From the percussion room of the world
世界の打楽器部屋から vol.30|中華人民共和国・無錫(むしゃく)髙木雅也
世界各地で打楽器人生を謳歌する日本人にフォーカスした人気シリーズの30回目。
今回は、新しく新設された中国の無錫交響楽団で演奏活動をされている髙木雅也さんにご寄稿いただきました。
皆様はじめまして、中国・無錫(むしゃく)市在住の髙木雅也と申します。
この度、私が現在所属しております無錫交響楽団での活動や生活、またそこに至るまでについて、振り返りながら記事を書かせて頂きました。ぜひ、お楽しみ頂けましたら幸いです。
オーディション当時
「中国の新設オーケストラのオーディションが都内であります。」
2023年5月某日、旧Twitter(現X)でこのような情報を目にしました。これが無錫交響楽団を知った最初のきっかけでした。当時は大学院修士課程を修了してフリーランス3年目に入り、専攻していたマリンバに限らず色んな事に挑戦…と言えば聞こえは良いですが、思い通りにいかない事ももちろん多く、メンタル的には沈んでいたように記憶しています。そんな中でも『期限はまだ先だし、取り敢えず』と残したブックマーク。今思えばこれがファインプレーでした。
後日偶々ブックマークを見返し、その日がメール提出の期限だと気づくも残り30分、書類は手付かずで、動画も必要。どう考えても間に合わない。いや、時差を考えれば何とかなるのでは?
オーディション後、審査にいらしていた音楽監督の一言は今でも忘れません。『鍵盤より太鼓のほうが楽しそうに弾いていたね』と。あれ、何専攻だったっけ…?
無錫交響楽団について
無錫市は大都市・上海から新幹線で約1時間の距離にあり、太湖という大きな湖(日本最大の湖・琵琶湖の3.5倍の面積)の北東部に位置します。無錫交響楽団(英語名:Wuxi Symphony Orchestra)は2023年6月設立、翌24年1月から公演を開始した、まだ歴史の浅い楽団です。現在は月1,2回の主催公演に外部からの依頼や室内楽公演が加わり、それぞれリハを3,4日行って本番という流れが多いです。主催公演ではクラシックやオペラ・映画の音楽を扱うことが多いですが、依頼公演では中国の作品(穏やかな民謡のアレンジから技巧派の新曲まで)を演奏する事が多いです。
北京や上海、蘇州をはじめとした他都市や海外での演奏も積極的に行っており、2025年9月末から10月初頭にかけてロシア3都市(ノヴォシビルスク、モスクワ、サンクトペテルブルク)にてツアー公演を行いました。特にモスクワ、サンクトペテルブルクでは『ロシア・ナショナル管弦楽団』との合同演奏もあり、団員との交流や本場のウォッカを味わえたことも含め、大変貴重な経験をさせて頂きました。
リハーサル場やホールの環境について
リハーサルは区の行政施設内にあるホールで行っており、その裏にある控室や楽器庫で各個人が空き時間に練習出来るようになっています。各部屋は防音がしっかりしている訳ではないのですが、24時間オープンで使用できるため、練習環境という意味では有難い限りです。大型打楽器は基本的には舞台備え付けですが、リハーサル後は舞台も解放されており、個人練習で使用できます。
主催公演はリハーサル場から車で30分ほどの距離にある「無錫大劇院(Wuxi Grand Theater)」で行っており、1600席ほどのオペラホールか500席ほどの小ホールを使っています。
他都市や大劇院で演奏する際、雛壇のスペースが少々狭く環境設定が難しくなる時があります。大太鼓・シンバル・小太鼓・鍵盤1種程度なら問題無いのですが、特に中国人作曲家の曲は楽器数が多い傾向にあるため、雛壇に乗り切らず本番だけ配置を変えざるを得ない場合もあります。今でも時々難儀しますが、おかげで曲中に短時間で舞台の段を足音立てずに昇り降りする技術は身につきました。
打楽器の環境について
