世界の打楽器部屋から
世界の打楽器部屋から Vol.13|ドイツ ・シュトゥットガルト 樋渡希美
世界各国で活動されている日本人のみなさんを「打楽器」というキーワードで、それぞれの生活スタイルや現地の情報など、その土地目線でレポートしてもらう紀行シリーズ第13回目。
今回は海外コンクールの経験も豊かで、現在ドイツ留学されている樋渡希美にさんに寄稿して頂きました。
※この記事は2020年10月発行「JPC 166号」に掲載されたものです。
現地情報
- 国:ドイツ
- 地域:バーデンヴュルテンベルク州 / シュトゥットガルト
- 日本との時差:-8時間(サマータイム時-7 時間)
- 生活言語:ドイツ語
◇ ◇ ◇
初めまして、シュトゥットガルト音楽演劇大学ソリスト科課程を専攻している樋渡希美です。
ドイツに留学してから約3年が経とうとしています。今回は素敵な機会を頂きましたので、ドイツでの生活を紹介させて頂きます。
●ドイツ留学したきっかけ
私が東京音楽大学学部2年生の8月に管打楽器コンクールが開催され、マリンバ部門に出場しました。当時の私は、全曲新曲、楽譜を読み終えることで精一杯、運良く2次予選まで進むも準備不足丸出しの演奏で撃沈…。同年9月はARDミュンヘン国際コンクール打楽器部門が開催された年でもあり、『管打コンも本選までいけなかったし、気分が落ち込んだままだし、観光がてら世界の奏者の演奏を聴いてみよー』そんな軽い気持ちでARDを見に行きました。
語学能力が皆無だった私にこの旅は厳しかったのですが、本当に厳しかったのは『世界の舞台に立つ人の演奏レベルや内容・世界観が、私がやっているものと全く違う』と痛感させられたことでした。出場者全員が違う形でその人の音楽や人柄を観客にプレゼンテーションしているようでした。
今まで楽譜をさらって演奏出来た気になり、自己満足の為にただ練習していた私には衝撃的で、こんな風に演奏したい! という意欲と、いや~でもこんなレベルに自分がなるなんて夢のまた夢だよね…という複雑な気持ちのまま帰国しました。
そんなこんなで学部生活最後の年。卒業までに1回は国際コンクールに挑戦しようと思い、イタリア国際コンクールに出場しました。ファイナルの演奏直後、私から発信した想いに応えて下さった観客の反応が本当に嬉しかったのを覚えています。
コンクール期間中には演奏者としても人としても尊敬出来る素敵な仲間と出会い、交流を深めるうちに彼らがシュトゥットガルトの学生であることが分かりました。思い起こせば私がARDで本当に素敵な演奏をするな! と思った出場者達もそこの学生でした。
帰国後直ぐに語学の勉強を始め、シュトゥットガルトの大学や先生方のことを調べました。
日本の先生方や仲間に支えられながら、ここへ絶対に留学をする! という強い気持ちで受験をし、2017年の秋に念願のシュトゥットガルトのマスターに入学することが出来ました。
●ドイツでの活動内容
ドイツには数多くのプロオケが存在します。私もテューリンゲンのオケでエキストラとして度々ご一緒させて頂いておりますが、リハがまぁ少ない! 今日が初リハ→明日本番→翌日には再び新曲が→そのまた翌日に本番、というように回転が速く、毎度完璧にこなすのはとても厳しいです。
ですが面白い出来事も沢山有ります。ある日の本番直前にスネアのスタンドが壊れ、仕方ないのでスネアを椅子の上に置いて演奏する団員さん…ハプニングを笑ってこなす姿には驚かされました。
また私が昨年出場したARDのセミファイナル直前には、オケのリハ中だったのにも関わらず団員さん1人1人が携帯を譜面台に置き、私の演奏をライブストリームで見て応援して下さったそうです。団員の方々の優しさが嬉しかったのと同時に、その光景を見たかったなと言う正直な気持ちもあります(笑)
個人の演奏の機会としては、教会でオルガンと共演したり、ジャンルの違う芸術家の方々と現代曲でコラボしたりもします。
楽譜を理解するのは勿論、それを自分の音楽として表現するのが本当に難しく、勉強になります。
また音楽学校の講師もしています。大半の生徒さんは日本の生徒さんと少し違ったモチベーションを持っている印象です。私もそうでしたが、日本の生徒さんは『上手に演奏したい、その為に練習する』という方が多いと思います。しかしここの生徒さんは『楽しく弾きたい! とにかくなんでもいいから弾きたい!』という印象で、とても正直な生徒さんたちには苦戦もしますが、楽しんでレッスンをしています。
●最後に
私が留学してから特に感じたのは『思い立ったら即行動! が大切』ということです。
とは言っても金銭問題や、環境、タイミングの等の問題で行動を躊躇するかもしれません。
後先をよく考えて行動する事も大切です。しかし今何かをしたい! と思った時のエネルギーは全てのことをプラスに変える強い力があると私は信じています。
決断力とそれを行動に移す勇気を持ち、自身も精進して参ります。
ありがとうございました。
樋渡 希美|Nozomi Hiwatashi プロフィール
東京音楽大学を首席で卒業し、同大学卒業演奏会に出演。ミュンヘン国際音楽コンクール2019セミファイナリスト。14th Italy Percussion Competition マリンバ部門第2 位受賞。第34回日本管打楽器コンクールマリンバ部門賞。2016 年度東京音楽大学給費生及び瀬木芸術財団法人短期海外研修奨学生に選ばれ、奨学金を授与される。MOZARTEUM International Summer Academy2016 を大学より奨学金を得て受講。2017、18、19 年度YAMAHA 音楽奨学支援の奨学生。2020 年度INTERSTIP-STIPENDIUMより奨学金を得る。ドイツのKolberg50周年記念フェスティバル、デンマーク打楽器国際フェスティバル等様々な演奏会に招待され演奏。
これまでに菅原淳、神谷百子、久保昌一、村瀬秀美、石内聡明、西久保友広、一丸聡子、の各氏に師事。2017 年の秋からドイツに留学し、2020 年春にマスター課程を満場一致の満点で修了、現在シュトットガルト音楽演劇大学のソリスト科課程に在籍中。Marta Klimasara, Klaus Dreher, Jürgen Spitschka の各氏の元で研鑽を積んでいる。