたが、これは境界線がはっきりしているため、私たちコミュニティが、より大きな社会的なテーマを見つけていくためのケーススタディになります。女性たちが直面してきた壁は、ページェントリーの世界で少数派とされている、ほかの人たちの経験とそれほど変わりません。有色人種の人たち、クィアの人たち、そしてジェンダーの枠にとらわれない人たちです。先ほども触れたように、こうした少数派の人たちが今日経験している問題の多くは、はっきりとした制度的な差別という形からは離れてきました。けれども、だからといって、こうした問題が、少数派の人たちの職業上の結果に実際に影響を与えうるという事実が小さくなるわけではありません。エミリー・マギーさんは、こう話します。「変化や新しさって、ときにリスクだと見なされるんですよね。だから、リーダーやデザイナーの立場になぜ女性がいないのかを考えるとき、違いや変化を目にするというだけの単純なことが、人の心の奥にある抵抗感を呼び起こしているのではないかと思うんです」誰の中にもある、さまざまなアイデンティティに対するこうした人間らしい偏りに気づくこと。それが、公平性やインクルージョンの面で、私たちのコミュニティがこれからも良くなっていくための大切な一歩です。
この話は、より広いパーカッション界全体にも通じるたとえとして受け取ることができます。もし読者のみなさんが、これまでのどこかで、こうした問題が今もマーチング界に残っているのは、この世界だけが持つ生まれつきのマッチョな気質のせいだ、と考えてしまったことがあるとしたら、そうした先入観を一度脇に置いて、問題が存在する状況をもっと批判的に見つめ直してみてほしいと思います。さらに、そうした考え方が、マーチング界の多くの人たちが懸命に取り払おうとしているステレオタイプを広めてしまうことも、考えてみてください。この記事の筆者である私も、そのひとりです。アメリカのティアⅠ(主要)オーケストラでパーカッションの席に座る女性の割合は、パーカッシブ・アーツ・ソサエティが1975年に奏者の調査を初めて行って以来、この50 年間、ずっと5パーセントのままです。ですから、ページェントリー・パーカッションの女性たちの経験は、決して彼女たちだけのものではないと言っていいでしょう。
その根底にある思いは、私たちの芸術のあらゆる分野に通じるものとして考えられるのです。
この記事は、私たちの今いる場所を示す道しるべであり、これまでに成し遂げてきたことを思い出すためのものであり、さらなる前進に向けた行動の呼びかけでもあります。前進し続けられる保証はありませんし、ここまで歩んできた道のりを守り続けることも、意識して取り組まなければできないことです。これからマーチングの世界に踏み出そうとしている若い人たちにとっては、ここで紹介した体験談を読むと、気持ちがくじけてしまうこともあるかもしれません。ひとつひとつが、参加をためらう理由のように思えるでしょう。けれども同時に、これらの体験は、困難の中でも踏みとどまり、声を上げ、あきらめなかった何世代ものパフォーマーたちの姿でもあります。彼女たちは、苦しみが避けられないものでも、ずっと続くものでもないこと、そしてマーチングを通して、誰もが喜びや成功をつかめることを、その身をもって示してくれています。
少数派とされるパーカッショニストが、ひとり、またひとりと前に進み、この経験を歩んでいくたびに、より公平な未来へと一歩ずつ近づいていくのです。
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インタビュー(ジュヌヴィエーヴ・ヒルバーンによるインタビュー)
- 匿名(トランス男性メンバー)。2026年4月28日
- ドーハティ、チャーリー博士。2026年5月14日
- ファビアン、サラ博士。、2026年4月29日
- ホブス、ミーガン。2026年6月1日
- キーゼルホルスト、エマ。、2026年4月27日
- マギー、エミリー。、2026年5月23日
- プール、テイラー。2026年5月22日
- レニック、サンディ。、2026年5月27日
- ストラウス、アヤ。2026年4月20日
- テイラー、レイチェル。2026年5月3日
- ティール、ローレン。2026年5月15日
- ターナー、アン。2026年4月29日
- ウィックス、ベロニカ。2026年5月26日
- ヤムーニ、エリアナ。2026年4月27日。
◇ ◇ ◇
参考文献
- Calloway, Cassidy Cheyenne.「Whence Comes the Lady Percussionist? The Changing Role of Females in Professional Percussion Positions in the United States, 2011-2020」(「女性パーカッショニストはどこから来たのか? アメリカのプロのパーカッション職における女性の役割の変化、2011〜2020年」)。優等論文、イーストテネシー大学、2020年。
https://dc.etsu.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1740&context=honors - Girls March ホームページ。Girls March。2026年 6月 1日閲覧。https://girlsmarch.org/
- Handy, D. Antoinette. Black Women in American Bands and Orchestras. Lanham, MD: Scarecrow Press, 1998 年。
- 「In Step - DCI」ドラム・コー・インターナショナル、2025年5月27日。
https://www.dci.org/in-step/ - Rubinkam, Michael.「Renowned Former Drum Corps Leader Charged with Sex Assault」(「著名な元ドラム・コーのリーダー、性的暴行で起訴」)。AP通信、2018年11月13日。
https://apnews.com/general-news-c3fd98be262e4c25b38855d03dc7be5c - 「WGI STATEMENT: JULY 27, 2020」ウィンターガード・インターナショナル、2020年7月27日。https://www.wgi.org/wgi-statement-july-27-2020/
- Williams, Melissa J., Brandon Esianor, Sara Hendrick, Janice L. Farlow, Annie Farrell, Robbi A. Kupfer, Tanya K. Meyer, Kimberly N. Vinson, Grace M. Wandell, and Amy Y. Chen.
「Everyday Challenges to Women’s Presence and Authority Yield Greater Burnout and Less Persistence in a Male-Dominated Profession」(「日々の中で女性の存在や権威が疑問視されることは、男性中心の職業における燃え尽きの増加と継続率の低下につながる」)。
Proceedings of the National Academy of Sciences 122 巻 20 号(2025 年 5 月 12 日)。
https://doi.org/10.1073/pnas.2415826122
Published : Percussive Notes Volume 64 No. 4 August 2026
著者紹介
ジュヌヴィエーヴ・ヒルバーンは、南カリフォルニアを拠点に活動するパーカッショニスト・教育者です。ベイカーズフィールド・カレッジとカリフォルニア州立大学ベイカーズフィールド校でパーカッションの教員を務めるほか、アメリカ各地で演奏や審査員としても活動しています。パーカッシブ・アーツ・ソサエティの「ルーディメンタル&マーチング」委員会の委員であり、PAUカリフォルニア支部では南カリフォルニア担当の副会長も務めています。
執筆者: 執筆者: ジュヌヴィエーヴ・ヒルバーン|翻訳 スミス恵美
取材協力:PAS(PERCUSSIVE ARTS SOCIETY)
Special Thanks to:
・Aaron Smith :PAS Assoiate Editor for Education
・Joshua Simonds: PAS Executive Director
・Rick Mattingly: PAS Executive Editor
・Paul Buyer : PAS Editorial director
・Julie Hill :PAS Editorial director