楽器については新設の団ということもあり、当初はそもそもモノが無かったり、あっても状態が悪かったり…など色々な事がありましたが、徐々に揃えて頂きながら現在に至ります。印象に残っているのは大太鼓のマレット。当初はマーチング用の物しか無く、それで交響曲を演奏しろというのですから大変でした。現在はプレイウッド様のマレットを揃えて頂いております。
楽器については色んなメーカーの物を使用しており、シロフォン・マリンバはMarimbaOne、グロッケン、チャイムはKolberg、ヴィブラフォンはMusserのものを各1台ずつ所有しております。個人的にMarimbaOne製のシロフォンはここではじめて出会いましたが、比較的柔らかい、温かみのある音色が気に入っています。
ティンパニは中国の謎メーカー製4台→Hardtke5台に。大太鼓もHardtke、それも36、40インチの2サイズを用意してもらえました。新興の楽団でも(新興だからこそ?)早いペースで充実した環境を用意して頂いており、大変有難いことと感じております。
ついに開業(?)『Wuxi Symphony Hall』
オーディション当時から「新設のシンフォニーホールで演奏できる」という触れ込みがあったのですが、2026年1月1日のニューイヤーコンサートでついにお披露目となりました。先に述べた通り、使用楽器が多いとセットするだけで一苦労という状態から広々使える仕様に変わり、これにて万事解決!…となるはずでしたが、訳あってまだ2回しか開催出来ておりません。音響や舞台構造、導線などの環境は比較的整っているだけに早く引っ越しをしたいのですが、本格的な開業は9月の新シーズンからとのことで、楽しみに待ちたいと思います。
最後に
欧州や日本と比べれば、文化水準は決して高いとは言えない国ではあります。そこには歴史的背景や社会の運用方式の違いによる影響が大きいと感じます。先ほどのシンフォニーホールの事以外にも『お国柄』を感じる場面は多々ありますし、ここには書きづらいディープな出来事も沢山ありますし、故に不満が募って反乱の一つも起こしたくなりますが、自分たちイチ演奏員、ましてや外国人の立場ではどうしようもない事ばかりですので、そういう時はあまり気にしないようにする事も大切だなと感じています。
ただ、広い中国とは言え日本とのアクセスも比較的良い都市ですので、フラッと数日帰国して息抜きする事も出来る距離なのは有難いです。昨今の政治情勢による影響は今のところ大きなものはあまり受けていませんし、クラシックに限らず色んなジャンルの音楽に取り組める環境であることは、自分にとって大きなメリットとやりがいを感じられています。
学生時代やその後を思い返し、マリンバ・現代音楽をやりたいと思って進学、留学をさせてもらいましたが、日々の学びの中で意欲的に色んな音楽や楽器に取り組んでいたことが(多少遠回りになったとしても)今の活動に繋がっていて、改めて多くの方々の応援や支えがあってここまで打楽器を続けられている事を実感しました。この場をお借りして感謝申し上げます。これからも引き続き、精進して参ります。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
髙木雅也プロフィール
横浜市出身。世田谷学園高等学校を経て国立音楽大学卒業、同大学院修士課程修了。大学院在籍中、(一財)福島育英会より給付型奨学金を授与。交換留学生としてドイツ・カールスルーエ音楽大学へ派遣される。2020年度国立音楽大学大学院新人演奏会出演。これまでに打楽器及びマリンバを神田佳子、福田隆、神谷百子、上野信一、幸西秀彦、中村功の各氏に師事。
第26回日本クラシック音楽コンクール第2位(1位なし)受賞、ほか受賞歴多数。上野信一&フォニックス・レフレクション『マリンバオーケストラ』公演やCD録音に参加。現在、無錫交響楽団(Wuxi Symphony Orchestra)副首席打楽器奏者を務める。
執筆者: 髙木 雅也
編集:JPC MAG編集部


