世界の打楽器部屋から
世界の打楽器部屋から Vol.9|オーストリア・リンツ 堀田理恵
世界各国で活動されている日本人のみなさんを「打楽器」というキーワードで、それぞれの生活スタイルや現地
の情報など、その土地目線でレポートしてもらう紀行シリーズ第9 回目。
今回はアントンブルックナー私立大学に留学されている堀田理恵さんに寄稿して頂きました。
※この記事は2019年7月10日発行「JPC 161号」に掲載されたものです。
現地情報
- 国:オーストリア共和国
- 地域:リンツ
- 日本との時差:8 時間(サマータイム時は7 時間)
- 生活言語:ドイツ語およびオーストリア語
◇ ◇ ◇
オーストリアの中都市リンツで暮らし初めてから3 年ほどたちました。リンツは首都ウィーンと、観光地としても有名なザルツブルクの中間あたりに位置しており、それぞれの地に電車で約1 時間ほどで行くことが出来ます。また生活圏内にも公共交通機関が充実しており、とても暮らしやすい街です。現在は街の中心部から少し離れた場所に位置するアントンブルックナー私立大学に在学しています。
●大学での生活
大学では二人の教授のもとで、マリンバ、マルチパーカッション、オーケストラスタディ等、広く深く学ぶことができます。私はそれに加えて選択科目として、ハンドパーカッション演奏を中心とした各国の民族音楽についても学びました。レッスンでは、素晴らしい先生方から新しい技術や表現方法を学ぶたびに目から鱗が落ちるような驚きと感動を味わいました。徹底した基礎から始まり、多様な音色の追求と、音楽表現をいろいろな曲を通して勉強しましたが、中でもソロ曲としてウィーン式ティンパニを7 台使用し演奏したことは、ティンパニの更なる可能性を知ることが出来た貴重な経験でした。
学内外でもアンサンブルやオーケストラの演奏会に出演する機会が多くあり、楽器やマレットの選び方、奏法(時折、先生はオーストリア式奏法も教えてくださいました)、音楽の表現方法など、国が違えば考え方も様々で、毎回とても刺激を受けました。
またクラスでは皆が楽器をとても大切にしています。丁寧に扱うことはもちろんのことですが、よい状態を保つため定期的に部屋と楽器の清掃を行っています。特にマリンバの共鳴管にはよく埃がたまってしまうため、毎回気をつけて掃除をしています。
●苦悩から学んだこと
楽器の話とは少し逸れてしまいますが、大学の打楽器クラスには現在、年齢も国籍も多様な約15 人の学生が所属しています。皆本当に熱心な学生たちで7 部屋ほどある練習室はいつも朝からすぐに埋まってしまいます。楽器も充実していますが、もちろん一人に一台ずつとはいかず、譲り合いが必要な場合がほとんどです。打楽器クラスの中では明確な練習室の予約システムなどがないため、毎回学生同士で互いに相談し、練習計画を立て、部屋や楽器を譲り合いながら練習をしています。私がリンツに来た始めの頃は語学力が堪能でなかったため、このやりとりにとても苦労しました。「先に練習している人の邪魔をしたくない、、。ドイツ語でなんといえば相手に快く聞いてもらえるだろうか?」と臆病になってしまい、積極的に話し合いにいくことができない日々を過ごしていました。しかし、先生や周りの友達に「練習したいんじゃないの?自分がやりたいことや、不都合なことは我慢せずにきちんと伝えないといけないよ。」と何度も言われ、それから少しずつ、自分の意見を言うことができるようになっていきました。
【待っていても何も起こらない。黙っていても相手には何も伝わらない。】これは一見当たり前のことですが、生活上、演奏上に役立つ大きなヒントとなりました。常に能動的でいることは、日常生活はもちろんのこと、楽譜を読む時、音を出す時、また誰かとアンサンブルをするとき、あらゆる場面で役に立ちます。何事にも自身のアンテナを張り、柔軟に対応することで、音楽も人間性も深みを増す、ということを身をもって知ることができました。
リンツでの生活は音楽面だけでなく、精神的にもとても鍛えられたものでした。これからも真摯に楽器と音楽に向き合い、更に発展していくであろう打楽器の魅力と可能性を広げられる奏者になるため頑張っていきたいです。
堀田理恵 プロフィール
鳥取市出身。4 歳よりピアノ、13 歳より打楽器を始める。東京音楽大学卒業ならびに同大学主催の卒業演奏会に選抜出演。ドイツ、ニュルンベルクでのマリンバアカデミー(IKMMA2011)に参加。ベルギー国際マリンバコンクールセミファイナリスト(2013 年)ほか国内コンクール受賞多数。
2013 年10月に鳥取市にて初のソロリサイタルを開催し好評を博す。2015 年10月よりオーストリアのAnton Bruckner 私立大学の修士課程にてLeonhard Schmidinger、Bogdan Bacanu 両教授のもとで、マリンバ・打楽器を学び更に研鑽を積んでおり、現地のオーケストラや吹奏楽団での演奏活動も行っている。2020 年2月、国内にて2 回目となるリサイタルを開催予定。
※この記事は2019年7月10日発行「JPC 161号」に掲載されたものです。内容は掲載当時のままとなっておりますので予めご了承願います。
執筆者: 堀田 理恵