世界の打楽器部屋から
世界の打楽器部屋から Vol.25|フランス・パリ 多胡宏音
世界各地で打楽器人生を謳歌する日本人にフォーカスした人気シリーズ。
打楽器部屋オンラインマガジン化後の記念すべき最初の記事(通算25回目)は、南カリフォルニア国際マリンバコンクール第1位を受賞され、フランスはパリ国立高等音楽院で”パリジェンヌ”になられた多胡宏音さんよりご寄稿いただきました。
現地情報
- 国:フランス (& ドイツ)
- 地域:パリ (カールスルーエ)
- 生活言語:フランス語 (ドイツ語)
- 現地通貨:ユーロ
- 日本との時差:-8時間
- 現在の所属:カールスルーエ音楽大学国家演奏家資格取得課程、パリ国立高等音楽院(交換留学)
◇ ◇ ◇
皆さんこんにちは。多胡宏音と申します。
私は大学卒業後渡独し、カールスルーエ音楽大学で中村功先生のもと4年間勉強をしました。修士課程から国家演奏家資格取得課程に進学する際にドイツでの勉強は続けたいけど言語も文化も違うところに行ってみたいと思い、幼い頃から憧れていたフランスへの交換留学を志願しました。幸運にもパリとリヨンの国立高等音楽院でそれぞれ半年ずつ、合わせて1年間勉強させていただけることが決まりました。11月現在はパリに住んでおり、田舎者ながら気持ちだけはパリジェンヌで都会生活を満喫中です。今もかっこつけてポンピドゥセンターのカフェでこの文を書いています。 前置きが長くなりましたが今回はパリでの留学生活を中心に書かせていただきたいと思います。拙い文章ですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
Erasmus+制度について
私は欧州内の交換留学制度、Erasmus+(エラスムス)というものでフランスに留学しています。 留学の一年程前からカールスルーエ音大の国際交流担当へ通い込み何度も相談をしていました。 留学先によって金額は異なりますが、奨学金も出ます。 パリ国立高等音楽院は交換留学が盛んで世界中から留学生が来ています。入学してすぐに交換留学生の交流会があり、基本的に打楽器クラスにずっといるわたしにとっては他の専攻生と知り合う良い機会でした。クラシック音楽を専攻している人以外にもジャズ専攻やサウンドエンジニア専攻、また舞踏科の人とも交流ができたのは大変興味深かったです。
Erasmus+ 日本人も受けられるEUの奨学金について ↗(外部リンク:PDFファイルが開きます)
学校生活について
現在私が通うパリ国立高等音楽院はパリ管弦楽団の拠点であるフィルハーモニー・ドゥ・パリやアンサンブル・アンテルコンテンポランの拠点であるシテ・ドゥ・ラ・ムジークのすぐ隣にあります。公演が始まる15分前に練習を終えて向かっても間に合ってしまう程の近さです。
初めに驚いたのはセキュリティーの厳しさでした。エントランスには常に2、3人の警備員がいて毎回簡単な手荷物検査があります。そして改札のようなゲートに学生証をかざさないと大学に入ることができません。関係者以外は入れないように厳しく管理されています。
打楽器の練習室は8部屋あり、どの部屋も比較的広々としています。ちょうどこの夏休み中に壁の塗り替え等があったようで今は特に綺麗です。
楽器もかなり充実しています。ほとんどは楽器室で厳重に管理されていますが、鍵盤楽器やティンパニなどの大型楽器は廊下にびっしりと並んでいます。セットアップを組む学生が多いにも関わらず、部屋も楽器にも余裕がありとても恵まれている環境だと感じます。
名門校ならではのセキュリティと環境。ただ、驚くことに練習室の予約システムはありません。空いていたら自由に入って練習できますが、誰かが練習中の時はその場で話し合って譲り合いながら使っています。練習のみは各個人のその日の気分で委ねられるところにフランス人の自由さが垣間見える気がします。
打楽器科のメインの教授はアンサンブル・アンテルコンテンポランの打楽器奏者であるGilles Durot先生です。
その他にも3人の先生がいて自由にレッスンを受けられます。ドイツでは大まかにオーケストラかソロのいずれかに特化して学ぶ人が多いですが、パリでは皆両立して勉強しているのが印象的でした。
また、マスタークラスが非常に多いのが特徴的です。世界中の打楽器奏者はもちろん、ジャンル問わず様々な方が毎月のように訪れます。先月は俳優・コメディアンの方が来て発声、体の動き、自分を表現すること等についての授業がありました。1月にはバロックダンスのマスタークラスがある予定なので楽しみです。
日常生活について
さすがは芸術の都パリ、毎週のようにどこに行こうか悩んでしまうほど素敵なところが数多あります。 世界的な美術館にメトロで数十分で行けていまうのは未だに不思議な気持ちになります。やはり現地でいつか見てみたかった名作を目にした感動は言葉にならないものでした。
また、パリ管弦楽団をはじめとするオーケストラのコンサートやアンサンブル・アンテルコンテンポランの演奏会に10ユーロ前後で聴きに行けるのは嬉しいです。毎度、“フランスの音”に驚かされたり感動したり何かしらの発見があります。
その他には仏人作曲家の墓地を巡ってみたり、様々な芸術家が集ったカフェに行き、少しでもこの街の空気を味わおうとしています。
終わりに
そうは言ってもパリジェンヌへの道はまだ遠く言語等で多くの苦労を伴いますが、この貴重な経験はきっと将来自分自身を豊かにすると信じて日々過ごしています。 一年後にドイツへ帰る際、自分自身にどんな変化が起きているかとても楽しみです。
多胡宏音 Hirono Tago プロフィール
南カリフォルニア国際マリンバコンクール第1位、ポレンサ国際マリンバコンクール第2位、他国内外のコンクール受賞歴多数。 打楽器で初めてYAMAHA音楽支援奨学生(2015〜2017年度)に選出される。
日本演奏連盟主催第30回新進演奏家育成プロジェクトオーケストラ・シリーズにて仙台フィルハーモニー管弦楽団と共演。
国立音楽大学卒業後渡独。カールスルーエ音楽大学修士課程を最優秀の成績で修了。
現在同大学の国家演奏家資格取得課程に在学中。同時にErasmus+(欧州の交換留学プログラム)制度でパリ国立高等音楽院に留学しGilles Durot氏の元で研鑽を積む。
2024年春からは同制度でリヨン国立高等音楽院に留学予定。 これまでに植松透、神谷百子、中村功、の各氏に師事。
執筆者: 多胡宏音