つっちーの太鼓奇談
つっちーの「太鼓奇談」第三回|チューニングセミナー
※この記事は2014年4月発行「JPC 140号」に掲載されたものです。
※セミナー写真提供:リズム&ドラム・マガジン、撮影:雨宮透貴(Yukitaka Amemiya)
※文中に、アマゾンアソシエイトシステムを利用した、Amazon商品ページへのリンクが含まれています。
JPC会報をお読みの皆様、こんにちは。ドラムテックのつっちーです。
今年も早いもので、もう四月です。
私事ですがつい先日の6日に45歳の誕生日を迎えまして、まぁ、この年になる
と今更誕生日が嬉しいとか、友達同士でパーティーをするとか、全くその気が
ありません。
前日の5日は地元でLIVEだったのですが、そこでも特に、「誕生日だから」なんて言って何かをする訳でもなく。
四十越えた冴えない中年男が誕生日で浮かれるのもなんかね・・・w
と言う訳で、今回は一月に浅草JPCの地下スタジオでひっそりと行われた「つっちーのチューニング部オフ会」について、つらつらと書いてみたいと思い
ます。
当日は寒空の中、30人以上の方々にお越しいただき、その会場の熱気たるや、こちらが圧倒される程の気迫でした。
前回、豊橋のシライミュージックでのセミナーでも感じたこの熱気、みんなチューニングやドラムと言う楽器の付き合い方に対して物凄く真剣なんだなぁと、他人事の様に感じてしまい、改めて自分もドラムと言う単純で物凄く深い楽器との付き合い方を楽しんでみようかなと思いました。
皆さんからの質問はあらかじめ西尾さんからメールで送られてきていて、その質問を元に前半は基本的な事やちょっとした応用、裏技、荒技をお伝えし、後半は皆さんとの質疑応答タイムにして、コミュニケーションを図ろうと言う進行でした。あ、そうそう、僕がこのセミナーをやるにあたって、全く新品の初対面なスネアをイチから自分の音に組み上げて行くって言うのもありましたね。ラディックの復刻アクロライトの6.5でした。このスネアめちゃくちゃ良くて、今では自分がバンドで演奏するときのメインになっています。
セミナーでは「魔法の様にぴたっと決まるチューニング方法なんて有りません。
ただ楽器と音楽に丁寧に誠実に向き合うのみ。素早く出来るのは長年の経験に基づく技術のおかげ」と言うのが大前提にありました。その中で、皆さんが自分の中にあるサウンドをどう引き出すか、その為にはどのような作業が有効なのか、そんな事を僕が今まで経験した中で紹介したつもりです。
楽器と言うモノは本当に不思議で毎日同じ部屋に置いてある同じ楽器でも周囲の環境、天気、演奏者の耳の状態や、気分等々で、微妙にサウンドが違う様に聴こえるものです。
科学的に分析して、「このスネアは昨日と寸分違わぬチューニングである」と言われても、そうはいきませんw
「昨日と変わらずいい音だ」「いつもこの楽器はいい音するんだよね」の中には、「もちろん昨日と全く同じじゃないけれど、昨日の音もこの音も同じキャラクター、同じ雰囲気で聴こえる、自分にとって大事な部分がちゃんと生きている」って事なのかなと思ってます。
なんてぇ事を書いていると、「いやだからさ、そのキャラクターとか雰囲気をどうやっていつも作っているのか訊いてんだよぉ」って言われそうです。いや、ごもっとも。
これね、一言で言うと簡単なのです。だって、「自分の音」を持っていればいいだけの事なのですから。
今は色んなサウンドが氾濫していて、どのサウンドもよく聴こえちゃって、アレもコレもってなりがち。
みんな欲張りなのですw
それは全然悪い事ではなくて、寧ろいろんな音楽を聴いて、色んなサウンドを感じて自分の感性を育てるのはどんな楽器を演奏する上で大事な事です。
僕はいつも自分の楽器を自分で演奏する時、そのチューニングで心がけていることがあって、別に大した事ではない、ごく個人的な好みと思っていたのですが、ある時ドラム仲間にその事をなんとなく話したことがあり、「それはめちゃめちゃ大事なことだよ」と指摘されたのですが・・・
