From the percussion room of the world
世界の打楽器部屋から vol.29|アメリカ合衆国 ロサンゼルス スミス恵美

世界各地で打楽器人生を謳歌する日本人にフォーカスした人気シリーズの29回目。
今回はロサンゼルスを活動拠点として、「打楽器で学ぶ人生スキルと心」をモットーに、打楽器・音楽を通じて教育と文化交流を推進されているスミス恵美さんにご寄稿いただきました。
カバー画像コメント:
YOLA National Festival の素晴らしい講師の皆さん、そしてロサンゼルス・フィルの音楽監督グスタボ・ダウダメル氏とパチリ!🎶✨まるで音楽のテーマパークにいるみたいな、夢のような毎日でした!
打楽器をこよなく愛する皆さん、初めまして!スミス恵美(めぐみ)です。
ロサンゼルスを拠点に演奏や指導をしながら、小学5年生の息子と、同じ打楽器奏者の夫と一緒に、毎日和気あいあいと賑やかに過ごしています!
音楽だけでなく、文化の違いにも日々向き合いながら、試行錯誤の連続ですが、その分、新しい発見もたくさんあって、とても刺激的です。
これまでどんな活動をしてきたのか、ご紹介しますね。
楽しんで読んでもらえたら嬉しいです!
練習だけじゃダメだ!
ロサンゼルスに留学したばかりの頃、とにかく毎日一人で8〜10時間ぶっ通しで練習! 英語も全然できなくて、もう必死 。
とにかく「技術を磨くこと」だけを考えてました。
そんな生活を続けて3か月。ある日、友達と近くのハンバーガー屋さんへ。でも、いざ注文しようとしたら…え、何て言えばいいの!?
頭が真っ白。
結局、ジェスチャーと指差しでなんとかオーダー(笑)。
その瞬間、ふと思ったんです。「あれ、これでいいのか?」って。
ただ練習してるだけじゃダメだ。
もっと現地の人達と関わって、一緒に演奏しなきゃ!
そこから、私の音楽人生は大きく動き出しました。

「音楽で生きる!」なんて甘かった!? でも、ここからが本番!
大学院で音楽の力をつけて卒業!…したはいいものの、まさかの無職。
こんなに時間もお金もかけたのに仕事なし!?
「大学院を出れば仕事がある」なんて、甘かった…。在学中、誰もそんな現実は教えてくれませんでした。でも、全ては自分の責任。
卒業後は、日本でやっていたヤマハ音楽教室の講師の経験を活かして、私立モンテッソーリ学校で音楽の先生をしながら演奏活動を続けることに。
オルフ音楽メソッドを取り入れて、打楽器を沢山使った指導にも挑戦!試行錯誤しながら1年ほど頑張っていた頃、運命的に Youth Orchestra Los Angeles エルシステマ と出会います。面接は、ちょうど日本に帰国していた夏に電話で実施。その結果、ボランティアや臨時講師として関わることに。そこから1年後、「打楽器セクションを新しく作るから、先生としてやってみない?」と声をかけてもらいました!まさに奇跡。しかも、LA Phil(ロサンゼルス・フィルハーモニック)のサポートのもと、楽器選びからスタート。自分のお金ではなく、組織の予算で新しい楽器やプログラムを作っていくこのプロセスが、もう最高にワクワクしました!
3年後、ご縁があってサンタモニカカレッジの打楽器アンサンブルのディレクターに応募し、ありがたいことにその役を任せていただくことになりました。その後も素晴らしいチャンスに恵まれ、Longy School of Music of Bard College では大学院のMATコースで打楽器講師を務めたり、Loyola Marymount University ではダンス専攻の学生向けに音楽史のクラスを担当したりしました。そして、2021年にはカリフォルニア州立大学ドミンゲスヒルズ校の打楽器講師として採用されました。
ひょんなご縁でJPC代表取締役 小牧明さんと知り合い、なんと PASIC で通訳のお仕事までさせてもらうことに!さらに、今年から The Percussive Arts Society の投稿翻訳も担当させてもらうことになりました。
そして、JPC さんとは気づけば長~いお付き合い! これからも楽しく一緒にいろんなことを作り上げていけたら嬉しいです!
ご縁が導く音楽の道── 挑戦と成長のステージ
音楽のご縁に恵まれて、いろんな演奏のチャンスをいただいています。自分が教えている大学でのコンサートやイベントでの演奏など、どれも本当に貴重な経験!仕事の連絡をもらうたびに「次の仕事のオーディションだ!」という気持ちで、毎回全力投球しています。
ここロサンゼルスならではの縁で、時には超有名アーティストと共演することも!シカゴの Jason Scheff さんや Bill Champlin さんと同じステージに立ったときは、「え、本当に!?」と驚きました。
さらに、YOLA での仕事では夢のような機会がたくさん。LAPhil音楽監督のグスタボ・ダウダメル氏との共演や、ウォルト・ディズニー・コンサートホール、ハリウッド・ボウルでの演奏……どれも一生の思い出です。特に、Los Tigres del Norte とのステージでは、観客との一体感が想像以上で、鳥肌が立つほどの熱気!音楽のパワーを改めて実感しました。
オーケストラの楽器は、主催側が用意してくれる場合もあれば、自分で持ち込むこともあります。私は大体 演奏の2時間くらい前には会場に行って、楽器のセッティングをしたり、ステージ担当の人と打ち合わせしたり…
やることが盛りだくさん!

