世界の打楽器部屋から
世界の打楽器部屋から vol.15|スイス・ジュネーブ 深野紋加

世界各国で活動されている日本人のみなさんを「打楽器」というキーワードで、それぞれの生活スタイルや現地の情報など、その土地目線でレポートしてもらう紀行シリーズ第15回目。
今回は現在、Haute Ecole de Musique de Genève Département Musique et Mouvement / ジュネーヴ州立高等音楽院<動きと音楽>学科で音楽教育・リトミックを学んでいる深野紋加さんにご寄稿いただきました。
※この記事は2021年4月発行「JPC 168号」に掲載されたものです。
現地情報
- 国:スイス
- 地域:ジュネーブ
- 生活言語:フランス語
- 日本との時差:8時間(サマータイム時7時間)
JPC 会員の皆様初めまして、深野紋加と申します。
私は国立音楽大学打楽器科卒業の数年後、スイスのジュネーヴに渡りで音楽教育・リトミックを勉強しています。
この度はご縁があってこちらの連載に寄稿させていただくことになりました。
現在、私は打楽器奏者でも打楽器科の学生でもないのですが、ここジュネーヴでの学生生活やリトミック教師の世界での打楽器事情についてお伝えできたらと思います。
幸い、こちらの教育機関ではコロナの影響を受けず対面式でほとんどの授業を受けられている状況です。日本の状況も、一刻も早く終息しみんなで音楽を共有できる時間が戻ってくること願っています。
●ジュネーヴでの生活
私はスイス・ジュネーヴ州立高等音楽院《 音楽と動き》学科、修士課程で勉強しています。
この学科の学生たちは主にダルクローズ・リトミックの教師を目指しており、世界各国からの留学生が多いです。

学校の建物内では、子供のリトミックソルフェージュのクラス、お年寄りのためのリトミックのクラスが開かれていて、音楽と活気に溢れています。私たち学生はそれを聴講・実習しながら、ダルクローズメソッドを学んでいきます。
それに加えてピアノのレッスン・即興・ソルフェージュ・リトミック・キーボードハーモニー・身体表現などの授業を受けます。(私の場合、第一楽器として打楽器の先生から実技レッスンを受けることもできました)
一般的な音楽大学の比べると少し違う授業内容なので、日本の方々は特に驚かれるかもしれません。
●リトミックの世界へ

大学を卒業して間もないフリーの打楽器奏者が演奏のお仕事だけで自活していくのは大変なことだと思います。演奏者でありながらほとんどの方は同時に指導のお仕事をされているのではないでしょうか。私は大学在学中から、また卒業後も特に、子供に関わるお仕事をいただく機会が多くありました。いただいたお仕事に対して、もっと自分に自信を持って、子供に喜ばれることがしたい、という思いが強くなっていきました。そのためにもっと自分を磨かなくてはと思い、リトミックと音楽教育の世界に飛び込みました。
打楽器を学び始めたばかりの頃は自分がこうなるとは予想もしていませんでしたが、今はこの選択をして良かったと心から思います。自分の知らない世界や、自分とは関係ないと思えることにも興味を持つことは、楽器を練習することと同じくらい大事なのだと、今になって思います。
●リトミックと打楽器
ここジュネーヴのリトミックのレッスンでは打楽器が大活躍しています。
レッスン室にはピアノはもちろん、ボンゴやコンガ等の打楽器が常設されています。先生は概ねピアノを弾いてエクササイズの伴奏をするのですが、メロディやハーモニーを除いた純粋なリズムを教える時など打楽器も多く活用されています。生徒一人一人にハンドドラムや小さな鉄琴を持たせてエクササイズをすることもあります。

しかし、リトミック発祥の地であるジュネーヴで教える熟練のリトミックの先生でも、残念ながら打楽器の本当の演奏の仕方を知りません。
子供のハンドドラムの叩き方や鉄琴のバチの持ち方を注意することもあまりありません。打楽器は叩けば容易に音がでるからという理由で多用されていますが、正しく扱われていないのが現状です。その状況をどうにか変えられないかと思うのですが、今の私ではまだまだ力不足です…しかし、打楽器を取り入れた自分なりのリトミックレッスンを模索しようと奮闘しているところです。
私が実習のときや代理講師として実際に子供たちに教えるときは、JPCで購入したミニジャンベとカホン(どちらの楽器も私と共に飛行機で海を渡りました)を頻繁に使います。
私が楽器を出した瞬間から、子供たちは目を輝かせて見つめてきます。どんな音がするんだろう、こんなに大きい音がするんだ、不思議な音だなあ…自分も触ってみたい…など子供たちの好奇心を一身に浴びる私の大切なこの2つの楽器は先生よりも人気者です。
今後も打楽器が音楽教育に与える計り知れない可能性を探っていきたいです。


深野紋加 / Ayaka Fukano プロフィール
千葉県出身、国立音楽大学打楽器科卒業。その後ジュネーブ州立高等音楽院に留学し学士過程修了。現在修士課程で勉強中。
毎夏日本に帰国する際は、ピアノ& 歌& 打楽器の「ぽかぽか」というユニットでリトミックを基盤とした参加型コンサートやワークショップを開催。


執筆者: 深野 紋加