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2023年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲パーカッションセクションへのワンポイントアドバイス
課題曲のアドバイスのはずが、毎年いつの間にか深い話になって行くところがプロアマ問わず大人気。NHK交響楽団首席ティンパニ奏者の植松透氏にお話を伺いました。今年も植松節タップリです。
取材:パーカッション・シティ本山
Ⅰ 行進曲「煌めきの朝」/牧野圭吾
ビブラフォンが入るマーチの曲って珍しいですよね。何故シロフォンでは無くてビブラフォンにしたのか、ビブラフォンにする事によってどのような効果を狙っているのかを考えてみましょう。グロッケンとビブラフォンは同じ動きをしていますので、2つの楽器で1つの楽器(音色)になるように、グロッケンの響きをサポートするイメージを持つと良いと思います。吹奏楽でのビブラフォンは音が埋もれてしまう事が多いので、サポートすると言ってもマレットは柔らかいものでは無くて良いです。硬すぎてしまうのは良くありませんけど。グロッケンは発音の良さは大切ですが、硬過ぎずビブラフォンの音色と上手く混ざるようにしましょう。グロッケン主体だとビブラフォンの響きが邪魔になってしまいますので、ビブラフォンの響きの上に透き通ったグロッケンの発音が乗るイメージです。ピアノをオクターブで弾いている時の音色が近いかも知れません。グロッケンだけの部分は、通常通り明るく発音の良い音色で良いですが、特に意識しなくても良いと思うんです。ビブラフォンと一緒に作った音色からグロッケンだけになった時に自然にフワッと浮き出て来て、それで充分キラキラした音色に聴こえるんじゃないかと思います。
ビブラフォンの音作り次第でかなり変わりますので、この曲のビブラフォンの役割を是非研究してみて欲しいですね。マレットの選択はもちろんですが、冒頭のトリルの部分はペダリングをどうするとか、扱いが難しいですけど、色々試してみてください。研究するにあたっては、やはり吹奏楽以外のビブラフォン本来の演奏を聴いてみて欲しいです。チック・コリアとゲイリー・バートンのデュオならビブラフォンの事だけでなくアンサンブルの勉強にもなるし、浜均さん(浜田均氏)とか大井さん(大井貴司氏)とか。色々聴いてみましょう。
Trioからのスネアドラムは言葉で言うと「軽快に」ってなると思いますし実際にそうなんですけど、使用するスティックについても考えて、試してみて欲しいですね。粒を立たせる為に硬い素材のスティックを使う方が多いようですが、私はこのような場面ではメイプル材のスティックを使います。ヒッコリーやその他の硬いスティックだと主張し過ぎてしまうと思うんです。メイプルは軟らかいし軽いからタッチが深くならない。「タッ!」って鋭くて短い音作りをよく聴きますけど、そうするとタッチが深くなり重くなり遅くなる。スティックは落とすだけで、それを拾ってあげるイメージで良いです。そうすると響き線の反応が良くないなんていう問題が出たりすると思いますが、そのような奏法をした時に良い音が出るようなヘッドや響き線のセットアップが必要ですから、チューニングをする際もその奏法でどんな反応をするかを必ず確認してください。大きな音だけでチューニングを済ませてしまっては意味がありません。
1曲の中で音に圧力が必要な場合が、もちろん部分的にはありますが、基本的には力まずに脱力した状態で演奏する事が理想ですし、これが一番難しい事です。以前チェロの公開レッスンを観に行った時に、その先生も「脱力が大事、でも自分も出来ていないから、脱力って永遠の課題ですね」って言っていました。きっとどの楽器でもそうなんでしょうね。
例えば、Iのところですけど、フルートソロは力強く鋭く吹きませんよね?その後ろでスネアドラムが歯切れよく鋭く演奏して合うと思いますか?フルートとアンサンブルしようと思ったら答えが見えてくるのではないでしょうか。Kからも力を入れ過ぎずに「脱力」して楽器を響かせる事を意識してください。
Ⅱ ポロネーズとアリア~吹奏楽のために~/宮下秀樹
発音が良いからなんだと思いますけど、特に中高生は頭が赤いフェルトの硬いティンパニマレットを選択する事が多いと思いますが、そこまで硬いマレットですとどうしても力んだ腕の振り方になってしまい、大きい音は出ていても豊かな響きでは無くなってしまいます。そこまで硬いマレットである必要はありませんので、「叩く」ではなく腕の重さを利用して「落とす」イメージで楽器を豊かに鳴らす事を常に心掛けてください。そうですね、例えば自分が「杵」を持って餅つきをする場面を想像してみてください。杵を持ち上げて、杵の重さを利用して落としますよね?上手く落とせた時に「ペタッ!」とか「ペターン!」という気持ちの良い音が鳴るんであって、その音が「ゴショ!」とか「ベチャ!」っていう変な音になってしまったら杵の重さを上手にコントロール出来ていないっていう事ですよね。そのようなイメージで腕の重さを上手にコントロールして楽器を鳴らす練習をしましょう。音の重さをイメージする事も大切です。落ちるスピードが同じであっても、ゴムボールとボウリングボールとでは重さが違いますよね。その違いを腕の使い方やマレットの選択で表現しようとすると、この曲の冒頭では硬さでは無く重さが必要だという事を理解していただけるのではないかと思います。最近は竹シャフトのマレットを使う方が多くなっていると思いますが、ウッドシャフトのマレットを使用するのも有効な方法だと思います。
