From the percussion room of the world
世界の打楽器部屋から Vol.23|オーストリア リンツ 北村亜以里
世界各地で打楽器人生を謳歌する日本人にスポットを当てた人気シリーズ。 今回はオーストリア上部州立音楽学校教員として活動されている、北村亜以里さんにご寄稿いただきました。
※この記事は2023年4月発行「JPC 176号」に掲載されたものです。
現地情報
- 国:オーストリア
- 地域:オーバーエスターライヒ州、リンツ市
- 生活言語:ドイツ語
- 日本との時差:-8時間 (サマータイムは-7時間)
●オーストリアでの生活
オーストリアに来て10年が経ちました。現在私はオーバーエスター ライヒ州にあるリンツ市に住んでい ます。位置的には、ウィーンとザルツブルクの間位にある都市、といえばわかりやすいでしょうか。
リンツの町の真ん中にはドナウ川 が流れていて、市の象徴の一つにもなっています。ドナウ川沿いにはコンサートホールや、美術館、メディアアートの施設などがあり、橋の上から見える景色は 日中も夜もとてもきれいです。
国内有数の「山を登るトラム」もあり、休日になると観光客で賑わいます。私が学んだアントンブルックナー音楽大学(以下ブルックナー大学)はそのトラム線の丁度真ん中くらいにあり、学生たちは週末賑わう観光客にぎゅうぎゅう挟まれながら大学へ通っています。
ブルックナー大学は舞台芸術の大学なので、音楽だけでなく、ダンス科や演劇科もありま す。私は2014年の秋に打楽器科の大学院に入学してから、修了後は音楽教育科を経て、 今はチェンバロ科でも勉強していて、もう8年もお世話になっています。ありがたいことにオーストリアは大学の学費がとても安いので、勉強したいことがあればやりたいだけできる 環境にあると思います。
リンツは特別大きな町ではありませんが、ブルックナー大学の他にも総合大学や芸術大学もあり、学生が多く住んでいます。 また、州立の劇場があり、オペラ やバレエ、ミュージカル、オペレッ タの公演が毎晩の様にあります。 夏から秋にかけては音楽祭や芸術 祭も盛んです。ウィーンのような 有名な観光都市ではありません が、日々の生活で芸術・音楽がと ても近い存在に感じられる町で、 私はとても気に入っています。
●音楽学校の仕事について
オーバーエスターライヒ州には、州立の音楽学校が各地域にあります。
私は現在4つの州立音楽学校とリンツ市立音楽学校で教えていて、全部合わせると約30 名の生徒さんが習いに来てくれています。
習いに来る人たちは子供から大人まで様々ですが、生徒の大半は午前中に学校の授業が あるので、私の仕事は午後から夜まで。午前中は自分の練習をしたり、家のことをしたり、 ゆっくりできる時間があります。
日本には、マリンバだけ、またはドラムセットだけ、を習う教室が多い印象がありますが、 オーストリアの音楽学校では、すべての打楽器を習うことができます。ですので、教える側 はもちろん全ての楽器を教えなければいけません。 州立音楽学校には進級試験もあり、試験を受ける場合には音楽理論のコースも並行して 履修しなければいけない仕組みです。ただ、進級するタイミングはそれぞれ個人で異なり、 全く進級しないまま数年で辞める生徒もいれば、2つの進級試験と卒業試験を全て受ける 生徒もいます。
州立音楽学校の先生になるには、基本的に演奏科の修士もしくは音楽教育科の学士が必 要です。まず書類審査があり、招待をもらえたら採用試験に参加できます。試験は演奏の 実技試験と、実際に教える試験(ヒアリング)があり、そこを通過できると最終面接に招待 されます。(私は3回受けてやっと採用されました!)
●演奏活動について
オーストリアでは、学生のうちから仕事として演奏する機会が多くあり、それは教会でだったり、企業のセレモニーだったり、芸術系プロジェクトの一環だったり、音楽祭だったり、 歌劇場の室内オペラプロジェクトや、音楽ホール主催の子どものためのコンサートなど演奏シーンは様々です。
私は日本に帰国した際に音楽ホールでリサイタルをすることもありますが、こちらでは、個人が音楽ホールを借りてリサイタルをするというのはかなり稀です。 私の場合、今は週5日の音楽学校が本業、しかも公務員扱いなので、コンサートのためにレッスン日をずらして予定を合わせるに も学校への許可申請が必 要 で す。コンサートが重なる時期は、学校の仕事の合間に練習したり準備 をしたりするため、少し大変なのですが、 演奏の仕事はやっぱり楽しいです。
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北村亜以里プロフィール
第28回日本管打楽器コンクール、第8回イタリア国際打楽器コンクール、第15回 KOBE 国際音楽コンクールにおいて第一位を受賞。リンツ国際マリンバコンクール(オーストリア)において第3位及び審査員特別賞を受賞。 愛知県立芸術大学を首席で卒業。同大学卒業演奏会、定期演奏会に出演する他学内受賞多数。卒業後、オーストリア、リンツのアントンブルックナー音楽大学にて、マリンバ 奏者のボグダン バカヌ、打楽器奏者のレオンハルト シュミディンガー両氏の元で学び、同大学院を最優秀の成績で卒業。2015年、ザルツブルク、モーツァルテウム音楽大学サマーアカデミーにおいて、総参加者870 名のうち10名の最優秀学生として表彰され、ザルツブルク音楽祭のコンサートで演奏、好評を博 す。日本人のマリンバ奏者では初めての受賞で、ザルツブルク芸術情報誌でも高く評価された。 現在、オーストリア上部州立音楽学校教員として打楽器の指導にあたる他、オーストリアやドイツにて演奏活動をしている。
執筆者: 北村亜以里
編集:JPC MAG編集部