それは、「全部入りチューニング」って言う、なんかラーメン屋のスペシャルメニューみたいな名前なんですがw
あ、わかった人はニヤッとしてますねw
何の事だかわからない人は目が点ですw
人生目が点になる事が多ければ多い程楽しいものです。
で、ナニが全部入りかと言うと、「自分が聴いてきた音楽」が全部入りと言う事なのですね。詳しく説明しますね。
プロの現場に行くと、特にレコーディングでは、いくつかのキャラが違うスネアを持ってきてそこから音楽に合うモノを選んで調整して使うと言うのが常です。それはもちろんいい方法だし、「コレ違うな」と思ったら楽器自体を変えると言う一番簡単で効果的な方法なわけで。ところが、僕なんかが自分で演奏するとき、なるべく一つのスネアで何とかしたいなぁと、一つの楽器で色んな表情が出せたら楽しいなぁと、そっちに意識と言うか、興味が行っちゃった訳ですね。もちろん、若い時はそんなに一杯楽器も買えないし、持って行くのも大変な訳だから、荷物は減らしたいと言う気持ちも有りました。
でも何よりも強かったのは「一つのスネアで多彩な音」って言うところで、今まで自分が聴いてきた音楽のスネアが一台に凝縮されていたら楽しいなぁと。
R&Rもボサノヴァも、テクノもR&BやSOUL、FUNK、レゲエ、Jazzなんかも・・・
もちろん歌謡曲や演歌でもいい、あ、カントリーもw
もちろん、リングミュートや、ハンカチかぶせたり、ガムテープ貼ってみたりします。でも、元になるスネアは一台で、スティックバッグにはちょっとしたミュート小物を入れておきます。そして、どこかでセッションLIVEをやる、その時にパッと譜面渡されて、コレやろうよなんて知らない曲ですよ。その時に「あ、この曲にはこのスネアじゃないなぁ」って思うより、「あ、コレならリングミュートでイケるな、お、いいじゃんいいじゃん」と思いたいのです。完全に個人的趣味の世界ですがw
ギタリストがフェンダーのストラト一本と必要最低限のペダルのみで多彩なサウンドを出して音楽に彩りを添えてみたり、キーボーディストが一台のシンセサイザーから無限の音色を創り出す様な感じです。
もちろんそのギタリストやキーボーディストは他にも色んな楽器を持っているわけで。僕もスネアは沢山持っています。
なんと言ったらいいのか自分が聴いてきたスネアサウンドの最大公約数みたいなチューニング。
ノーミュートだとカ~ンって倍音がちゃんと出て、リングミュート乗せるとバシッとローが出て、小さいジェルミュート乗せると、パンって乾いた感じになる。一台で。便利だし楽しいのです。何気なく周りを見渡すと割とそういう人多かったりします。もちろんショットのタッチでも激変しますしね。そういう時のスネア選びのポイントは「柔らかさ」なのかなと感じます。しっとりふわっと、ほんのり甘い。
焼きたてのホテルブレッドのような、石原さとみ的なアレですよw
その点、セミナーで初めて触ったアクロライトは良かったです。アタックや固さが必要なときはショットを変えたり、スティックを変えると解決される事が多いですね。
セミナーの時は皆さんが自分の愛器を持ってきてくれて、セミナー終了後、ほとんど全員のスネアを触らせて頂き、とても面白かったです。十人十色、本当に違うんですね。
楽器の選び方も大事で、セミナー当日に若い男子が、自分のスネアがどうしても鳴らない、楽器を持ってきていると言うので「じゃ、見せて」てな感じで楽器拝見させて頂きました。
DWのソリッドコパー、要は銅の削り出しでメタクソ重い楽器で、実際音出してみたら全然バッチリ。
「どこがダメなの?」
と青年に訊くも、「イヤ、何か上手く鳴らせなくて・・・」
すると、前列に居たなかなか出来る雰囲気の男性がぽつり。
「叩き方なんじゃないの?」ハイ、その通りですw
僕が叩いてもバッチリいい音で、会場の皆さんもうんうんとうなずく。その彼に前に来て叩いてもらう事に。