他の楽器も同じです。冒頭は音量では無く重さを意識しましょう。音量だけ大きくなってしまうと煩くなりますし、小さい音量だと浅い音になり易いのですが、Aの頭までは、音量に関係無く常に音の重さを意識すると良いでしょう。
Cからのカスタネットとタンバリンは、もちろんキレの良い演奏が良いのですが、小物楽器というのは良くも悪くも目立ちますので注意したいですね。管楽器の後ろに居るんだけどキレが良いっていうのがベストです。このような場合って管楽器とピッタリ合わせようとするのではないかと思うのですが、管楽器は同じ音量で正確に吹こうとしますよね?ここは寧ろカスタネットやタンバリンがこのリズムを効果的に演奏するニュアンスに、管楽器が合わせる方が曲の雰囲気が良くなるのではないかと思います。その為にはポロネーズのリズム感や跳ねる感じを勉強してください。先程と同じで勉強になる音源は沢山あります。例えばショパンの軍隊ポロネーズ、英雄ポロネーズとか、オーケストラだったらチャイコフスキーのエフゲニー・オネーギンも参考になるのではないかと思います。
Ⅲ レトロ/天野正道
コンガのグリッサンド奏法(ムースコール)、担当する方は大変ですよね。指を壊さないように気を付けてくださいね(笑)最近即興演奏をする機会があってこれを入れようと思ったのですが、全然引っかからなくて「スー」って(笑)
(※この後、タンバリンの指ロールなど、しばらくオジサン2人による手カサカサ、ひび割れトークが続きました)
この曲は楽しむしかありませんよね。レトロという曲名の通り、敢えてこのような曲の作りにしているのですから、それを楽しみましょう。
曲目解説に「もし可能なら一度はE.Bassを入れて練習して欲しいです。」とありますが、一度なんて言わずに、何度もやった方が良いです。何十人の合奏の中では無くて、4~5人のバンドを組んで少人数で。ドラムとパーカッション、ベースは大変だけど毎回お付き合いしてあげて、そこに管楽器が数人ずつ交代で入るんです。バンドが10個ぐらい出来て、それぞれのグルーヴがあって、それがひとつになって合奏になるっていう感じです。グルーヴを感じるための練習ですから、本来のパートが2番とか3番でも、その練習の時は1番(メロディー)を吹いたって他のパートのメロディーを吹いたって良いじゃないですか。ベース奏者が居なかったら、この曲を選んだ顧問の先生に頑張って練習していただきましょう(笑)
ドラムとパーカッション、ベースがイニシアチブをとって常に同じグルーヴで演奏して、そこに管楽器が乗っかる感じです。ひとつのチームが終わったら「はい次の方達~」っていう感じで、間違えたって良いから何度も繰り返してとにかく楽しみましょう。
吹奏楽のラテンパーカッションの楽譜って適当なのが多いじゃないですか。以前、娘が通っている小学校が発表会でエル・クンバンチェロを演奏する事になったんですけど、正しく演奏して欲しかったので指導に行ったんです。奏法を教えたら生徒たちがすごく興味を持ってくれて、実際の演奏を聴いたりして一生懸命練習していました。パーカッションは譜面通りに演奏する事が正解では無い場合がありますので、楽譜は正しく書いて欲しいし、指導者は正しく指導してあげて欲しいですね。この曲は記号なども使ってとても細かく指定してありますので、譜面通り練習すると良いですね。
特に中高生はこういったグルーヴを経験する機会が少ないので、演奏する課題曲が他の曲だったとしても、この曲も練習したら良いと思いますよ。グルーヴを楽しんでから「じゃあ課題曲1 やります」でも良いじゃないですか。色々なジャンルの曲を経験してみてください。
Ⅳ マーチ「ペガサスの夢」/ 水口透
冒頭からヘミオラが出て来ますが、このリズムは曲の途中やサビの部分などで効果的に使われる事が多いですよね。ヘミオラの三拍子を意識して主張するのでは無く、「ハチロク」のリズム感のままテンポ良く重くならないように気を付けましょう。
Dの前2 小節の二連符も同様で、主張するのでは無くアッサリと。管楽器にはスタッカートが付いていますが、同じような感じで重くならないようにしましょう。
グロッケンのマレットはあまり硬くないプラスチックヘッドぐらいの方が綺麗なメロディーが生きてきます。
Cのスネアドラムのリズムパターンが何度か出て来ますが、これもリズムが後ろになって重くならないように、「リズム」と考えるよりも「歌」というイメージで、「ハチロク」らしさを損なわないように気を付けましょう。
Eの部分のグロッケンはしっかり聴こえるように叩いてしまうと、特に高音のピッチが低く聴こえてしまいがちです。この部分をトライアングルで演奏するイメージで軽いタッチにするとそのような現象が軽減されますので、ハーモニーに溶け込むように演奏しましょう。
■植松 透プロフィール
NHK交響楽団首席ティンパニ奏者。東京都出身。N響海外派遣員としてベルリンに留学、R.ゼーガースのもとで研鑽を積む。オーケストラ活動の傍ら国内外の音楽祭、ワークショップにも多数参加。ソリストとしても武満やグラスの作品などN響と度々共演、N響定期公演年間ベストソリストにも選出された。
先日も愛知室内オーケストラとウォーカー、ドアティの打楽器協奏曲(共に日本初演)を共演。また幼児と音楽の関わりを打楽器の視点から捉える研究も長年続けており、主宰する「たいこアンサンブル・トムトム」では全国の幼稚園や特別支援学校、被災地などを訪れ、子どもたちとの音楽遊び活動を展開している。ピタゴラスイッチ、ムジカピッコリーノ、音楽ブラボーなどETVの教育番組にも数多く出演。現在は埼玉県ときがわ町の山あいに居を移し、豊かな自然の中で地域の人々や子どもたちとの交流を通して楽しく心豊かな音楽作りを日々模索している(稲作もしています…無農薬・手植え・手刈り!)。