つっちーの太鼓奇談
つっちーの「太鼓奇談」第十五回|ガムテ ~現場において無くてはならない大切な存在 ~
※この記事は2017年4月発行「JPC 152号」に掲載されたものです。
JPC 会報をお読みの皆様、毎度おなじみ太鼓奇談のお時間がやって参りました。
すっかり春でございます。桜も咲いたりして、暖かな芽吹き時を皆様も謳歌されていることでしょう。
春といえば新たなスタートの季節。
入学卒業就職などの節目とか、ご結婚や出産なんてのもあるでしょう。何を隠そうつい先日私も誕生日なんてものを迎えたばかりでございまして、年男でございます。ええ、48 歳ですw
まぁ、この歳になると、と言うか男はそれほど誕生日にお祝いだなんてピンとこないものですが、それでもSNSなどで誕生日のお祝いメッセージを頂くと嬉しいものですね。
今年も沢山のメッセージを頂き、大変嬉しく読ませていただいております。
ありがとうございました!
さて、前回の太鼓奇談は僕のロジャースにエヴァンスのレッド・ハイドローリックヘッドを乗っけてみたって話が中途半端に終ってしまっていました。
その後日談として、やはり12”のタムだけボトムをレゾナント・コーテッドにしてみたんですね。もちろん余韻も倍音も増えて程よくキャラクターも変わって大変お気に入りです。13”タムと16”フロアはREMO・サイレント・ストロークのままです。ダブルヘッドのタムとシングルヘッドのタム、フロアが混在している現状ですね。各楽器の個性がバラバラですが、不思議とつながりは自然に聴こえるものです。僕が勝手にそう思ってるだけですが。
「つっちーのロジャースは鳴らない」というのが、某秋ヶ瀬公園界隈での定説になりつつあります。
鳴らないドラムをブチブチぶっ叩くのがソウル・マンなのです(完全な思い込みw)。
まぁ、ロジャースの話はコレくらいにして、今回はいつも脱線しまくってとりとめのないこの連載に対し、西尾さんから明確なお題を頂きました。
きっと、西尾さんの元に「あいつの連載をなんとかまとめろ」という、密命が下ったのだと思います。
板挟みになった西尾さんの心中を察すると、なんともいたたまれない気持ちになり、なんとかせねばと一瞬思うのですが、ここは生来持って生まれた下らない性格ゆえか、かのソクラテスも「脱線は必然」という名言を残していたように(そんなことは一言も言ってません。ソクラテス談)西尾さんの心中をよそに勝手に話は進んでいきます。
その注目お題は「ガムテープ」です。
「え?ドラムと関係ないじゃん!なにそれw」とお思いの君、君は今までの打楽器人生でガムテープ(以下、「ガムテ」)に世話になったことがないというのならそれは、まだ偽りの打楽器人生です。(そんな大げさなことでもないのですがw)
打楽器、特にドラム、ラテン・パーカッションのプレイヤーにとっては、ガムテは無くてはならないモノの一つです。
西尾さんから「今度ドラムシティでガムテを取り扱うことになったので、ドラムテック現場でのガムテ活用法を書いてみてはいかがでしょうか?」と言うお達しもなかなか理にかなっていることなのです。しかも取り扱うガムテは世界のテラオカ、そう、あのフジロックのグリーンステージでドカドカと大量の機材を持ち込んでくるワールドワイドなバックステージでも外人クルーが「テラオカ・プリ~ズ!」とまで言う日本のロック、ポップスのみならず演歌やお芝居、映画などの現場には必ずと言っていいほど使われているテラオカのガムテ。そんじょそこらのガムテとはワケが違います。
押入れの奥に眠ってるダンボールを止めてる茶色い紙のガムテなんかじゃありません。アレはアレで独自のポジションを得ているテープではありますが、テラオカのガムテは粘着力抜群、布製で丈夫、カラーバリエーション豊富と三拍子そろったスグレモノなのです。
と、ここまでクドく書けばひょっとしてテラオカからガムテ一年分とか送られてくるのではと思いましたが、良くよく考えてみれば自宅にガムテ一年分送られてきた日にゃ家人から「またワケの分からないモノをドカ買いしやがってこのやろう」と思われるのがオチなので、テラオカさん、送ってこなくていいですw
ツー事で、ガムテとドラムテックの密な関係をここで紹介していきたいと思います。
まずは「ガムテとバミり」です。
「バミり」ってなに?