そのショットを視ると、とても軽く端っこをリムかけて叩いている。「いつもそういう感じで叩いてるの?」
「ハイ、で、バン!って言わなくて悩んでいるんです」
「イヤ、それじゃ言わないと思うよ」なんて言うやり取りがあり、何が言いたいかと言いますと、体格にあった楽器を選ぶ事の大事さ、音を出す為のショットの大事さなんですね。
明らかに非力で、ショットが弱い、そういう人がクソ重い金属シェルのスネアを鳴らす事は難しい。非力そうに見えて、そういう重いスネア使っている人もいらっしゃいますが、それは練習の賜物なのです。
その人のタッチがもう尋常じゃないレベルで完成されている。練習もしない、研究もしないで、悩んでいるばかりでは何も進みません。そして、憧れのドラマーが使っているからと言ってそういうスネアを安易に選ぶのはリスクが有ると言う事。楽器は見た目って言う事もあるけど、その前に自分のパワー、体格に合っているかを見極めないと、折角大金を出しても、いい結果が得られる確率がグンと落ちます。彼にははっきり伝えましたね。
「楽器と君の相性が真反対です」と。「軽いタッチで重い楽器を鳴らすには相当な熟練が必要です。カン!というリムをかけた浅いショットは耳につく音が出やすいのでラクなのだけれど、外から聴いていると、「痛い音」になっている事が多いです。しっかりとミッドもローも鳴っていないと良いカン!は出てきません。」
スネア一発にビシッと決めるストロークを身につけつつ、チューニングも一緒に研究しないと、コレ、どうにもなりまへんのや。
その後、その青年がこのオフ会でナニを得てどう変わったかはわかりませんが、またどこかで会えて、良い方向に変わってドラムを楽しんでくれていたなら嬉しいなと思います。
それと、自分のスネアを持ってきて、ジャズやっているのですが、自分のスネアが本当に良いのかいまいち分からない、メンバーも何も言わないし・・・と言う青年も居て、彼はショットも割と良かったし、チューニングもバッチリだった。
「もっと自分に自信持っていいと思いますよw」と伝えました。彼はちょっと嬉しそうに「頑張ります!」と言って帰って行きました。
いい音、いいプレイ、いい音楽をしているミュージシャンが居たら、感じたその想いを素直に伝えてあげてください!
ミュージシャンは素直に嬉しいものなのですw
特にドラマーは褒められて伸びるタイプが多いと思います。
みなさんも、自分のショット、ストロークを見つけて、チューニングをして音楽を楽しんで、楽しい人生を謳歌して頂けたらいいなぁと思っています。
・・・う~む、今回は真面目に書いてしまいましたw
こんなコトではいけない。もっと脱線せねば。精進精進。
で、今月の「コレを聴け!イイから聴け!」はLIVEアルバムの名盤を四枚チョイスしました。
(ホントは四枚じゃ足りないんだけどね)
レコード屋さんに行ったら探してみて下さいな。
(俺は絶対にCDショップなんて言わねえぞw)
それではまた!
※この記事は2014年4月10日発行「JPC 140号」に掲載されたものです。
■つちだ“つっちー”よしのり プロフィール
1969年生まれ。11歳の頃YMOの高橋幸宏に衝撃を受けドラムを始める。現在はフリーのドラムテック&ローディーとして矢沢永吉、高橋幸宏(METAFIVE,YMO,THE BEATNIKS,etc)、松本隆(はっぴぃえんど)、林立夫(Tin Pan)、細野晴臣、[Alexandros]、Diggy-MO’ 、ピエール中野、RADWIMPS、宇多田ヒカルなどのツアーやレコーディング、FUJIROCK FESTIVALやSUMMER SONICなどの、夏フェスでのステージクルーとしてウロウロしている。
自身のバンド254soulfoodでは定期的にLIVEを行っている。
プレイヤーとしての参加作品はHARRY「BOTTLE UP AND GO」本園太郎「R135 DRAFT」「torch」など。
蕎麦と落語と読書に酒、煙草好きの堅太り。
執筆者:土田 ”つっちー” 嘉範