つっちーの太鼓奇談
つっちーの「太鼓奇談」第十三回|忙しかった夏の出来事とその裏で感じたモヤモヤ
※この記事は2016年10月発行「JPC 150号」に掲載されたものです。
JPC会報をお読みの皆様、こんにちは。
毎度おなじみ太鼓奇談のお時間がやって参りました。
この号が発行される頃はもう十月、まだ夏の暑さが少し残っているでしょうか? それとも秋深まる気配が色濃く空に映しだされているでしょうか?
この原稿を書いているのは九月の五日、実はこの日、西尾さんに指定された締切日なのです。
そうです、夏の忙しさに追われてコロッと締切日を忘れておりました。面目ない。しかも今日は後輩と飲み会。結構な勢いで飲み倒し帰宅後しっかり酔いを覚まして、シャキッとしたアタマに戻していざ執筆!!!
しかしアレですね、忙しさに追われてってのは良くありません。今日は最寄りの駅から自宅に帰るまでに下らない失態を二つやらかしました。まずは駅を降りてコンビニへ。
麦茶とチョコを買おうとレジにブツを持って行き、お金を払って店員さんの「ありがとうございました~!」の声に、「どうもごちそうさまでした」と返す。
そして足元がふらつくので、タクシーに乗り込み自宅前まで。
ここでもお金を払って運転手さんの「ありがとうございました」に対してまたもや「ごちそうさまでした」と。
二回もアホの様な事をくりえしてしまい、失意のどん底の中、この原稿をカタカタタイプしているところでございます。
話は変わりまして、夏といえば僕らの業界では夏フェスですね。
今年僕が参加させていただいた夏フェスは…
北海道は岩見沢市のJOIN ALIVE、新潟県苗場スキー場のFUJI ROCK FESTIVAL、東京と大阪同時開催のサマーソニック、北海道は石狩のRISING SUN ROCK FESTIVAL、山中湖のSWEET LOVE SHOWER、東京は夢の島公園のWORLD HAPPINESS、千葉の氣志團万博、そして最後のシメに、朝霧高原の朝霧JAMに参加して参りました。
どのフェスもとても楽しく、時には現地クルー、時にはバンド付きのクルーとしてお仕事させて頂きました。
現地に行くと知り合いにたくさん会えて色々なつながりを再認識したりして、久しぶりに会う方やしょっちゅう会っている仲間で会話も弾み沢山の思いでが出来ました。
そんな夏フェスの合間の7/30と9/3に自身のバンド254soulfoodのライブをやったりと、何でこんなにと思うほどアクティブに動いておりました。
その日その日で全く違う音楽に接し、バックアップ・サポートを務め、時には自身の表現もして、なんだか目が回る思いでしたが音楽の楽しさに助けられ、人々のつながりに引っ張られて、なんとか夏を乗り切ることが出来ました。
ありがたい限りでございます。こうして音楽に関わって生きていけるのは後何年くらいなのだろうかと漠然と考えてしまいます。しかし先の事は誰にもわからないと思うので、心構えだけはしっかりして前に進むしか無いかなと思っています。
夏フェス以外の出来事で言うと、やはりリオ・オリンピックになるのでしょうかね。あまり僕は熱心に見なかった方ですが、それでも錦織圭選手の試合、日本テニス界96年ぶりのメダルを賭けたナダル選手との激戦はリアルタイムで息を殺して観ておりました。その他、レスリング、体操、柔道、卓球、水泳、陸上競技と、日本選手団は大活躍でした。
本当に日々の鍛錬を重ね、あの大舞台で結果を残すというその精神力には脱帽です。どれほどのプレッシャーなのでしょう…考えるに恐ろしくて僕なんかは逃げ出してしまうでしょうw
そして、話題になった閉会式…。
椎名林檎さんが音楽監督を務めた次回東京五輪のセレモニーは素敵だったと思います。まぁ、総理大臣がゲームキャラにコスプレしてあーだこーだってえのはありましたが…。
それと個人的には、このセレモニーの話にも繋がるのですが、庵野監督のシン・ゴジラですね。
