世界の打楽器部屋から
世界の打楽器部屋から Vol.8|台湾・台北市 浦川翔馬
世界各国で活動されている日本人のみなさんを「打楽器」というキーワードで、それぞれの生活スタイルや現地
の情報など、その土地目線でレポートしてもらう紀行シリーズ第8回目。
今回は台湾を拠点に活躍されている浦川翔馬さんに寄稿して頂きました。
※この記事は2019年4月10日発行「JPC 160号」に掲載されたものです。
現地情報
- 国:台湾
- 地域:台北市
- 日本との時差:-1時間
- 生活言語:中国語
◇ ◇ ◇
紀行シリーズの第8回目ということで、これまでに世界で活躍されている素晴らしい方々に続いて寄稿させていただくことになりまして、大変恐縮ではございますが、読者の皆様に、その国独特の[打楽器]にまつわることをきちんとご紹介できれば嬉しいです!
●麗しの島、フォルモサ
まず初めに、ぼくが現在住んでいるのは日本からもほど近い【台湾】。初めて台湾に到達したポルトガル船の船員が「Ilha Formosa(麗しの島)」と叫んだという伝承から、台湾はフォルモサとも呼ばれています。台湾は北は亜熱帯、南は熱帯に属しているので一年中暖かく、冬という冬は12月から3月頭くらいまでと一瞬で過ぎ去ります。しかし湿度が高いので気温が10℃前後でもとても寒く感じます。
そしてよく「じゃあ台湾語喋れるの?」と聞かれるのですが、公用語はマンダリン、いわゆる標準中国語です。台湾語も使われていますが、台湾語は中国語の方言の一種で、中国語とは発音も全く違うので、ぼくはまーったく分かりません。(口頭伝承なので今の若い世代は喋れない子も多いようです)なので台湾語ができなくても生活には支障ありません。
台湾は歴史的に見てもとても複雑で、(今現在もですが…)、オランダやスペイン、中国大陸からの侵攻、そして日本の統治時代と占領されていた時期が長いです。なので台湾のいたる所にそれぞれの国の影響を受けた文化や建築物などが存在しています。もし観光でいらっしゃるなら、それらを見るのもおすすめです。
●日常生活の中から聞こえてくる「北管音楽」
台湾で生活していると家の中にいても、ふとどこからか賑やかな音楽が聞こえてきます。
それはお祭りや祝日のお祝いだったり、はたまたお葬式だったり結婚式だったり。家の中にいても聞こえる、ということはそれはそれはもう大音量、もはや爆音に近い!台湾の人たちからすると、この音楽は「うるさければうるさいほど良い!」だそうで。この音楽の正体こそが北管音樂であり、台湾の生活に根差した伝統音楽で、お祭りや劇場などでは欠かすことはできない民俗芸能のひとつです。劇場でも欠かせないと書きましたが、台湾には伝統的な北管劇と、大衆向けの台湾オペラとも呼ばれる「歌仔戯(ゴアヒ)」という、台湾で発展した伝統的な演劇があり、この歌仔戯の中でも北管劇の演目が披露されます。トップの役者さんにもなると、まるでアイドルかのようにファンが沢山います。
●指揮者もコンマスも太鼓奏者!?
北管には、「出陣」「排場」、そして演技を含む「上棚」という三つの主な演奏形態があり、それぞれ演奏する場所と楽器の編成が違います。「上棚」は主に劇場、「排場」はお寺の境内、そして縁日の際に演奏しながら街中を練り歩くのが「出陣」です。今回は「出陣」で使われる楽器について紹介したいと思います。
まず演奏を始めるのに指揮者のように合図を出す役割を持った楽器があります。それが「單皮鼓(ダンピーグー)」。まるでドラムメジャーのようにリズムと華麗なバチさばきで演奏者に合図を出します。(その姿がまたかっこいい!)そしてその隣で演奏し、合図を的確に周りに伝達するコンマスのような「通鼓(トングー)」。音がトントンしているところから名づけられたそうです。ちなみに單皮鼓はその名の通り片面だけ皮がかなり強く張ってあり、細く削った竹のバチを使います。遠くまで聞こえるような甲高い音がします。この二人の太鼓奏者を中心に、合わせシンバルの「大鈔(ダーチャオ)・小鈔(シャオチャオ)」、銅鑼類の「響盞(シャンザァン)」「大鑼(ダーロゥ)」と金属の打楽器たちが色を添え、そしてダブルリード楽器の一種である「 吶(ソーナァ)」が旋律を奏でます。
漢字を見てピンとくる方もいらっしゃるかもしれませんが、この管楽器、なんとチャルメラなんです!「出陣」では何十人ものチャルメラ奏者が一斉に吹き始めるのは本当に圧巻です。このチャルメラ大合奏、是非色んな方に聴いていただきたいのですが、耳栓必須かもしれません…。(ぼくは三日間耳鳴りが止まず…)
お祭りの規模にもよるのですが、2日間かけて街に点在するお寺などを演奏しながら回り、朝から晩まで演奏することもあります。まさに北管にとっての一大イベントです!
●第10回台湾国際打楽器節!
台湾では2019 年5/24(金)から6/1(土)にかけて、全部で12の国から、12の打楽器演奏団体が集り、総勢70 人の打楽器奏者が台湾各地で演奏会を開催するというThe 10th Taiwan International Percussion Convention、その名も「TIPC」が開催されます。アメリカからは「Third Coast Percussion」、日本からは和太鼓の演奏団体「豊の国ゆふいん源流太鼓」さん等々、世界中の様々なジャンルの打楽器アンサンブルグループの演奏が、なんと近場台湾で聴ける、大変貴重な機会となっています。
そして台湾といえばやっぱり小籠包!時期的にもマンゴーかき氷がピッタリです。これを機に皆さんも台湾旅行なんていかがでしょうか?
最後になってしましたが、この度このような貴重な機会を頂きまして、ありがとうございました!
浦川翔馬 Shoma Urakawa プロフィール
埼玉県所沢市出身。埼玉県立大宮光陵高等学校音楽科、東京音楽大学を卒業。在学中、定期演奏会ソロ部門に出演、Brillante windOrchestraとP.クレストンのマリンバ小協奏曲を共演。日本打楽器協会主催 第29回打楽器新人演奏会に出演。2013年に渡独、国立フライブルク音楽大学にて研鑽を積む。2017年1月台湾台東県にて國立台湾師範大学管楽団とD.ミヨーの打楽器協奏曲を共演、好評を博す。
これまでに打楽器全般を菅原淳、久保昌一、鷹羽香緒里、西野千枝子の各氏に、マリンバを故岡田眞理子氏に、ティンパニを佐野恭一氏に師事。現在は拠点を台湾へと移し、國立臺北藝術大學管絃與擊樂研究所に在籍。また台湾のプロの打楽器アンサンブルグループであるJu Percussion Groupに参加し、台湾各地での演奏会にも出演する傍ら、付属の音楽教室で指導に当たる。
※この記事は2019年4月10日発行「JPC 160号」に掲載されたものです。内容は掲載当時のままとなっておりますので予めご了承願います。
執筆者: 浦川 翔馬