怪獣みたいな名前ですが、コレはドラムに限らずコンサート、お芝居の現場では欠かせないものです。ステージ上での立ち位置や舞台セット、楽器で言うとアンプやドラム台の位置をマーキングすることなのです。ことドラムセットに関して言うと、ドラムセットの各パーツの位置を細かくドラムカーペットにマーキングすることによって、ある程度のセッティングなら誰にでも出来るように、いつでも同じ位置で楽器をセットし安定したプレイ環境をキープするためにこの「バミり」と言うやつが不可欠なのです。更に僕の場合はプレイヤーの体調によりイスの位置やペダルの位置が微妙に変わった時に別の色でバミります。そうすると、ドラムマットの上にコンディションによってセッティングが変わっていったデータが残るわけですね。
例えば椅子の中心を黒ガムテでXとバミっておいて、プレイヤーが「ちょっと椅子の位置変えるね~」なんて言って「うん、今日はこの位置でやってみる」となればすかさずその位置を赤いガムテでバミっておきます。「あの時の椅子の位置よかったんだよなぁ」と言う時にサクッと再現できる事が大事ですからね。これは全てのバミりに言えることですね。
たまにシンバルスタンドなどの三脚部分の開き具合をガムテでバミってるのを見かけますが、アレはおすすめ致しません。スタンドにガムテの接着剤がくっついて汚れるし、パイプと三脚の間にガムテがめり込んでしまったりして故障の原因になりますからね。何より見た目が良くない。
ドラムマットへのバミりもただヤればいいってもんじゃなくて、いかに客席から見えない様にやるか、これ大事です。
ステージはクリーンに保ちたいものですからね。
黒いドラムマットに白いテープでマーキングすれば確かに見やすいですが、ちょっと上の客席から見たそのドラムセットの見栄えはあんまり良いとは思えません。外からは見えにくく、内側からはわかりやすく。を心がけています。黒いドラムマットには黒ガムテで。「黒に黒じゃ闇夜にカラスで見えねえじゃねえか」いやいや、つや消しのマットに鈍くツヤのあるガムテでバミれば一目瞭然です。ホントにw
マーキング用のガムテで言えば、舶来のものも多用されます。
最近良く見かけるようになったアメリカ製の「ガッファ・テープ」と言うやつですね。ハリウッド映画の撮影現場で使われていた蛍光色の目立つテープです。太さもカラバリも数多くあり、僕がいつも工具箱に入れているのは通称「スパイク・テープ」と言われる立ち位置の印専用の細いものです。
0.5インチなので、約1.3cm 幅くらいでしょうか、これがドラマーの足元をマーキングするのにすごくいいんですね。ドラマーの方も「お!ちゃんとキレイにマーキングしてくれてる!よし!」なんてことで気分もちょっとだけ盛り上がるといいなぁ…と思いながらやっています。
是非、ドラムシティでもこのスパイク・テープを取り扱ってみてはいかがでしょうかw
さて、次のドラムテックとガムテの密な関係は…
「ミュート」です。
ガムテとミュート、この二つの強く甘美な関係はいつから始まったのでしょうか…ドラムのミュートにガムテを使った最初の人は一体誰だったのでしょう?今となっては誰もがスネアの耳障りな倍音をコントロールする為に、スタジオ常設のガムテや持参したガムテをペタッと貼り付けていますね。アレ、ホントに誰が最初なんだろう…それを考えると夜も眠れなくなっちゃいますw
