世界の打楽器部屋から
世界の打楽器部屋から vol.31|オーストリア ウィーン 伊藤拓也
世界各地で打楽器人生を謳歌する日本人にスポットを当てた人気シリーズ。
今回は文化庁新進芸術家研修生として音楽の都ウィーンで研鑽されている伊藤拓也さんにご寄稿いただきました。
※カバー画像は「シェーンブルン宮殿冬のクリスマスマーケットのイルミネーション」
自己紹介と38歳でもう一度学生に
打楽器奏者の伊藤拓也です。2019年から働いた九州交響楽団を一年休団して音楽の都と称されるウィ―ンにて文化庁新進芸術家海外研修制度の研修生として音楽の勉強をしています。
オーケストラの打楽器奏者はドイツに留学していた先輩方が多く、私も例に漏れず留学を考え始めた当初はドイツを意識していたのですが、皆さんが思っているようにオーケストラの打楽器奏者と言えば毎年一月にウィンナーワルツをとても多く演奏するため、結果としてオーストラリアのウィーンを選びました。そして何より、日本ではまだヤギ皮が張られているウィーン式のPauke(Timpani)を耳にする機会は少ないのですが、この楽器の持つ落ち着いた音色でオーケストラに馴染む音色が私はとても好きです。まだ数カ月しか住んでおらず、、、あと数カ月で帰国となりますが現地での様子をつづりたいと思います。
どんなところ、町並みは・・・・?
海外の四季?イベントを体験しながら過ごせる、とくに念願のWeinachtsmarkt、Östermarktを訪れたり年末に「こうもり」を観劇し新年を祝い(広場でみんながワルツを踊ってました、夏はそこら中で踊りの練習をしてる人がいます)6月には野外コンサート(ウィーンフィルもウィ―ン交響楽団もやっています)があり、満席のMusikvreinでウィーンフィルは欧州を代表するオーケストラを聴けるというのは勉強なのですがすごく幸せを感じています。
オペラの劇場やコンサートホールはもちろん観光客向けの小編成の演奏会用のホール、サロンなどが数えきれないほどがウィ―ンにはあるようです。オペラは大体19時から始まりますが、終演は10時過ぎることも多く、オーケストラのコンサートも19時半から21時半で催されどちらも開場の時間が30分前のため早めに行きたい日本人の私にとってはカルチャーショックでした。いまでは15分前についても早く着きすぎたと思うようになりました。
町並みはというと、歴史的建造物が多く、空が広く感じられ、公園が多い、リスがいる、宮殿が多い、美術館も多い、音楽家ゆかりの土地がそこら中にある、実は国立歌劇場、Musikvrein(楽友協会)はめちゃくちゃ近い、他にもホールがたくさんある、そこから大学もすぐ近くにある。といった感じですべてが日本に比べ密集しています。
生活面では、勉強も必死にしておりますが学生たちは切り替えがうまく学校でもベンチですぐ休むし、暑いからとドナウ川に泳ぎに行くし、街中でも水着で歩いてる人たくさんいるし、みんなほんとに自由で気の向くまま生きています。そして電車に少し乗って小一時間でワイン畑に行くことができ、そこで食事を楽しむことができたり、バーデン(Baden)という保養地として有名な隣町があるのですが文字通り温泉があるのですぐそちらに遊びに?やすみに?行ったりしてのんびり日本では味わえない様な日常を過ごしています。
ホール、劇場について


オペラが上演される劇場は国立歌劇場、Volksoper,Musik Theater an der Wienが常設としてあります。国立歌劇場、Volksoperはそれぞれオーケストラも持っていますがMusik Theater an der Wien に関しては常設のオーケストラはなくウィーン交響楽団、ウィーン放送交響楽団(RSO)が交互にピットに入ってオペラを演奏しています。新旧様々なオペラを毎日代わる代わる演奏しているそので、一体いつ勉強してどうゆう生活してるんだろこの人たち?と、いつも思います。
国立歌劇場に毎週のように行っているのですが立ち見席はBundestheaterKardを作ると4~5Euroで観れるため学生の身分としては助かっています。とは言うものの初めて立ち見で観たものがタンホイザーだったため骨身にしみました。
しかしながら何より驚いたのはタンホイザーを見た日はウィーンフィルの定期演奏会の日だったため朝11時!!から定期演奏会、その後夕方からタンホイザーを演奏した方が数名いたことです。(ヨーロッパの人は仕事嫌いじゃないのか、なんてワーカーホリックなんだ)と感心?正直ドン引きしました。
コンサートホールも同様に楽友協会(Musikverein)コンツェルトハウス、だけでなくちいさいものは数えきれないほどあります、、、そしてシュテファン大聖堂のような有名な教会でもたまにオーケストラがベートーヴェンの第九交響曲など様々な演奏課会が開催されています。
どこで勉強を?