僕、二回観に行きました。一回では細部まで観きれない程のボリューム感といいますか、細かい設定や見所満載で、エンタテインメント作品として楽しませて頂きましたね。
ただ、先のオリンピックのセレモニーと言い、シン・ゴジラといい、ちょっと腑に落ちないといいますか、後味が悪いとまでは行かなくても、ちょっとほろ苦い思いがこみ上げてきたのは事実です。
それは無防備な「日本礼讃」だと感じます。
「クール・ジャパン」を標榜したオリンピックのセレモニー、影絵を利用したり和のテイストの振り付けだったり、プロジェクション・マッピングを利用したハイテックな演出もイケていたと思うのです。総理大臣のマリオもドラえもんもキャプテン翼もキティちゃんもまぁ、いいでしょうw
シン・ゴジラでも、官僚のはみ出し者で結成された巨災対や、各省庁の活躍も目覚ましかった。政府内部のもどかしさも克明に描かれていたと思います。もちろんゴジラ自体も恐ろしくリアルに表現されていました。
その根底に流れるのは日本礼讃、「僕らは凄いんだ、日本はまだやれる、愛国心があれば国は立ち直れる」と言うある種盲目的なプロパガンダを感じてしまったのです。
穿った見方だと言う方も沢山いらっしゃると思うし、もっとストレートに「凄いものをなぜ素直に受け入れない? 日本はまだまだ発展できると思わないのか?」と。
仰るとおりです。僕も素直にそう思いたいです。
しかしこの「発展」てのがまたネックで、「愛国心」とセットになるととてつも
なく厄介な気がします。
じゃあ、お前は愛国心が無いのか?日本が好きじゃないのか? と問われれば、いやはや日本は大好きだし国を愛する気持ちはとてもあります。あるがゆえに盲目になってはいけないのではないか、そんな簡単なナショナリズムで盛り上がってイイのだろうかと、疑問が湧いてしまうのです。
なにか、今の時代、この状況がとても安易な雰囲気に感じてしまうのですね。情報は氾濫しているし、何もかも全自動で事は済んでしまう。洗濯も食器洗いも掃除機まで全自動。
店には店員の代わりにロボットがいて、そもそもお店に出向く前にネットで注文すれば次の日にはブツが届いてしまう。
歴史的な名演奏も手軽にネットで観て聴けてしまう。
しかもタダで。
もちろん僕自身もその恩恵に預かっているわけですし、すべてを否定するわけではなく、言ってしまえばかなり積極的に「便利で簡単な」生活にどっぷり浸かっているわけです。ただ、朝、ネットで買ったブツがその日の夕方に届いてしまうようなその瞬間に、何故でしょうか、罪悪感みたいなモノを感じてしまうのです。
この小さな箱を今日中に届ける、しかも送料無料で。
一体この一つの箱を届けるためにどれだけの人が関わって無理をして安い賃金で働いているのだろうか…と。
一昔前は東京から大阪に荷物を送るだけで中一日かかるというのが常識でした。月曜日に発送すれば水曜日の午前中に届くというような。今はその日のうちに。ですよ?
流通拠点が各地に開設され、大幅なコストダウンとスピード化が可能になったというのは理屈としては分かるのですが、何か釈然としない。僕だけですかね?
みんなの便利のために誰かが犠牲になっている、東京の電力の為に福島に原発が建った。都会に住む人々が買い求めるファストファッションの為にインドやバングラデシュの綿農家で子どもたちが過酷な労働を強いられている。
ペットショップのガラスケースに入る可愛らしい子犬子猫を産むために、母犬母猫が劣悪な環境に置かれその肉体を酷使して最後はゴミ同然に殺処分される。
「ニーズがあるから商売は成り立つ、ニーズがあるから儲かる」その結果、考える間もなくあくせく日々の仕事と生活に追われてしまう…最初に書いた「忙しい」と言う状態ですね。忙しいという字は「心を亡くす」と書きます。
文字通りいま「心がなくなってきている」状態なのかなと感じるのです。超特急で届く荷物に感じる罪悪感、それは自分のせいで誰かが心を亡くしているのではないのだろうか?