近年はジェル・ミュートなるものにその座を奪われそうになりましたがやっぱりドラムやパーカッションのミュートといえばガムテが王者です。そのままペタンと貼り付けてもいいし、3~4cmの幅で切ってたばこのように丸めてヘッドの上に置くもよし(このミュートはヘッドの上に置く位置でサウンドがどんどん変わります)ガムテミュートの愛人、ティッシュペーパーと抱きわせて貼り付ければ、タイトなミュート効果が得られます。そのやり方は千差万別、アイディア次第ではガムテミュート界に新風を吹き込むことも夢ではありません。いや、マジでw
ガムテを細長く裂いて切って、ライドシンバルの裏に中心から外に向けて貼れば程よく倍音をコントロールしたシンバルサウンドになるし、カウベルの開口部に縦に貼るとめっちゃ太いカウベルサウンドが簡単に出ます。ティンバレスの真ん中にサイコロ大に切った正方形のガムテを何枚か重ね張りすると芯が太くかつ明るいサウンドがコレまた簡単に得られます。こういった事は全て僕が今までご一緒させていただいた素晴らしい作品、ミュージシャンの方々から教えていただいたことばかりです。ミュージシャンだけではありません。ローディーの先輩方や舞台監督、大道具や鳶さんの皆さんから現場で教えていただいて体で覚えた事だらけです。
僕らが働くコンサートの現場ではこのガムテと言うやつが無いとなんともならないのです。昔、照明の大先輩から言われた事を思い出します。「イイかお前、ローディーなんてのはな、士農工商エタヒニン、犬猫、バンドマン、ガムテ、釘、箱馬、石ころ、ローディーなんだぞ」今こんなことを言ったらたちまち炎上して国会で審議に入り各自治体の教育委員会からは糾弾され、日本のあちこちでデモ行進が行われ、自宅には週刊誌テレビ新聞右翼左翼有象無象が押しかけ、一家離散なんてことになりますが、その昔はあたり前のことだったのです。先輩が言いたかったのは「あちこちから怒鳴られ、こき使われ、げんこつ食らうこともあるだろうけど、お前らは音楽や楽器が大好きでこの世界に入ってきたんだろう?だったらどんな辛い事も我慢して良いコンサートを作ることだけに心血を注ぎなさい。コンサートを見たお客さんがみんな気持ちよく帰ってもらえるようにね」てなことだったのでしょう。キツく暖かい愛のムチだったのです。
(とは言え、当時は「いつかこのおっさんのアタマかち割ったる」と思ってい
たことも事実w)
そんな壮大な物語?を裏で支えるテラオカのガムテープがいよいよドラムシティでも販売開始と相成りまして、東京のみならず、地方から浅草詣でに起こしいただいた際には、雷おこしと共にドラムシティでテラオカのガムテと雷鼓ヘッドをお求め頂き、浅草詣での良き思い出として頂けたら幸いです。あ、小腹がすいたら「花屋*編注」の焼きそばがおすすめです!てな感じで
今回はここらでお開きと致しましょうか。
それではまた!!!
編注:花屋...正しくは花家。残念ながら数年前に閉業しています
■つちだ“つっちー”よしのり プロフィール
1969 年生まれ。11 歳の頃YMO の高橋幸宏に衝撃を受けドラムを始める。現在はフリーのドラムテック&ローディーとして矢沢永吉、高橋幸宏(METAFIVE、YMO)、松本隆(はっぴぃえんど)、林立夫(Tin Pan)、細野晴臣、[Alexandros]、Diggy-Mo’ LITE、ピエール中野、などのツアーやレコーディング、FUJIROCKFESTIVAL やSUMMER SONIC などの、夏フェスでのステージクルーとしてウロウロしている。
自身のバンド254soulfoodでは地元のクラブ鶴瀬パオパオで定期的にLIVEを行っている。
プレイヤーとしての参加作品はHARRY「BOTTLE UP AND GO」 本園太郎「R135DRAFT」「torch」など。
蕎麦と落語と読書に酒、煙草好きの堅太り。
執筆者:土田 ”つっちー” 嘉範