音楽以外のことでも自分を磨いて、それを演奏に繋げていく
ロサンゼルスに来て、新しく始めたことがあるんです。それがヨガ。
留学最初に入ったカレッジで出会った先生、マリンバワンのアーティストでもあるリン・ヴァートン先生が勧めてくれて、一緒にヨガクラスに通い始めました。
最初は「こんなポーズ、人間の体でできるの!?」っていうヘンテコなポーズばかり(笑)。しかも、クラスの中にはリラックスしすぎておならしちゃう人もいたりして、毎回いろんな意味で新鮮でした。
そんなヨガを始めて1ヶ月くらい経った頃、びっくりすることがあったんです。マリンバのエチュードで、4オクターブ離れた音がなかなかうまく届かなかったのに、ふとした瞬間にヒョイっと届いたんです!
「えっ、今の何!?いつもより楽に弾けた!」って驚いてリンの方を見たら、満面の笑顔。そう、ヨガのおかげで体が思い通りに動くようになってきてたんです。
最近は週に2〜3回ジムに通って、しっかり体づくりを頑張ってます!やっぱり体を鍛えるって大事だなって実感してて、心も体も調子がいいと、毎日がもっと充実するんですよね。楽器運びも、年齢を重ねるごとに結構ハードになってくるので、体力づくりは欠かせません!

この日はラッキー!人が少なめですぐにできました
そして、日本でずっと続けていた裏千家の茶道も、ロサンゼルスで偶然のご縁があって再開することができました。たまたま入ったパサデナの音楽ショップで、店員さんのご家族を通じて素敵な先生と出会ったんです。
その先生にはご飯を食べさせてもらったり、住む場所がなくて困ってた時に、ホームステイの場所を紹介していただいたり、心の拠り所でした。
茶道のお稽古では、心を無にして、一つ一つの動作に集中することを学びます。それって、ステージに向かう時の心の準備とも繋がるんですよね。
さらに、茶道で大切にされる「無」の考え方が、ジョン・ケージの音楽と向き合うときにすごく役に立つことにも気づきました。
実は、着物の山野流着付け講師資格も取ることもできたんです!きっかけは、お茶のお稽古で一緒だったアメリカ人のニールからの誘いで、「僕と一緒に資格を取ろう!」って言われて。
ニールは日本の文化が大好きで、音楽にもすごく情熱を持っていて、当時LAオペラの一般向け音楽講座の講師もしていたのです。それで、プッチーニの『蝶々夫人』の公演がある時に、着物の着付けや仕組みについてニールと一緒に講座をさせてもらうことになったんです。
その後、なんとPacific Opera Project の『蝶々夫人』で打楽器奏者として演奏するチャンスをもらい、さらに、着付けの時からお世話になっているSK KIMONOの押元未子先生と健太郎先生はデザイン・衣装監督。音楽と着物、この2つがまさかこんな形でコラボできるなんて、本当に最高の体験です。

ヨガも茶道も着物も、音楽とは一見違う世界のようだけど、どこかで深く繋がってるんですよね。こうやって音楽以外のことからも自分を磨いて、それを演奏に活かしていく。そんな積み重ねが、自分の音楽をもっと豊かにしてくれるんだなって感じています。
音楽がつなぐご縁に感謝──
学びと挑戦を重ねて前へ
失敗の連続・大変なこともいっぱいあるけど、それ以上に音楽を通じて素敵な出会いがあることに感謝!
そして、なんと嬉しいことに Dragonfly Percussion のエデュケーショナルアーティストとして仲間入りしました!🎉
さらに、The Network for Diversity in Concert Percussion のメンバーとしても、打楽器の世界を広めるお手伝いをさせてもらっています!🥁
これからも、自分にできることや本当にやりたいことをどんどん突き詰めていきたいです。
今の自分があるのは、先生方、家族、そしてこれまで出会った人たちや支えてくれた皆さんのおかげ。
本当に感謝しかないです! 打楽器万歳!!🥁
活動ギャラリー
コラボ演奏
書道家・ダンサーのKUNIさんと
太鼓のソロ作曲にも挑戦しました!太鼓のフレーズとKUNIさんの筆の動きがピッタリ合っていて、観ているお客さんも思わず釘付けに!
◇ ◇ ◇
カルフォルニア州立大学 ドミンゲス校
打楽器奏法クラスの生徒さん達と
みんな音楽教育学を専攻しています。こちらは、ドラムサークルで盛り上がったときの写真です!
◇ ◇ ◇
9 TO 5 DOLLY PARTON
9 TO 5ドリーパートンのミュージカルのセッティング
楽器は主催者側が用意してくれたものを使用。
4本の手と頭の後ろにも目が欲しかった(笑)
スミス恵美 Smith Megumi プロフィール
東京都出身。3 歳からピアノを始め、12 歳から打楽器を学び始める。尚美短期大学打楽器演奏学科を卒業後、法政大学日本文学学科を卒業。ヤマハ音楽講師および打楽器演奏家として活動を重ねる。2006 年にアメリカに渡り、California State University, Northridgeで打楽器演奏の修士号を取得。同大学院在学中に、カール・オルフ音楽教育レベル 2 免許も取得。
ロサンゼルスを拠点に活動を広げ、Hollywood Bowl での Los Tigres del Norte との共演や、ロサンゼルスフィルハーモニックの音楽監督グスターボ・ドゥダメル指揮のもとで演奏。さらに、Youth Orchestra Los Angeles (YOLA)、Santa Monica College、California State University, Dominguez Hills、Loyola Marymount University、Longy School of Music of Bard College、YOLA National Music Festival などで打楽器や音楽の指導も行っている。
裏千家淡交会ロサンゼルス協会に所属、山野流着装奥伝を修得。 Japanese Institute of Sawtelle(JIS)ソーテル日本語学院にて音楽指導、日本文化の普及にも力を入れている。
American Association of Japanese University Women (AAJUW) の会員。
「打楽器で学ぶ人生スキルと心」をモットーに、打楽器・音楽を通じて教育と文化交流を推進中。
執筆者: スミス恵美
編集:JPC MAG編集部