私は現在ウィーン国立音楽大学にて勉強をしています。学生は多国籍なもののオーストリアの学生も多く先生ももちろんオーストリア人で(MarimbaはEmiko Thiele-Uchiyama先生)オーストリアドイツ語の洗礼を受け悪戦苦闘しながら勉強をしております。1年では到底習得できないなというのを実感しましたのでもし留学を検討されている方は語学をしっかりと準備をしていくことをお勧めします。38歳で仕事をしながらの語学習得はなかなかに厳しいものがあると日々痛感しております。そして今どきの海外の若者は英語がほんとに普通に話せます。生活するのも店員さんは英語が話せるのでまず日本の学校でも勉強する英語で軽いコミュニケーションをとれるようにしておくと楽なのでしょうね、私はそんな器用にできませんでしたが。

学校ではどんなことが学べる?やはりオーケストラの勉強が中心?入試は?
そう書いていると肝心の勉強は何をしているんだ?遊んでない?楽しそうだねと思われますが、こちらの学校の勉強のシステムを国立音大について解説をすると(Master課程の受験をしました)まず受験はMaster課程だとPauken、Kleinetrommel(小太鼓),Marimba、Vibそれぞれを含んだプログラム(リストから選択)Kleinetrommelに関してはRudiment、Soloの曲どちらも演奏し合計30分を超すプログラムを選曲して試験を受けました。なおかつドイツ語資格をGoethe,ÖSDなどの公的なドイツ語資格をB1で70点以上取らなければならず(これに関しては私はなにも言えませんが)相当に過酷です。また事前に先生とアポイントを取ってレッスンを受けたり席が空いてないと受験を合格することも難しいのでまあまあ大変だと思います。オーケストラのオーディションの練習しかしてなかった私にとっては今までで一番練習したかもしれないです。
そして晴れて入学をするとメインのレッスンのほかにWiener Pauke、オーケストラ打楽器、小物打楽器、マリンバ、Vib、Drumset,Drumline,などが授業として選択できます。また楽器のメンテナンス(WienerPaukeの歴史から構造解説、皮の巻き方などなど)の授業もあり単位も取得できる求めていた勉強がすべて授業として組まれているとても日本でいた時から考えるとよだれが出そうなくらいいい環境だなとおもいます。オーケストラの授業も楽友協会やシュテファン寺院で演奏することがあるようです。(私はしてません)
そんな感じでウィンナーワルツ勉強しに来たんじゃないの?って感じだったのが打楽器全部を満遍なく(あ、Vibは私はしてません)やりエチュードを数冊やりまた演奏会に足を運び、ビールが飲めるようになりました。
ウィーンでなんでそんなにいろいろな楽器するの?って思う方のために説明をすると、国立音大はどうやらソリストを多く輩出するわけではなく卒業生の大半は音楽学校の先生をしたりオーケストラに入団する人が多いようです。オーストリアのオーディション事情を知りたかったのでいろいろな過去の課題をみましたが欧州に関しては国ごとにも多少の差異があり(どこでも出る課題はありますが)特にオーストリアは全部の楽器が課題に含まれていてとにかく課題の量も多いしドラムセットもある、というのが一般的なようです。マリンバも非常に高度な課題が出るのでアラフィフのおじさんには難しいです。まさに次の世代のための課題だと感じました。
幸いにも先生(ジョセフ・グンピンガ―氏国立音大教授,放送響Solo Pauker)にお誘いをいただき数回演奏させていただきましたが(言葉も全然できないのにありがとう)演奏が終わった時のお客様反応がとてもダイレクトに伝わる雰囲気がとてもうれしくそのあと毎度一本だけ外のビールスタンドでいただく地元のビールはおそらく一生忘れないと思います。
打楽器買い物事情
やはりこの記事を読む皆さんが一番気になるのはどこで打楽器を買っているのか?ということだと思います。ドイツではThomann,Kolberg,などで直接注文して買うのが多いと思いますがウィ―ンはなんと市内にMusikdingeと言うJPCの様な小売店がヴェルヴェデーレ宮殿の近くにあります。そこではKaufmann,Steinerの様なウィ―ンのブランドをはじめPlaywood,YAMAHA、Saito,TAMAなどの楽器、マレットも直接購入できます!まただたLechnerさん(ウィ―ンフィルの打楽器奏者)のご実家の楽器店がよく学校に学生の注文したものを持ってきてくださっています。
