つっちーの太鼓奇談
つっちーの「太鼓奇談」第一回|ドラムテックって?
国内外を問わず、名だたるドラマーのドラムテックとしてステージやスタジオで大活躍中の“つっちー”こと土田嘉範さん。
縁あって今号から紙面を賑わしていただくこととなりました。
ドラムセットのサウンドメイキングやメンテナンス等、打楽器に携わる方なら絶対に役立つ情報や、あんな人やこんな人、あんな時やこんな時など、いろんな裏話も聞けちゃうかも!
我々も、いつも勉強させていただいております。
※この記事は2013年10月発行「JPC 138号」に掲載されたものです。
※文中に、アマゾンアソシエイトシステムを利用した、Amazon商品ページへのリンクが含まれています。
JPC会報をお読みの皆さん、初めまして。今回からちょこっとお邪魔させて頂きます、土田“つっちー”嘉範と申します。
いきなり出て来て、一体何者かとお思いですよね。
いえ、特に名乗る程の者でもないのですが・・・
一応、「ドラムテクニシャン」なんて大層な名前の仕事を生業としておりまして、浅草のドラムシティさまには僕が11歳の頃から、かれこれ33年程付かず離れずのお付き合いを一方的にさせて頂いておりますご縁で今回の執筆に相成りました。とても光栄に思っております。
ドラムテクニシャン、通称、ドラムテックなんて言われますが、一体どんな仕事でナニをしているのか、皆目見当もつかん!と言う方もいらっしゃるかと思います。
このページでは、ドラムテックの目線から、
楽器との付き合い方、コンサートやレコーディングの現場での裏話、各地のお
いしい店、などなど、凄く真面目な話から、死ぬ程くだらない事まで、節操無く書いて行こうと思いますので、薄目で見逃してやって下さいw
さて、ドラムテックと一体何ぞや?と言うお話を。
ドラムテックがあるのなら、ギターテック、キーボードテックなんてのもある訳で、総称して、「ローディー」だったり、「楽器テック」と言われてたりします。コンサートなんかで袖の隅っこでギターをチューニングしてたり、ドラマーの後ろに張り付いて色々やってる人、そう、アレです。
ミュージシャンの使う楽器を調律、調整して、常にベストコンディションでプレイヤーに渡す。時には改造や、イチから作ってみたりする強者も居ます。
ドラムテックはその中でも、何故かちょっと特別な扱いを受けたりします。何故でしょう?
それは、ドラム、パーカッションと言うものの殆んどが、決まった音程に調律すると言うセオリーに当てはまらない為、ミステリアスに見えるかららしいのです。
もちろん、ティンパニの様にキチンと決まった音程を指定される楽器もありますし、マリンバやヴァイブラフォンの様な打鍵楽器もありますね。ただ、スネアドラムをC#でとか、トムトムを3度のチューニングでと言うのはポップ、ロックの世界ではあまり聞かない事だったりします。
僕自身、一番最初に習った楽器がティンパニでしたので、指定された音程に
楽器を調律する事に抵抗はなかったのですが、ロックやポップスでそれをやっ
てしまうと、なにかとても「大事なサウンド」が抜け落ちてしまう様な気がしてしまいます。
色々な楽章構成で様々な楽器が多様なテンポで表現して行くクラシックと言
われる音楽で、打楽器達は時にさざ波の様なスネアロールや、雷鳴の様な
ティンパニ、妖精の足音の様なグロッケンとそのサウンドは世界の事象に通じ
て行きます。
そこでは楽器本来のバランスの取れたプレーンなサウンドが求められている様
に思います。勝手な想像ですが。
一方、ポップミュージックの醍醐味の一つは「ノイズ」です。
音の大小に関わらず、この「ノイズ」が電気的に増幅され歪んだエレキギター
やシンセサイザーの合成音となって、クラシックとはまた違うコミュニケーションとして人々の気持ちに揺さぶりをかけます。
僕らの仕事の一番大事な所は、この「ノイズ」と言う、人類が発見したモンス
ターをどう理解するかってことに尽きます。何だか話が難しくなってきましたw
コレも歴史あるJPC会報と言う場所柄の魔力でしょうか?
よし、どうせならトコトンまでいってしまいましょうw
そもそも、打楽器の生まれた背景ってなんでしょう?
ヒトが何か物体を叩き合わせそこから発した音を音楽言語として認識した瞬間から、パーカッションの歴史は始まっています。スタンリー・キューブリックの名作、「2001年宇宙の旅」の冒頭、類人猿が野原に転がっていた動物の骨を武器にして仲間を制圧する場面があります。
そこで印象的なのは「打撃」による刺激で類人猿の脳に新たな領域が開かれる所です。動物の大腿骨と思われる骨で、地面に転がる他の骨を叩き付け粉々に破壊するそのパワーを全身に感じながら叫び、叩き続ける。
極論を言ってしまえば、言語、音楽、宗教、そして、戦争の始まりと言って良いでしょう。文化と戦争は表裏一体の部分が否めません。悲しいことではありますが。
さてここまでお読みになられた皆様に於かれましては、「コイツ一体何を言いたいんだ?」そうお思いの事でしょう、いやはやごもっともでございます。
とどのつまり、クラシックもロックもみんな一つの種から生まれた音楽で、僕ら打楽器奏者は人類最古の表現を今も受け継いで発展させている仲間なんですよねってぇ話です。
だから、ジャンルの壁なんてひょいと乗り越えて、ブレイクスルーしてお互いのフィールドに遊びに行ったりして、楽しくやりましょうよってのがこのコラムの本当の目的だったりします。
息をのむ様な繊細なコントロールはクラシックだけじゃなく、ジャズやロックにもあって、それはお互い知らないだけで、とんでもなく似ていて親近感が湧く表現だったりします。
僕は幸せな事に音楽が溢れていた環境に育ちました。
そこではベートヴェンの「田園」が流れていたと思えば、次の瞬間にはレイ・チャールズのご機嫌な“Mess Around”が飛び出して来るような環境。そこで徹底的に植え付けられた価値観は「音楽ってなんて楽しいんだ!」と言う事だけでした。そんな子供は大きくなっていろんな音楽を吸収し、44歳になった今、ここで与太話を書いていると言う訳ですね。人生何があるか解りません。
その様々な音楽に共通して言える事は、
みな、「とても良い音」で楽器が鳴っていた事です。
当然と言えば当然の事なのですが、何故ビートルズのスネアはあんなにカッコいいのか、YMOのキックは何でこんなにタイトなのか、ドイツのケルン大聖堂で聴いた民間人オーケストラのあのサウンドは時空を超えて今に生きていると感じられるのは何故か?