そしてそれは自分の心を亡くすことにも繋がるのではないかと。
妄信的、盲目的なイデオロギーやナショナリズムも、自分で考えるという心を亡くすには持って来いの策略です。
かつての戦時中同盟国のナチス・ドイツがその典型ですね。
民衆はとても簡単にコントロールできてしまうというプロパガンダの力を巧みに利用した悲しい成功例です。
今の日本はどうでしょう? この夏のもう一つかなり大きな出来事としては天皇陛下の「お言葉」がありました。
生前退位のご意思とともに、陛下が仰られたお言葉に、「家族」という言葉があったのがとても印象的でした。
陛下ご自身が「私は現人神ではなく、象徴天皇であり、一人の人間であり、
人として家族を大切に守りたい」と言うご意思を感じました。
自民党の憲法改正草案にある「天皇を元首として」という言葉を明確に否定されたのです。
ナショナリズムに妄信的になるな、盲目的なイデオロギーに染まるなと。
今一度、「人としての営みを振り返り、自然を敬い、日々の糧に感謝し、真に豊かな心で皆が助けあい自身の勤めに励む国であった日本を忘れないで欲しい。」という陛下からのメッセージだったのでは…?と感じました。
そしてこれはそのまま僕ら音楽を演奏する人々にも当てはまることだとかんじます。もちろん、プロ・アマ問わずに。
なんだか今回は与太話が少なくて、真面目くさいことばかり書いております。
過酷な夏を乗り切った疲労とストレスから、このようなことを考えてしまうの
かもしれませんね…。
こんな時は箱根の温泉にでも浸かって、大涌谷の黒たまごでも食べながら、女の子の膝枕でうとうとするのが最高なのでしょうが、あいにくまだそんな贅沢は許されるわけもなく、このまま怒涛の日々を乗り切り、気が付くとジングル・ベルの音が聴こえてきて、あっという間に大晦日からのお正月で、2017年の幕開けとなるのでしょうw
なんだか時間の流れが早くなっている気がしませんか?
昔、筒井康隆さんの小説でどんどん時の流れが早くなってきて人間の生活が追いつかなくなって滅茶苦茶になるって小説がありましたね。
最後は時間が滝のように流れ落ちていて「そんなバカな」の一言で終わっていた気がします。
そんな異常な時代ですがどうか気を確かに持って、やばくなったら立ち止まって深呼吸して空を見上げてから、ゆっくり一歩踏み出してみることを心がけましょう。
ちょっと説教臭い回になってしまい、ごめんなさい。
自戒の念も込めて敢えて書いてみました。
それでは皆様の日常が素晴らしくあたたかな日々でありますように…。
またこのページでお会いしましょう。
■つちだ“つっちー”よしのり プロフィール
1969 年生まれ。11 歳の頃YMOの高橋幸宏に衝撃を受けドラムを始める。現在はフリーのドラムテック&ローディーとして矢沢永吉、高橋幸宏(METAFIVE,YMO)、松本隆(元はっぴぃえんど)、林立夫(TinPan)細野晴臣、[Alexandros]、ゲスの極み乙女。星野源、などのツアーやレコーディングに携わっている。
自身のバンド254soulfoodでは地元のクラブ鶴瀬パオパオで定期的にLIVEを行っている。
プレイヤーとしての参加作品はHARRY「BOTTLE UP AND GO」本園太郎「R135 DRAFT」「torch」など。
蕎麦と落語と読書に酒、煙草好きの堅太り。
執筆者:土田 ”つっちー” 嘉範