ウィーン式のPauke(Timpani)についてお話しするとウィーンフィル(国立歌劇場オーケストラ)のティンパニ奏者の方が代々シュネラー氏から始まりホッホライナー氏、シュスター氏、そしてミッターマイヤー氏と続き設計し作っていますがその4代続くティンパニすべて一応学校で練習で使っています。見た目はミッターマイヤー氏のもの以外は特に大きく変わらないものなのですがところどころ変わっており興味深かったです。(ほんとに細かな部分ですが)
ティンパニのマレットはやはり自国のものを使っていましたが、鍵盤楽器のマレットに関してはPlaywoodのシロフォンマレットや安倍圭子先生のマリンバマレットが非常に人気です。
そしてなにより楽器事情かと思いますが国立音大には打楽器の練習棟に演奏科コースの学生用にウィンナーパウケが3セット、ベルリンペダルのパウケが2セット、アダムスのシュネラーパウケ(ドレスデンペダル)が1セット、マリンバはすべてアダムスですがαモデルやBogdanモデルなどがあり、6セット!!!(5Oct)あります。ですが合奏用のホールにはまだまだあり正直すべての楽器は把握できておりません。小太鼓はやはりAuralもおいてありますが、グレッチやAyotte の小太鼓をつかっています。また一番驚いたのはまずレッスンでは練習パッドでルーディメントをしっかり学びその後もDelecluseの様なエチュードでテクニックを勉強することを私の先生が推奨していたことでした。
わたしは一応そのあたりも日本で練習しておりその後HochreinerやKanuerの教則本をレッスンで受けたのですが、なぜDelecluseはルーディメントはできるのにウィーンの伝統的なエチュードは出来ないんだ!!と驚かれました。(むしろ伝統的なものを勉強しに来たんだよって思いましたけどね、ははは)
また面白い点はHochreiner―Hartl-Madasという歴代の奏者がエチュードを出版している点です。主にPaukeのものがおおくHartl氏はティンパニのソロの曲も書いておりますが特筆すべきは小物楽器(タンバリンからカスタネットにいたるまで)に至るまでエチュードがある点です。Madas氏は現役の団員さんで主に打楽器を演奏されているので著書にドラムセットなどの曲も書かれておりその殆どがオーケストラの曲にも直結しておりまた非常に難しくこれらをすべてできるようになるのはいつになるのか、、、、と途方もない気持ちになりました。
これ以外にもたくさんのシリーズを作られています
前述したようにこれらの曲目からオーディションが出題されることもあり授業でも取り扱われるため授業がオーディションに直結しているということが驚き半面実用的で目的意識もはっきりしていて素晴らしいと思いました。また日本よりも現代曲が演奏される機会が多いためそのような多くの楽器にふれいろんな奏法を日々ブラッシュアップするためにも新しい教則本が必要になってくるのではないかな?と個人としては分析しています。
悲しいことにどんなに良いシステムでいろいろな教育を受けたとしても学生全員がオーケストラ奏者になれるわけではないのですが、知識が少しでも多くあるというのは卒業したあと講師になったりするときの次の世代を育てるために少しでも助けになるのではないかなと思います。
音楽にまつわる話ばかりでしたがやはりウィ―ンという都市はとくに欧州の中でも音楽にあふれていて街を歩けば著名な作曲家にゆかりがある建物があり、楽器を持っているかたを見かけ、どこかで演奏会があるためこのような文章になってしまいました
世界各地で打楽器人生を謳歌する日本人というシリーズのようで文字通りこの数カ月は打楽器とウィーンという土地を謳歌しておりました。なので、このひとほんとにウィ―ンで音楽と土地を謳歌したんだな!っていう雰囲気がすこしでも伝われば幸いです。
お気に入りの写真をいくつか掲載しますのでそちらで町並みは楽しんでいただければと思います。

ではみなさまServus!!

伊藤拓也プロフィール
東京音楽大学卒業、桐朋オーケストラアカデミー修了。菅原淳、久保昌一、和泉正憲、塚田吉幸、岡田真理子、今村三明、安江佐和子、宮崎泰二郎の各氏に師事。
2012 年小澤征爾音楽塾オペラプロジェクト XⅠ「蝶々夫人」、打楽器奏者として全国の主要オーケストラに客演。中部フィルハーモニー交響楽団ティンパニ、打楽器奏者を経て現在九州交響楽団打楽器奏者、文化庁令和7年度新進芸術家海外研修制度研修員。
執筆者: 伊藤 拓也
編集:JPC MAG編集部