マタイ受難曲を聴いた時、全身の細胞が痺れる様な感じってどうして?ジミ・ヘンドリクスを聴いた時と凄く似てる。
ジョン・コルトレーン、エリック・サティ、マイルス・デイヴィス、ルイージ・ルッソロ、マーティン・デニーのエキゾチック・サウンド、フェラ・クティのアフロビート、クラフトワークのテクノポップ・・・
目眩のする様な音楽たち、自分もあのヴァイヴレィションを表現したい。そう思った僕らは気が付いたら二本のスティックを握っていました。
繰り返し言います。
素晴らしい音楽には素晴らしいサウンドが必要不可欠です。
どんなに良い楽器であっても、調律が良く無ければ台無しです。特にアコースティック楽器である打楽器は、その調律方法に際限がありません。楽器を正しく丁寧に扱い、細やかに厳しく調律することによって音楽をより開花させることができると思います。
では、一体良い音に調律する基準ってなに?とよく聞かれます。それは・・・
「演奏するあなた自身、今日のあなたに一番しっくりくる音」が一番良い音だと僕は感じます。
もちろん音楽ありきの話です。
「チューニング」と言う言葉は楽器だけではなく、演奏者自身、そして、演奏者と楽器の繋がりをも含む、「同調」である事がとても大事です。
ドラムセットにすわり、ゆっくりとビートを繰り出して行く、だんだん自分と楽器が一体となって、体がふわっと浮く様な感覚になってきます。簡単に言うと、
「あぁ、イイね、この感じ!」
と言う事ですネ。スネアドラムでボレロを演奏していても、同じ感覚が得られ
る筈です。
その感覚をきちんと意識的に作り上げる事がチューニングであり、それを自分
ではない演奏者と楽器の為に行うのが、ドラムテックだったりするのです。
誰もいないスタジオ、教室で独り楽器を奏でる時に、全神経を集中させて自
分の発する音を全身で感じて居る時、ほんの少し「何か違う」と思ったらそこを追求して下さい。
シンバルの角度なのか、ドラムの張り具合なのか、椅子の高さなのか、着ている服なのか、靴が違う?色んな要素があります。そういう事をクソ真剣に追求して個の世界を構築して下さい。それがチューニングと言う事だと僕は思います。
いいアンサンブルにはいいチューニングです。
良いドラムテックは腕のいい洋服の仕立て屋の様だと言った英国人ドラマー
がいました。(流石英国人な例えですネ)
とても的を得ていると思います。
自分のエゴを一切捨て、ただひたすらに音楽の為に尽くす。
僕ら楽器テクニシャンの共通の思いです。
さぁ、いよいよ話しがとっ散らかりの極致になって参りました。
都合の良い事に、文字数の制限も見えて参りましたので、
もし次の号にも依頼されたと仮定して、次回の予告をしておきましょう。
打ち切られる可能性はコレでぐっと低くなると思われますw
次回は、
「プロのドラムテック、その道具とは?」
「この夏、現場の裏話」
「思い出の失敗談」
の三本のうちどれかを書こうかと思います。(全然違う話になる事もアリ)
今回は初回と言う事で自己紹介も兼ねて好き勝手に書かせて頂きました。
恐らく次も好き勝手書いてしまうでしょう。
だってそういう発注なんだもんねw
ドラムシティやどこかの街角、スタジオやLIVE会場で僕を見かけたら気軽に
声をかけて下さい。
特に打楽器な女子、大歓迎ですw
それではまた!
Love and Peace!!!
※この記事は2013年10月10日発行「JPC 138号」に掲載されたものです。
■つちだ“つっちー”よしのり プロフィール
1969年生まれ。11歳の頃YMOの高橋幸宏に衝撃を受けドラムを始める。現在はフリーのドラムテック&ローディーとして矢沢永吉、高橋幸宏(METAFIVE,YMO,THE BEATNIKS,etc)、松本隆(はっぴぃえんど)、林立夫(Tin Pan)、細野晴臣、[Alexandros]、Diggy-MO’ 、ピエール中野、RADWIMPS、宇多田ヒカルなどのツアーやレコーディング、FUJIROCK FESTIVALやSUMMER SONICなどの、夏フェスでのステージクルーとしてウロウロしている。
自身のバンド254soulfoodでは定期的にLIVEを行っている。
プレイヤーとしての参加作品はHARRY「BOTTLE UP AND GO」本園太郎「R135 DRAFT」「torch」など。
蕎麦と落語と読書に酒、煙草好きの堅太り。
執筆者:土田 ”つっちー” 嘉範